テクノロジーとアートで「音と人との距離を縮める」 『DigiWave POP UP 2025』に見た“サウンドの可能性と未来”

 台湾発のデジタルアート展覧ブランド「DigiWave」が展開する体験型エキシビション『DigiWave POP UP 2025』が、2025年10月4日〜16日に開催された。会場は東京・渋谷の『Shibuya Sakura Stage』内にあるイベントスぺース「404 Not Found」。

 「音と人との距離を縮めること」をひとつのテーマに、クリエイティブチーム「ULTRACOMBOS(叁式/サンシキ)」がさまざまなギミックを仕掛ける。来場者は会場内に配置されたアートインスタレーションを巡り、彼らが考える音と人の関係性と向き合う。

 それはさながら“音をめぐる探訪”のような体験で、個人的にもあらためて音の実存と効果について考えるきっかけになった。本稿では、1日目の模様をお伝えする。

それはゲーミフィケーションか? あるいは似て非なるものか……

 スマートフォンを片手にバーコードを読み込む。ブラウザ内で完結するアプリを起動すると、この空間内で一緒に旅をするアバターが出現。“ファントム”と呼ばれる浮遊体が我々をアート作品と結び付ける。

 チュートリアルを終えたあと、会場内のインスタレーションから音を抜き出す。それぞれのアイテムやコンテンツと結び付けられた五線譜を読み取り、自分だけの音のコレクションを作り上げてゆく。

 入ってすぐに目についたのは、メルクマールな発明品を時系列順に並べたテキストベースの作品。iPodやmp3ファイルが社会にどのような影響を与え、カルチャーを進化させてきたのかが文章で説明されている。

 つまり、まずコンテクスト(文脈)が提示されており、会場内のギミックはそれらを分解するような趣があった。アプリ内はSpotifyのプレイリストと連動しており、Aphex Twinの「Xtal」のようなコンシャスかつ画期的な意義を持つ楽曲がそれらのナラティブを補完する。

 さらに足を進めると、AKAIの『MPC2000XL』やRolandの『TR-707』が展示物として鎮座していた。いずれもヒップホップやアシッドハウス、ひいてはダンスミュージック全般を大きく発展させた機材で、コンテクストを紡ぐものでありながら「音」としての存在感を放っており、ここではその革新性をあらためて際立たせる。

 サンプリングミュージックやビートメイクの成り立ちについては、今回のアートインスタレーションにおいて極めて重要だった。これら2つの機材のほか、ミキサーやMIDIキーボードなどもアプリと連動しており、様々な「音」をそこから獲得できた。

 音に導かれて我々の行動が規定されてゆく様子は、さながらゲーミフィケーションである。『ポケモンGO』はAR空間上に出現するモンスターを捕まえることがメインコンテンツのひとつだが、その手前には“家の外へ出ること”がほぼ強制的な行動として設定されている。

 かつて私たちはバリヤードを捕獲するために横浜へ、トロピウスとの邂逅を果たすために横須賀へと赴いた。今回の『DigiWave POP UP 2025』でも、スマートフォンを片手に“自分だけの音”を求めてさまよい歩く。往々にして「音」は聴くものだが、この空間においては能動的に“捕まえに行く”ものだった。

 しかし仕掛け人である「ULTRACOMBOS(叁式/サンシキ)」の思惑はさらに根源的なところにあった。同チームのメンバーであるReng氏は今回のプロジェクトについて、「“生活のなかにある音”を一つひとつピックアップすることから始めた」と語る。

 外出や旅行といった意識的・能動的な行動よりもさらに前段にある音の存在に着目した。

 「台湾の展示会では作品を補助するためのヘッドホンなどをあえて用意しませんでした。それらが存在しないことにより、お客さん同士がコミュニケーションを取らないといけない状況が生まれます。音は音楽を成立させるだけでなく、時には人を繋ぐ場合もあるのです」(Reng氏)

神偷奶爸大視界全球首展 A Minions Perspective

(2019年に叁式/サンシキが手掛けた『ミニオンズ』のイベントの模様)

 また、日本の展示会で新たな発見もあったという。同氏は「コントロールパネル形式の音を組み合わせたコンテンツを用意したのですが、ある男女のグループが共同で演奏してたんです。1人はドラムを鳴らして、もう2人はベースやリードを担当するといった具合に。あとで分かったのですが、どうやら彼らはそれまで全く関わったことのない方たちだったんですね。コントロールパネルはひとり用コンテンツとして考えていたので、驚きでしたね。でもそれこそが私たちが目指していた音の姿でした」と振り返った。

 ひとりでもビートメイクを可能にしたのがMPCだが、それぞれのパートがバンド的に再分割される。テクノロジーの発展は音楽シーンにおいてさまざまな困難を解消してきたが、それを再構築・再解釈することにより見えてくるものがある。

 『TR-707』を眺めながら、あるひとりのパイオニアの顔を思い浮かべる。数年前、テクノの御大ジェフ・ミルズにインタビューできる機会に恵まれたが、彼は「新しさ」についてプリミティブな見解を示していた。

「『2001年宇宙の旅』(1968年)や『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年)を覚えているか?一方はエンディングで胎児をイメージとして用いて、他方は劇伴にトラッドな民族音楽を採用している。未来的なものを想像したとき、伝統や歴史に辿り着くことがある。僕はそこにヒントがあるような気がするんだ」

 スマートフォンの中でうごめく音のかけらに、あらためて耳を傾けてみる。筆者が集めてできた結晶体はAphex Twinらの「音楽」と比べると“名もなきかたまり”でしかない。しかし本展示会をあとにしたとき、このパーツの集合体が何か途轍もなく意味のあるものに感じられた。

 2週間後には忘れ去られるようなものだとしても、何らかの形で未来に繋がるかもしれない。そんな期待感がある。 

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