堀江晶太×HONNWAKA88が語り合う『VRChat』の音楽シーン 情熱が“通貨”になる世界の歩み方

キヌ、オデガ、てれかす――堀江が注目する『VRChat』発アーティストたち

――堀江さんがいま注目している、『VRChat』で活動するアーティストやバンドを教えてください。
堀江:まず紹介したいのはキヌさんですね。『VRChat』の音楽シーンにおいて、常に第一線の表現力と空間演出で、総合的に圧倒しつつも、どこか儚さがあるのが特徴的なアーティストです。
すでに『VRChat』ユーザーから圧倒的な支持とリスペクトを得ている方だと思いますが、こんなすごいことをやっている人がいること、こんな世界があることを、もっと多くの人に知ってほしいです。

僕自身、音楽家としても、職人としてもすごくリスペクトしているので、「とりあえずキヌさんのライブは見てください」と、これから『VRChat』に触れる人には強くオススメしたいですね。音楽であり、映像であり、空間ごとジャックするアトラクションのようでもある、あの表現をぜひ一度は見てほしいです。
次に、HONNWAKA88くんが所属しているロックバンド「OFFICE DESTRUCTION GIRL(オデガ)」を紹介したいです。半年くらい前から活動を始めたバンドで、オルタナ的な音楽性とサウンドと、童謡をモチーフにした人懐っこいメロディーが特徴です。
音楽性だけでなく、イラストやアートワークもできるメンバーが、ペンツール「QvPen」を使って、真っ白でなにもない空間に子どもの落書きのようなステージを描き、そこでライブをするようなユニークな表現手法が持ち味ですね。『ドラえもん のび太と雲の王国』のようなノリです。MVも自家製で、面白いアングルから撮影した映像を持ってきています。
HONNWAKA88:自分たちが好きなのは、一般的な優秀さやクオリティは追求せず、アイデアありきで、少しいい加減でも抜けがあってもいいってスタイルなんです。子どもが裏山でやる秘密基地作りを、大人になってからまたやっているような創作に取り組んでいます。ここからここまでやっていいんだ、そういうバンドもあるんだ、と思える面白さを秘めたバンドなので、ぜひこれからも注目してください!
――ライブ映像も拝見してみましたが、クールですよね。「QvPen」などのお話もぜひ聞いてみたいです。
堀江:「QvPen」ユーザーの間でも、オデガは最近存在感が出てきているみたいです。あの界隈も面白いんですよね。眼前に現れる立体アートとしても興味深いし、ライブ中に絵を描くことができるインタラクティブ性もすごい。「QvPen」で絵を描くことで、イラストをやってみようと思うきっかけが得られる人がいるといいなとも思いますね。
堀江:最後に紹介したいのはてれかすさんですね。YouTubeにチル系の楽曲を投稿しているアーティストなんですが、音楽性がすごく豊かだなと感じます。
僕は、その豊かさはある種の”貧しさ”からきているのかなと感じています。金銭的な意味ではなく、一人ぼっちでワンルームで過ごしていて、大きな絶望や不安があるわけじゃないけど、少し息苦しさは感じている。そんな感情を、優しく、生々しく表現するのが上手だなと感じています。
MVも『VRChat』で作っている点も、その方向性にマッチしているように思います。『VRChat』はみんなでワイワイと楽しむ場所ではありますけど、それぞれの小さな家の中にいる感覚も同時にあって、そのちょっとした孤独は少しずつみんなが共有していると思うんですよね。それゆえに、彼の音楽は押し付けがましくない共感を、結果的に呼んでいると思います。
『VRChat』上で彼と直接話していても、素朴な温かさを感じる人で、だからこそ等身大の絶望とともに、この場所で生まれた音楽だと感じるんですよね。無意識かもしれませんが、その感性の豊かさと、矛先の向け方がすごく上手く、アーティストとして尊敬しています。
情熱や面白さが“通貨”になる世界

――以前、「FZMZ」インタビューの際に、HONNWAKA88さんは「既存の文化をリスペクトしたい」と強くおっしゃっていたのが印象的です。その考えを持ったうえで、いま『VRChat』ではどのように活動されていますか?
HONNWAKA88:基本的には、呼んでもらったイベントのレギュレーションに準じることは徹底しています。思うところがあっても、“郷に入っては郷に従え”の精神で。イベントごとの手法やシステムは、環境から生まれたものもあれば、運営する人の想いや事情から生まれたものもあるはずですから、ならば一回はそれでやってみるようにしています。
その後、また呼ばれる機会があったときに、初めて「こんなアプローチもあるんじゃない?」と、伝えてみるようにしています。彼らが大事に作ってきた形式と、自分の音楽が混ざることにも面白さは感じますから。
『VRChat』は、上手にやることよりも、面白いことをやりたい気持ちが先行する場所です。金銭へのスタンスは人それぞれですが、基本的には金銭ありきでやらないことが、圧倒的に多いです。
とはいえ人と人がなにかを一緒にする時、なにかしらの“通貨”の授受は必要になります。この『VRChat』における“通貨”は、「情熱」や「面白さ」なんですよね。面白いと思う、協力したいと思える情熱や愛情がある、といった理由で、一緒にやってみようと思える世界です。
――自分もプライベートで「マシリア集会」を主催している中で、いろいろな人に開催に向けてお手伝いをしてもらっています。「いつもありがとう」と彼らに声をかけると、「文化祭みたい」「みんなで準備をするのが楽しい」と言ってもらえることも多いので、その気持ちはすごくわかります。
HONNWAKA88:そういった、ふさわしい“通貨”がお互いにちゃんと交換されていることは、自分も『VRChat』で誰かと一緒に何かをする上で、一番大切にしています。双方ともにやりがいを感じて、やってよかったと思えるものを受け取り、イベントが終わった後に「お疲れ!」と言ってねぎらうところまで行くことを、特に意識していますね。
堀江晶太とHONNWAKA88が今後『VRChat』でやりたいこと

――最後に、今後お二人が『VRChat』でやりたいと思っていること、あるいはこんな風に過ごしたいという思いがあれば、それぞれ教えてください。
堀江:連載1回目でも話しましたが、『VRChat』の世界の面白さを広めたいですね。内部の面白さや情熱はもっと観測されて、広がっていくべきですし、観測されるにふさわしい人たちもたくさんいる。
もちろん、闇雲に見つかればいいわけでもないので、それぞれの良さを残したまま見つかっていくといいなと思いますね。いま活動しているプレイヤー自身が「ちゃんと面白いことをやっていたんだ」と、胸を張れる瞬間が来てくれることを願っています。
そして、そんな人たちの姿を見て、誰かが「自分もやってみよう」と足を運ぶ場になることも願っています。諦めてしまったことを、もう一度やりたいと思う人たちにとって、『VRChat』は救いの場になるはずです。
HONNWAKA88:自分は、なでなで文化というすごいものへの理解と研鑽を重ねて、極めていきたいと思います!























