マリオがリンク、カービィ、果てはロックマンにも変身できた初代『スーパーマリオメーカー』の“伝説”に思う

9月13日をもって『スーパーマリオブラザーズ』が生誕40周年を迎えた。
1985年にファミリーコンピュータ(ファミコン)で発売されたこの作品は、2Dアクションゲームに計り知れない影響を及ぼした名作にして、後のファミコンブームおよびゲーム文化の醸成に貢献した金字塔だ。
9月12日に放送された「Nintendo Direct 2025.9.12」では、そんな40周年にちなんだ様々な催し物、マリオ関連タイトルの新作も発表された。
元々、『スーパーマリオブラザーズ』のアニバーサリー企画は過去にも何度か実施されている。そのため、今回の40周年も、何らかの企画が組まれるとあらかじめ予想していたファンも少なくなかったと思われる。
今回もそうだったように、アニバーサリー企画では関連タイトルの新作や新展開が何かしら発表される。そんな過去、何度かあったアニバーサリー企画に絡んだタイトルのなかには、2025年をもって発売10周年の節目を迎えたものもある。Wii Uタイトルの『スーパーマリオメーカー』だ。

『スーパーマリオブラザーズ』を始めとする4作品のスキンを下地に、自分だけのオリジナルコース作りを楽しめる「2Dマリオメーカー」とも言えるクリエイトツールである。2016年にはニンテンドー3DS版も発売されたほどのヒット作だ。
2025年現在はNintendo Switchで発売中の続編『スーパーマリオメーカー2』に代替わりし、こちらはネットワークサービスの終了およびダウンロード版の販売終了で、完全に引退済みとなっている。
それゆえ、いまではソフトがあってもローカル限定でしか遊べないのだが、この初代『スーパーマリオメーカー』は改めて見ると、『スーパーマリオブラザーズ』というゲームと、アニバーサリー企画の歴史にひとつの爪痕を残したタイトルのひとつだったように思える。
なぜなら、「二度目はない」と言っても過言ではない試みに取り組んだ作品だったからだ。同じことは、35周年記念作品にしていまや幻となった『スーパーマリオブラザーズ35』にも言えるが、『スーパーマリオメーカー』は本当に「二度目はない」と言えるものだったと、続編では丸ごとカットされた“独自要素”を見ながら思うのである。
スマブラ並みのオールスター仕様に加え、コレクター魂をくすぐる仕掛けも魅力的だった「キャラマリオ」
そんな「二度目はない」の象徴で、続編からカットされた要素というのは「キャラマリオ」である。
キャラマリオとは『スーパーマリオブラザーズ』のスキン専用として用意された要素で、ハテナマークが描かれた特殊なスーパーキノコ「ハテナキノコ」を取得することで、マリオが別のキャラクターに変身するというものである。

基本の仕組みは従来のスーパーキノコと同じで、マリオのパワーアップの一種としての扱いになっている。そのため、敵やトラップに接触すれば変身が解除され、元のマリオに戻ってしまう。再び変身するには再度、該当のアイテムを入手する形だ。
そんなキャラマリオの何が凄かったのかと言えば、変身可能なキャラクターのバリエーションとその数である。なんとマリオシリーズのキャラクターに限らず、『ゼルダの伝説』『星のカービィ』『メトロイド』といったほかの任天堂作品のキャラクターにも変身できるという、『大乱闘スマッシュブラザーズ』(スマブラ)を彷彿とさせるオールスター仕様になっているのだ。

しかも、その数にして99種類以上。最初は一部のキャラクターにしか変身できないが、ネットワークサービス上へプレイヤーが投稿されたオリジナルコースの連続攻略および完走に挑む「100人マリオチャレンジ」を始めとするモードの攻略、周辺機器「amiibo(アミーボ)」を使うことで変身可能なキャラクターが増えていく仕組みになっている。
amiiboへの対応が物語る通り、変身できる他作品のキャラクターは『大乱闘スマッシュブラザーズ for Nintendo 3DS / Wii U』に準じている。そのため、同作に参戦している任天堂作品のキャラクターにはすべて変身可能。「ロックマン」に「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」、「パックマン」といった他社作品のキャラクターにも、である。(有料DLCで追加された一部のキャラクターは除く)

単に変身できるだけで終わらず、ジャンプの効果音、穴への落下ミスおよびゴール時の音楽、そして十字キー上を入れた時のポーズが変わる仕掛けが凝らされていたのも大きな見所。とりわけ音楽は、ちゃんとそれぞれのキャラクターの原作および人気作品の楽曲をチョイスするという、ファンの心を大いにくすぐるサービスがなされている。
音楽にまつわる仕掛けはマリオシリーズのキャラクターたちも同じで、ルイージなら『ルイージマンション』の楽曲、ワリオなら『スーパーマリオランド3 ワリオランド』の楽曲と効果音がチョイスされている。

ほかにピーチ姫とキノピオは『スーパーマリオUSA』、クッパは『スーパーマリオワールド』、カートに乗ったマリオなら『スーパーマリオカート』から効果音と音楽をチョイスするなど、元を知る人なら「ですよね~」と納得すること請け合いだ。
このような個性付けもあって「キャラマリオ」には全種類を集めたくなるコレクター魂をくすぐる側面もあり、シングルプレイ用のやり込み要素としても機能。コース作りに興味がない人でも、キャラクター収集にフォーカスした2Dマリオの新作として楽しめる売りを付与していたのである。
アップデートで追加された「二度目はない」伝説的コラボレーションの数々
デフォルトでも100体近くのキャラクターを用意していたキャラマリオだが、その数は発売後も段階的に拡充されていった。
『スーパーマリオメーカー』は2015年9月10日の発売後も新機能の追加やシステム改善を図る定期的なアップデートを実施。そのアップデートにはキャラマリオの新種追加もあったほか、特別なキャラマリオの提供も行われた。
特別なキャラマリオは「イベントコース」なる期間限定の特別コースをクリアすることで獲得可能。しかも、そのキャラマリオというのがまさに「特別」という言葉に相応しい驚愕の面々が揃っていた。最も象徴的なものとしては「有野課長」がある。

お笑いコンビ・よゐこの有野晋哉氏が懐かしの名作ゲームに挑戦する人気ゲームバラエティ番組『ゲームセンターCX』とのコラボレーションコースをクリアすることによって入手できたキャラマリオだ。
他のキャラマリオと同じく、変身すればジャンプの効果音、音楽までちゃんと変わる仕様。しかも、いずれも有野氏本人のボイスを活用したもの。特にゴールBGMは、『スーパーマリオブラザーズ』のゴールBGMに有野氏が歌詞を付けて歌うという、特別にも程があるもので、『ゲームセンターCX』のファンにはたまらないものになっていた。
もうひとつの象徴的なものでは『スーパーマリオくん』。小学館の月刊漫画誌「コロコロコミック」で2025年のいまも連載中の「マリオ」シリーズを原作とした長寿漫画『スーパーマリオくん』のマリオに変身できるキャラマリオだ。

こちらは見た目のみが変わる仕様で、音楽と効果音は『スーパーマリオブラザーズ』と変わらない。だが、作者の沢田ユキオ氏が描いたマリオくんの姿で『スーパーマリオブラザーズ』の世界を歩き回れるだけでも、漫画を知る人ほど感慨深くなるキャラマリオになっている。何気に原作のゲームと連動したことがなかった同漫画としては、初めてにして待望のコラボレーションだった点でも注目に値する。
漫画に関しては、意外性の強すぎるコラボレーションもあった。それが「週刊少年ジャンプ」で連載され、テレビアニメ化もされたラブコメディ漫画『ニセコイ』とのコラボレーション。同作のヒロインである桐崎千棘(きりさき ちとげ)のキャラマリオが配信されたのである。

これは2016年開催の「ジャンプフェスタ2016」に由来するもので、同イベントでは『ニセコイ』の作者である古味直志氏が『スーパーマリオメーカー』で制作したオリジナルコースを遊ぶことができた(※1)。それにちなんで、千棘がキャラマリオとして選ばれた形である。
いまにして見ると、相当に浮いたコラボレーションであるが、こんな予測不可能な企画も実現してしまうのが初代『スーパーマリオメーカー』の面白いところでもあった。なお、千棘は見た目とジャンプ時の効果音を除き、ほかは『スーパーマリオブラザーズ』のデフォルトに準じる仕組みである。ジャンプ音だけ変わるのは“ジャンプ”出身のキャラクターだけに、といったところだろうか。

ほかにもイベントコースでは数多くのキャラマリオが提供され、最終的にアップデート追加追加も含めてその総数は140を超える膨大な規模に達した。
しかし、この魅力あふれるキャラマリオのシステムは、コンプリートにおける課題も抱えていた。そもそも、コンプリート自体が鬼門中の鬼門である。なぜなら一部のamiibo非対応のキャラマリオは「100人マリオチャレンジ」の最高難易度をクリアしなければ手に入らなかったのだ。

「100人マリオチャレンジ」は、難易度に応じたコースをアップロードされたものの中からランダム選出する仕組みとなっている。ゆえに最高難易度なら、難しいコース中心に選出されるのだが、裏を返せば極悪難易度のコースを選んでしまうことがままあるため、1周完走するだけでも相当な労力と運を要する設計となってしまっていた。
一応、クリア不可能なコースは絶対に投稿できない決まりはあったが、逆に超人的な操作技術を駆使することでゴールできるコースは投稿できてしまう。ゆえにそれがコンプリートにおける最大の障害となり、プレイヤーのやる気を著しく削ぐ要素になっていた。まだコースの投稿が少ない時を狙わなければほぼ無理とも言える仕組みは、さすがに一考の余地があったと言えるだろう。

だが、何より深刻だったのはアンロックに無条件でネットワークサービスが強く結び付いていたことである。「100人マリオチャレンジ」も「イベントコース」も、基本的にオンライン接続環境下でのプレイが必須。ゆえに将来的にネットワークサービスが終了してしまえば、二度と獲得不能になってしまう。
そのため、オンラインサービス終了後の現在では、コンプリート自体が不可能な状況となってしまっている。amiiboでのアンロックに対応したキャラマリオならば辛うじて補えるが、他の条件が絡むキャラマリオの入手はもはや二度とできない 不可能なのだ。
こうした仕様もあって、キャラマリオはいまや完全に「二度目はない」一期一会なコンテンツとして幕を下ろしてしまっている。これはある意味、ネットワークと深く結びついたコンテンツの脆弱性と、それが失われる恐怖を如実に示す事例とも言えるだろう。




















