「日本一予約が取れない工場見学」を持つ製作所が作った、“ボタン押し放題”の施設とは?

「日本一予約が取れない工場見学」レポート

 2024年7月1日に島田電機製作所がオープンした「OSEBA」。OSEBAはその名から分かる通り「押すこと」をテーマにした遊びと学びの空間だ。ワクワク感をかき立てるこの施設は、ボタンを押せることが楽しいと、家族連れはもちろん、大人にも人気のスポットになっている。

 OSEBAのはじまりは「日本一予約が取れない社会科見学」としてメディアに取り上げられてきた島田製作所の工場見学ツアー。取材に応えてくれた同社の広報・小倉さんによれば、露出が少なかった自社の魅力を知ってもらいたいとして始めた工場見学が人気になったものの、通常の営業時間内で対応していたこともあり、ひと月9組程度の受け入れに留まっていたことから、常設の体験施設を立ち上げることになったのだという。工場見学ツアー時代はなんと当選確率1%という狭き門になっていたそうだ。

 筆者が取材に訪れた7月末時点ですでに8月分も満員となっており、9月分は少し空きがある状態だったという(最新の予約状況については公式WEBサイトを確認されたし)。すでに来場者数は2600名を超えているというOSEBA。オープンして間もないながら、注目度の高さを感じた。

見学は到着した瞬間から始まっている?

 OSEBAを訪れた際、一見すると工場の裏手のような場所から入ることになるので、はじめは少し緊張するかもしれない。まず入り口の内線で担当者を呼ぶところからスタートするのだが、この時点でボタンを押していることに気が付く。OSEBAの体験がすでに始まっていることを感じてドキドキする瞬間だ。

 開錠されると、階段を使って中に入るようにうながされる。三階分ほど登ることになるので、普段デスクワークばかりで運動量の少ない筆者は少し疲れてしまったが、登りきるあたりで「エレベーターが好きになった?」という文字が。

 そう、そもそも島田電機製作所は一般の人にとっては、工場見学でボタンを押せることで有名になった会社だが、元はエレベーターのボタンや意匠を作る会社なのだ。

 より詳しく説明すると、「昇降機業界をリードするエレベーター用意匠器具を製作する会社」とのことだ。ニッチすぎて、なにやら聞きなれないワードが出てくるが、陳列棚に並んでいるボタンの数々を見ているとよく分かる。どこかのビルやマンションで見たことのあるボタン・意匠器具がたくさん並んでいる。

 見学エリアに入る前のスペースでは、見学までの時間を過ごせるようテーブルと椅子が置かれていたり、特製のアクリルキーホルダー等が購入できる物販コーナーがある。このエリアはもともと社員のためのリフレッシュスペースだったという。

 現在もその名残で、エレベーターを再利用したミーティングブースや卓球台が置かれており、昼休みの時間には社員が利用することもあるのだとか。一応区切られているとはいえ、見学者と社員が同じ場所を共有するというのは面白い光景だ。

 OSEBAの見学エリアの入口はエレベーターになっている。エレベーターのボタンを押して見学エリアに行こう! ……ちなみに、入り口のドアは「引く」ではなく「押す」で開くタイプだ(ちょっとしたユーモアが憎い)。

ボタンを押せば「見学」が始まる

 中に入ると「ボタンを押せば何かがはじまる」というネオンサインが。これは社歌にも登場する、OSEBAのキーワードのひとつでもあるという。入ってすぐの空間はネオンサインのほかに、鏡と映像のデジタルアートを楽しめるスペースになっている。ここは記念写真を撮るのにおすすめなフォトスポットだ。

 フォトスポットを抜けると、いよいよOSEBAのメインとなるエリアへ。島田電機製作所の技術やボタンに関する展示が行われる「まなぶ」ゾーンと、実際にボタンを押して楽しむ「あそぶ」ゾーンに分かれており、どちらから見てもOK。

 まなぶゾーンは、「島田100年ヒストリー」「クラフトマンウォール」「エレベーター製品紹介」「モノづくりクイズ」のコーナーにわかれ、島田電機製作所の歴史や技術、ボタンの製造工程などを詳しく学べる展示が並んでいる。見学者はここで、普段何気なく使っているボタンがどのように作られているかを知ることができる。

 とくに「モノづくりクイズ」は面白い。エレベーターのボタンや素材に注目し、問題に沿った正しいものを選ぶクイズになっている。正解の品は同社の製品基準を満たしたもので、不正解のものは基準を満たさないもの……なのだが、難易度はそこそこ高く、よく問題を見て実物を確かめてもどれが正しいかわからないものも多い。同社の製品がいかに厳しい基準で作られているのかがわかるのと同時に、微妙な差異に気が付くために想像以上に熱中してしまった。

 ちなみに写真に映っている二つの金属ブロックは、片方はステンレスの塊なのでとても重たいが、片方は板を溶接したもので、中身が空洞なので軽い……というもの。「うそ!?」と思わず角をチェックしてみたが、どこをどう見ても溶接したものとは思えず、技術力の高さに見入ってしまった。

 クイズを通じて、エレベーターのボタンがはめ込まれるステンレスの板(板金)の加工の種類や、ボタンやライトに使用されるアクリルの磨きの度合いなど、業界にいなければおよそ知ることのなかった知識が身につくので、想像以上に面白い。人によっては大人の方が夢中になってしまうかもしれない。

 あそぶゾーンには島田電機製作所が「日本一予約が取れない社会科見学」と言われるまでになった立役者で、人気のアクティビティ「1000のボタン」がある。こちらは壁一面にさまざまなボタンが並び、どれも実際に押せる。多種多様なボタンがあるため、子供たちがボタンの前から離れないのだという。

 「警報ボタン」や押すと音が鳴るボタン、二人同時に押さないと反応しないボタンなど、子供たちが夢中になるというが、大人でも十分楽しくなってしまうほどにバリエーションが豊富だ。

 また、30秒間のボタン早押しを楽しめる「333 ハートビートボタン」も楽しい。30秒で押せるだけのボタンを押す、といういたってシンプルなアクティビティだが、シンプル故に面白い。それぞれ少し高さに差があったりして、見た目よりも難しい。

 聞くところによると、大人の見学者の平均が170個くらいだという。何度かチャレンジして押し方を工夫したり、子供を含めて2、3人で挑戦する方も多いそうだ。ちなみに筆者は136個だったので、少ない方かもしれない。

 見学コーナーの一角にはクレーンゲームやガチャガチャも設置されており、ここでしか手に入らない島田電機製作所のボタンをゲットできる。まなぶゾーンで見たアクリルや板金の技術を用いたアイテムを実際に手にすることができるこのガチャガチャは、お土産としても人気が高いという。

 このクオリティのものが500円か1000円で入手できるとあれば、思わず「欲しい」と思ってしまう。

ボタンは、人の欲望を叶える願望である

 OSEBAはワンフロアの施設で、そこまで広い場所ではないものの、その展示内容は濃密だ。ボタンの面白さを楽しんでいるうちに、エレベーターの技術から、アクリル、板金加工の技術など、深い部分に夢中になっていき、あっという間に1時間が過ぎてしまった。

 見学を終えてみて、「日本一予約が取れない社会科見学」とまで言われた人気の理由が身に染みた。大きく話題になったのは、「1000のボタン」の存在が大きいが、筆者は「なぜ人はボタンを押したいのだろうか」ということについて考えてしまった。

 1000個のボタンのうち実際に使用されているボタンは約6~7割で、その他は一般客からの公募を基にしたユニークなボタンも含まれているという。

 訪れた見学者によって考案されたボタンのアイデアが付箋で貼られていたので眺めてみると、「痩」や「体が冷たくなる」など、子供から大人まで、さまざまな方の「願い」や「望み」がこめられていた。

 我々はボタンを押すという行為に、エレベーターが来る、扉が延長する等、「押せば願いを叶えてくれる」といった期待を抱く。そう考えると、島田電機製作所が作っているボタンとは、社歌にも登場するキーワード「ボタンを押せば何かがはじまる」という願望そのものなのかもしれない。筆者はOSEBAに行ってからというもの、エレベーターのボタンを押すたびに、すっかりボタンの技術やそこに込められた願いに想いを馳せるようになってしまった。

 家族の思い出づくりとしてはもちろん、大人の知識欲もかなり満たされるOSEBA。まずは一度行ってみるのがおすすめだ。

東京ドームを“XRの聖地”に 200名以上が参加した『enXross 2nd』ハッカソンレポート

7月4日、『enXross 2nd』が東京ドームシティにて開催された。これは東京ドームシティが主催となって、エンターテインメント…

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる