『スーパープリンセスピーチ』20周年に“傘”ゲームの先輩を振り返る 隠れた良作『ホーリーアンブレラ』のススメ

隠れた良作『ホーリーアンブレラ』のススメ

ピーチ姫が傘の相棒と冒険する10年前、少年が傘で異世界を救っていた

 2025年10月20日は『スーパープリンセスピーチ』が発売されて20年を迎える日である。

『スーパープリンセスピーチ』
© 2005 Nintendo

 ニンテンドーDS向けに発売されたこのタイトルは、「スーパーマリオ」シリーズのヒロインとして知られるピーチ姫の初主演作でもある2Dアクションゲームだ。喜怒哀楽の「きぶん」をコントロールしながら困難を乗り越えていくゲームシステムが目玉だが、もうひとつの見所として「カッサー」なる傘を模した相棒キャラクターを用いたアクションがあった。

 剣のように振って敵を攻撃したり、ジャンプ中に滑空したり、船の代わりにして水面を移動するといったものである。元々、ピーチ姫は『スーパーマリオRPG』(スーパーファミコン、Nintendo Switch)などにおいて、傘(パラソル)で戦う姿を見せていたため、武器として選ばれるのは自然な流れとも言えた。

 また、傘を武器にするという発想そのものは、主に幼少期に傘を用いたチャンバラごっこの遊びをしたことのある人なら、比較的思いつきやすいものとも言える。そんな幼少期の発想を具現化させたゲームとして、『スーパープリンセスピーチ』はまさに象徴とも言える作品……かと思いきや、実はそうではなかったりする。

 と言うのも、『スーパープリンセスピーチ』の10年前に“先輩”とも称せる作品が存在したのだ。しかも、その先輩は発売時期までほぼ一緒で、ちょうど節目(30年)を迎えたという奇妙な偶然まで持ち合わせている。

『ホーリーアンブレラ』

 その先輩とも言える作品が『ホーリーアンブレラ ドンデラの無謀!!』(以下、ホーリーアンブレラ)なるゲームだ。『スーパープリンセスピーチ』の20周年が注目されやすい昨今だが、あえてここで、傘で戦うアクションゲームの先輩たるこの作品を振り返ってみたい。

 いささか便乗気味なのは否定しないが、このゲーム、知名度の低さがとても勿体ない良作なのである。

聖なる傘を手にした少年が、異世界で悪の軍団の野望阻止に挑む!

 『ホーリーアンブレラ』は1995年の9月29日にスーパーファミコン用ゲームソフトとして発売されたタイトルだ。販売元はナグザット。1988年に設立された加賀電子の子会社で、家庭用ゲーム機事業を専門としていたメーカーである。

『ホーリーアンブレラ』

 1995年当時の代表作としては『精霊戦士スプリガン』(PCエンジン)『サマーカーニバル'92 烈火』(ファミリーコンピュータ)『超魔界大戦! どらぼっちゃん』(スーパーファミコン)などがある。2015年12月末に諸々の事情から解散し(※1)、2025年現在は存在しない。

 制作にはアースリーソフト、モト企画(現サード・ライン)の2社も参加。キャラクターデザイン全般に関しては、漫画『まじかる☆タルるートくん』などで知られる漫画家の江川達也氏が担当している。

 ちなみにモト企画も漫画家・本宮ひろ志氏が代表を務める会社で、カプコンのアクションゲーム『ストライダー飛竜』や本宮氏の代表作である『天地を喰らう』のゲーム版(※2)制作に関与したことで一定の知名度がある。『ホーリーアンブレラ』での関わり具合については攻略本、インタビューなどの公式資料が存在しないため定かではないのだが、いずれにしても妙に豪華な布陣で作られたゲームであることは概ね察せるはずだ。

『ホーリーアンブレラ』

 そんな本作のストーリーは、平たく言うと異世界転移モノである。主人公は小学5年生の少年「ケンイチ」(デフォルト名。ゲームスタート時に別の名前を設定することも可能)。ある日、彼はにわか雨に遭遇した学校からの帰り道で拾った不思議な傘に導かれ、異世界「マージェンス」へとやってきてしまう。

 マージェンスは全大陸の征服を目論む「ドンデラ大王」率いる「ドンデラ軍団」の脅威に直面していた。元の世界に戻りたいケンイチだったが、成り行きで件の騒動に巻き込まれた結果、不思議な傘を手にドンデラ軍団と戦うことになる。果たしてケンイチはドンデラ軍団を倒してマージェンスに平和を取り戻し、無事、元の世界に戻れるのか……これが大まかなあらすじだ。

『ホーリーアンブレラ』

 ゲーム内容自体はステージクリア型の2Dアクションだが、システム全般に多数のRPG要素を盛り込んでいるのが特徴である。特殊なアイテムを手に入れると攻撃力と防御力が上昇したり、新しいアクションが可能になるという成長要素を筆頭に、武器装備、ストック型のサポートアイテムなどが揃っている。

『ホーリーアンブレラ』

 ステージにもメインのアクションステージとは別に、RPGを模した見下ろし視点の「町ステージ」が存在。前述のサポートアイテムを購入したり、宿屋で体力の全回復および途中経過の記録(セーブ)を実施するという、いかにもなことができる。しかも、町中には住民もおり、彼らに話しかけてストーリーを進めるために必要な情報集めが求められる場面も。果ては壺、タンスといったマップ上にあるモノ(オブジェクト)を調べると、お金やアイテムが手に入る仕掛けまで網羅されている。

▲仲間のひとり「サキ」は壁キック(三角跳び)とスライディングを特技とする。
▲仲間のひとり「サキ」は壁キック(三角跳び)とスライディングを特技とする。

 ほかにゲームが進むと仲間が加入し、L/Rボタンを押すと切り替わって直接動かせるようになる要素もある。仲間はそれぞれ固有の特技を持っており、ステージによってはそれを活用して障害を乗り越えることも試されてくる。

 そして、紹介が前後したがケンイチの武器は傘。これを剣に見立てた近接攻撃を仕掛けていくのが基本スタイルとなる。ある程度、ゲームが進むと滑空のほか、属性の異なる傘が使えるようにもなる。

 氷の傘なら特定の場所に足場を作り出す、風の傘なら敵を倒した時に持って投げ飛ばせる「風の球」を作り出すなどが一例だ。傘らしさと言うと首を傾げる要素なのは否定しないが、いかにもゲームらしい荒唐無稽さが発揮されたアクションに仕上げられている感じである。

アクションとRPGのイイところ取りとも言える完成度の高いゲームデザイン

 若干、イロモノ臭も漂わせている本作であるが、これが意外にもなかなか完成度の高い良作に仕上げられている。「スーパーファミコンの隠れた良作を挙げろ」と問われたら、筆者の場合、迷わずピックアップするほどだ。

『ホーリーアンブレラ』

 何が魅力なのかと言えば、ステージクリア型の2DアクションとRPGのよい部分を適度に選んでブレンドさせたその内容である。特にRPG要素がいいアクセントになっており、本編を進めるたびに主人公が強くなったり、仲間の加入によって戦術の幅が広がるといった遊び心地に変化を付ける仕掛けが豊富なのもあって、最初から最後まで退屈するヒマがない。

 テンポの良さも特筆に値する。前述のRPG要素と町ステージでの情報収集といった特徴からは、既に通過したステージへと戻ったり、町中を右往左往する展開が頻繁に生じる内容をイメージするかもしれない。事実、その手の探索要素や戻ることが要求される場面はあるにはあるのだが、数十分から数時間も右往左往する類の複雑さは皆無。

▲仲間のひとり(一匹?)「ボント」。2段ジャンプと狭い隙間を通れる小さな身体が特徴。

 基本はステージクリア型の2Dアクションとして、道筋のハッキリした地形を進んで、ステージ最後に待ち受けるボスを倒す流れを主軸に展開されていくのだ。ゆえに行き先が分からなくなって行き詰まるみたいなことも滅多に起きない。仮に起きたとしても、町ステージの住民に片っ端から話しかければアッサリ解決してしまうほどである。

『ホーリーアンブレラ』

 さすがにボス戦でトライ&エラーを繰り返すようなことは、中盤を越えると何度かあるが、全体的にはスムーズに進めていける設計だ。難易度もアクションステージでは若干、細かな操作技術が試されたり、ボス戦も相手の攻撃パターンを見切った立ち回りが要求されたりと、なかなか歯応えがあるが、救済措置も万全。

 サポートアイテムである体力全回復の薬、1回限りの復活を許す宝玉を町ステージのお店で購入し、保険の適用がある状態で挑むことができるのだ。もちろん、あえてそれらに頼らず遊ぶのもよし。プレイヤーの選択と判断次第で難しくも、易しくもできるゲームバランスが確立されているため、理不尽さはまるで感じさせない仕上がりである。

 一見すると地味ではあるが、こういった細かな作り込みと工夫が随所で成されていて、非常に遊び心地のよい内容にまとまっている。加えて「そんな所まで作っているの?」と、驚かされる部分もあまた存在する。

『ホーリーアンブレラ』

 象徴的なのが町ステージだ。壺やタンスなどのモノを調べるとお金やアイテムが手に入ったりする以外にも、ストーリーの展開に応じて住民のセリフが変化したり、人数が増減したりといった仕掛けまで凝らされている。住民たちにもバリエーション豊かな歩行および顔グラフィックを用意。しかも、多少ながら表情差分まで用意している。

 民家内部の作り込みも凄い。生活感が徹底的に表現されていて、「ここで人が暮らしている」という実感を与えてくれるのだ。誇張抜きに世間一般のRPG作品を上回るどころか、2025年現在でも滅多に見られないレベルの凝り様で、人によっては若干の衝撃を受けるかもしれない。

『ホーリーアンブレラ』

 前述した顔グラフィックに関しては、ケンイチを始めとする主要キャラクターにも豊富な差分を用意。変顔から真顔まで盛りだくさんで、デザインを担当した江川氏の持ち味が存分に発揮されている。特に本編で登場するドンデラ軍団の幹部勢と、大ボスのドンデラ大王はデザインもさることながら、キャラクターも見事に立っており、会話のやり取りを見ているだけでも楽しい気持ちになってしまうほど。

 ストーリーもギャグテイストで若干駆け足な場面もあれど、驚きの展開が複数用意されていたり、意外な伏線回収もあったりして見応えがある。とりわけ終盤に判明する“某重要人物のヒミツ”には、おそらく開いた口が塞がらなくなるだろう。いい意味で。

 もちろん、難点や惜しい部分もある。主人公のアクションが最終的に万能になりすぎて仲間が空気になってしまったり、中盤以降のボスが繰り出してくる攻撃で受けるダメージが重い(※相手によっては1発受けるだけで体力ゲージのハートが5~6個分減ったりする)、ボス戦のない道中ステージが短くて平坦としているなどが一例だ。

『ホーリーアンブレラ』

 ほかにゲーム開始時はダッシュのアクションができない関係で、スローテンポな進行になるのも人によってはストレスが溜まる部分だ。ただ、あくまでもそれは序盤に限った話。途中でダッシュが解禁されてからは一気にテンポがよくなる。

 そんな惜しい部分もあれど、ゲーム全体の完成度は高く、自然にまとまったゲームシステムとゲームバランス、そして細かな作り込みの数々で楽しませてくれる良作に仕上がっている。

 あまり名の知られていない背景もあって、警戒心を抱いてしまうのも無理はないが、アクションゲーム好きならぜひ試してみてほしい1本である。とりわけゲームシステムのまとまり具合は、2025年のいまでも色あせないものがあるので要注目だと力説しておく。

この傘ゲーは忘れ去られていくだけなのか……?

 ……と、推してみたが、本作は現行のゲーム環境向けには復刻されていない。2025年のいまもなお、スーパーファミコンのオリジナル版しか、遊ぶ選択肢はないのである。しかも困ったことに、いまでは箱パッケージと説明書付きに限らず、ROMカートリッジ単品でも中古の価格が高騰してしまっており、気軽に手を出しにくくなってしまっている。

 復刻の可能性についても、販売元が解散済みで、制作に他社や著名人が絡んでいる実態から一定のハードルが存在することが察せるため、今後、実現するかは不透明だ。

『ホーリーアンブレラ』

 唯一の希望は、本作の制作に携わったナグザットの一部スタッフが「MECANIC ARMS」こと甲南電機製作所なるゲームメーカーを後年に設立し、2025年現在は業務提携したシティコネクションと一緒にゲーム開発を現役で続けていることだろう。

 そのシティコネクションも、多数の旧作タイトル復刻に取り組んでいる実態があるため、僅かとはいえ希望が持てる。だが、繰り返しになるが、前述の版権絡みのハードルなどから実現するかは全くもって読めない。このまま、30年前に存在した知る人ぞ知るゲームとして忘れ去られていく運命を辿る可能性も十分にあり得る。

『ホーリーアンブレラ』

 そう悲観的になる現実があるにせよ、本作を何度か周回するほど楽しんだひとりの人間として、この良作が存在したという足跡を本記事を通して残したく思う。奇しくも、同じく傘を用いたアクションが特徴の『スーパープリンセスピーチ』の発売から10年前に存在した、先輩とも言えるこの作品を。

 しかし、昨今は映画『キングスマン』がヒットした影響もあり、傘の武器と言えば仕込み銃みたいなイメージが強くなった印象だ。

『Gunbrella』
© 2023 Devolver Digital Inc. All Rights Reserved

 実際に大ヒットタイトルである任天堂の『スプラトゥーン』では「スパイガジェット」なるまんまなブキが登場したり、それとは別に同映画に多大な影響を受けているのが察せる『Gunbrella』なる傘銃で戦うアクションゲームも誕生している。

 逆にピーチ姫は新たな主演作『プリンセスピーチ Showtime!』にて、傘を手放してしまった。そもそも、傘を近接武器として扱う姿自体が議論を呼ぶのもあると思われるが(あえて言及するが、現実で傘を武器として振るうのは言語道断の行為だ)、滑空のアクションだったり、盾代わりできる特徴など、独自の強みと持ち味を持っているのも事実だ。

Hellbrella | Launch Trailer

 直近にも『Hellbrella』なるローグライトアクションゲームが誕生したりと、いまも緩やかに登場している傘に着目したゲームたち。『ホーリーアンブレラ』と『スーパープリンセスピーチ』、そしてさらに昔の存在たる『パラソルスター』(※3)などの復刻もそうだが、かつての先輩たちとは違った可能性を突き詰めた“傘ゲー”も今後、色々出てきてほしいなと思う昨今である。

参考

※1 加賀クリエイトが2015年12月31日をもって解散したことを発表(ファミ通.com)※2016年1月6日報道
https://www.famitsu.com/news/201601/06096727.html

※2 アーケード、ファミリーコンピュータ(ファミコン)、ゲームボーイ、スーパーファミコン向けに計6作品が発売。そのうちアーケードの2作『天地を喰らう』『天地を喰らうII 赤壁の戦い』は『カプコン ベルトアクション コレクション』『カプコンアーケードスタジアム』の現行機向け移植版も発売中(※『カプコン ベルトアクション コレクション』では『天地を喰らうII 赤壁の戦い』のみプレイ可能)

※3 1991年2月15日にタイトーより発売されたPCエンジン向けアクションゲーム。「バビー」および「ボビー」の主人公を操作し、パラソルを開閉しながらステージ攻略に挑む作りを特徴とする。同等の特徴を持った派生作(関連作?)として、2003年にフィーチャーフォン向けに配信された『スピカアドベンチャー』があり、こちらはNintendo Switchダウンロードソフトとして2024年に復刻している。
https://store-jp.nintendo.com/item/software/D70010000084941

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