NORISTRYが語る、歌い手の未来を広げるための“挑戦” オーストラリア最大規模のアニメイベント『SMASH!』に出演して

NORISTRY、歌い手の未来のための挑戦

趣味からメジャーな存在、そして職業へーー「歌い手」シーンの変遷を振り返る

――今回は「Asia Creators Cross」というプロジェクトの一貫で、現地でのアテンドや物販などのサポートもありましたが、良かった点や嬉しかった点を教えてください。

NORISTRY:まず、めちゃくちゃ安心しました。今回のイベント出演自体、これを単独でやるとなると、結構戸惑うと思います。ホテリエの方とのやりとりの時点で通訳の方がいてくれるのは助かりましたし、物販のときも完全に向こうの言語でやり取りできるわけではないので、とても助かりました。

 それから、初日にみんなで食事に行ったとき、現地のお店ではこういう風にやり取りするんだというのが分かって、この感じだったら一人でも行けそうだなと思って、実際に行ってみたりもできました。

――今回はオーストラリアで実際に海外のファンの方と交流をして刺激を受けたかと思いますが、日本国内でも歌い手のシーンがまたさらに盛り上がってきていると感じます。NORISTRYさんは歌い手シーンの黎明期の少し後である2012年から活動を始めましたが、当時から現在に至るまで、歌い手シーンの時代の変化をどのように感じていますか?

NORISTRY:僕が活動を始めた2012年は、すでにお仕事として歌い手をしている人がちらほら出てきていた時期だったと思います。でもまだ「歌ってみた」でお金を稼ぐことに否定的な層も結構いて。僕はまさか自分が職業としての歌い手になるとは思っていなくて、おじいちゃんになったときに「若いときこんなことをしてたんだ」と言えるような思い出作りくらいの気持ちだったので、当時は歌い手をお仕事にしている人は大変そうだなと思っていましたね。

 ニコニコ動画での収益化が始まったのもそのくらいの時期だったと思うんですけど、「収益化したら負け」みたいな考えの人も結構いましたし。僕自身、収益化は早い段階からしていたんですが、収益化に否定的な人の前ではそれを明かせないこともあって、そこは結構気を遣う時期だったかなと思います。

 そのあとの2015、16年くらいは、「インターネットカラオケマン」みたいな言葉を耳にすることもあって。馬鹿にされる時期でもあったと思いますけど、それだけ一般的な認知が広がったからなのかなとも感じました。

 僕が活動し始めた頃は、イラストも動画もミックスも歌い手も、みんなが「趣味として無料で動画を作り上げていきましょう」という感じだったんですけど、それが「収益が出るならお互いお仕事にしましょう」という感じで、動画やイラストを発注する形でお願いするようになったのも2015、2016年頃だった印象です。

 僕自身は、歌い手が仕事として成り立つようになったのが2017、2018年くらいだったんですけど、その頃には歌い手を職業とするのも当たり前、みたいな時期になっていたと思います。

ーー職業「歌い手」として成り立つようになった、具体的なターニングポイントはいつ頃でしたか?

NORISTRY:2017年くらいですね。当時会社員をしていたんですが、歌い手として活動していただいたお金が、会社員としての給料を上回った月があったんです。それをきっかけに、「これが音楽で頑張れる最後のチャンスかもしれない」と思って、音楽にシフトしていきました。

――2018年以降はAdoさんを筆頭に、10代、20代の歌い手のブレイクが増えて、シーンの盛り上がりもすごく可視化されていったと思います。2010年代後半からはどのようにシーンを見ていましたか?

NORISTRY:めっちゃ盛り上がってきてるなと思っていました。アングラな世界だと思っていたのが、さらに一般化して、YOASOBIさんや米津玄師さんをはじめ、ボカロシーン出身のアーティストも増えていって、めちゃくちゃ飛躍していくんだろうなと思って。

 ただ、そこでコロナの打撃があったので、それによって少し足を引っ張られちゃったのかなとは思いました。その当時って、歌い手に限らず、いろんな活動者さんが不安を抱いていた時期でもあって。配信や動画投稿をしながら活動を継続できるか、引退してしまうかの二極だったと思うんです。だから逆に言うと、今残っている人たちはいい意味で図太いというか、負けん気みたいなものを持っている人たちが多いのかなと思います。

——活動を続けることに不安を抱く方がいる一方で、コロナ禍は「ステイホーム」というスローガンが話題になって、配信や動画投稿がすごく盛り上がった時期でもありましたよね。いまや気が付けば「インターネット出身のアーティスト」がすごく人気になっていて、その活動の前身として「歌ってみた」があったりする。

NORISTRY:そうですね。この時期になると「職業:歌い手」になることを目指して歌い手を始める人もめっちゃ増えましたよね。僕らが始めた動機とは全然違う人たちがいる時代になったんだなと思います。

――“プロの歌い手”になりたいから、歌い手を始めるという感じですもんね。

NORISTRY:そうですよね。今はもう職業として憧れられるようなポジションなんだなと思います。

――揶揄されることもあった時代から、憧れられる存在になったというのは大幅な歌い手の地位の向上を感じますね。

NORISTRY:そうですね。そんな風に揶揄されることもありましたけど、僕は元々趣味として始めたわけだし、歌は下手でもいいと思っていたんです。でも、実際に色々言われてみると、やっぱり悔しい気持ちがどこかにあって。「なんでイメージだけでそんなこと言われなあかんねん」みたいな(笑)。

 そうやって各々悔しくなった人たちが、自分の長所をより目立たせるように動いたことが、イメージの変化に繋がったんじゃないかと思うんですよね。自分で言うのは恥ずかしいですけど、僕は「歌が上手い人」という認識をされている自覚があったので、馬鹿にされたことで「実力で黙らせてやろう」じゃないけど、歌い手を馬鹿にしている人がたまたま僕の動画に辿り着いたときに、「歌い手のなかにもこんなに上手い人がいるんだ」と思われるポジションを目指そうと思ったんです。それと同じように、色んな歌い手の方々が自分の長所を伸ばしたり、セールスポイントを見つけていく方向に動いていったのが、ちょうどその頃だったんだと思います。

――いろんな言葉を受け取ったことで、それをバネにしたり、モチベーションにしたりして、いろいろ発信をしていく人も増えていったと。

NORISTRY:そうだと思います。とはいえ、スタンスは今でも人それぞれあると思っていて。つまり、今でも趣味で歌い手活動を楽しんでいる人もいると思うし、仕事にしている人も、仕事にしたい人もいると思うし。それによっては、何を言われても別にこのままでいいやという人もいると思います。僕は悔しい気持ちがモチベーションになっていましたけれど、活動への向き合い方は今後も人それぞれ違ってくるだろうと思いますね。

NORISTRYが目指す、「歌い手」の“キャリア開拓”

――今の話を踏まえた上で、NORISTRYさん自身が今後、歌い手のカルチャーにどう関わっていきたいと考えていらっしゃるかも気になっていて。ここ数年の活動で言うと、学校で講師をされたり、既存の歌い手活動の外側に位置するようなことも積極的にやられているような印象を受けました。今後のご自身のキャリアについてはどのように考えていますか?

NORISTRY:今は、年齢も相まっていろいろと模索しているところですね。というのも、歌い手って結構新しい職業じゃないですか。だから、明確なビジネスモデルがまだないんです。40代になったらこういう人たちがこういう活動をしていますとか、50代になったら、60代、70代はどうなっていく、というビジョンを今から作っていく職業なので、逆に言えば将来像を想像しづらく、不安な気持ちが大きくて。

 でも僕は「この職業の人はこの業務しかしたらダメだ」とか、「歌い手だから歌い手以外のことをしたらいけない」という考えはなくて。学校の講師をしたのも、「僕の経験がなにかに活かせるんだったら」という気持ちでしたし、『JAPAN'S GOT TALENT』に挑戦したのも、こんなに素晴らしいステージに出れるのであれば挑戦したいという気持ちでした。

 いろんなことに挑戦してみて、ダメだったらその理由を考えたいし、受け入れられたら次のステップを考えたいし、選択肢を広げる意味でも色々やっているところです。

 あとは、これはどの職業でもそうだと思うんですけど、人との関わり、繋がりってすごく大事だと思っていて。いろんな交流をすることで、そこから思ってもいなかった景色に繋がる可能性があるんだなと思います。それこそ、海外のライブだってそのひとつだと思いますし。

――人との繋がりといえば、『SMASH!』では現地のYouTuberの方とも交流をされたんですよね。

NORISTRY:そうなんです。『SMASH!』の告知をしたら、「私も『SMASH!』出るよ! シドニーを楽しむ時間があったら一緒にご飯行こうよ」と言われて、是非ということで行ってきました。日本の歌い手の文化がなかったら絶対にできなかった縁なので、すごいなあと思いますね。

――長く続けていけばいくほど、そういう縁が増えそうですね。すぐに繋がらなくても「あのときの出来事が10年後に繋がった」ということも出てくるでしょうし。

NORISTRY:それで言うと最近よく聞くのが、僕と同じ時期から活動を始めた、もう10年選手になる歌い手のファンの方が、社会人になって「学生の頃から好きだった」という理由でお仕事のオファーをするみたいなケースもあるみたいで。そういうのも感慨深いなあと思いますよね。

――素敵な話ですね。今後、よりそういった縁に恵まれていくといいですね。NORISTRYさんとしては、歌い手として叶えていきたい目標はありますか?

NORISTRY:僕個人で言うと、死ぬまで歌える環境があったらすごくいいなと思います。界隈全体で言うと、コロナをきっかけに、歌い手界隈を代表していた年一の大きなイベントがことごとくなくなってしまったのを残念に思っていて。「これが告知されたということは、今年もこの時期なんだ」と色んな方に思ってもらえるような大きなイベントがまたできればいいなと思います。そういうのができたら、そのライブに出ることを目標にする人も出てくると思うんですよ。昔で言う『ETA(EXIT TUNES ACADEMY)』でいえば、新人枠があって、そこから知名度を広げていく……ということもあったので。今の『ボカコレ』も、「ルーキー」ランキングで注目された人が、もう音楽の仕事をしていて、すごいなと思います。それのリアルイベント版みたいな、業界の底上げや、新人をフックアップしていけるようなイベントがこれから出てきたら嬉しいなと思いますね。

■NORISTRY『SMASH!』でのパフォーマンスの様子はこちら

歌い手・NORISTRYがオーストラリア『SMASH!』に登場 現地ファンと交流&ステージで魅せる!  #ボカコレ #VOCALOID #AsiaCreatorsCross

「Asia Creators Cross」について

 日本のクリエイターが世界で、世界のクリエイターが日本で、相互に活躍できる機会の創出を目的としたクリエイター連携プログラム。

 今後も、世界中の影響力のあるさまざまなイベントを通じて、クリエイターがより多くのファン、共に制作を行う仲間、クライアントとボーダレスに出会える場を広げ、コミュニティの構築やリソースの共有、ネットワーキングを促進していきます。

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