再始動が本格化した「鬼武者」シリーズ 次なる復刻は『鬼武者タクティクス』かもしれない

カプコン制作の戦国サバイバルアクションゲーム「鬼武者」はここ数年、シリーズ再始動に向けた展開を本格化させている。
直近の象徴的な話題としては、2025年5月に発売されたシリーズ2作目『鬼武者2』のHDリマスター版がある。その前にも、Netflix独占でアニメ版『鬼武者』が配信され、カプコン運営のアミューズメント施設限定で初のVR作品『鬼武者VR Shadow Team』が稼働を開始するという出来事もあった。
そして、2024年末の「The Game Awards 2024」で発表された『鬼武者 Way of the Sword』だ。2006年発売の『新 鬼武者 DAWN OF DREAMS』(以下、『新 鬼武者』)以来の家庭用ゲーム機向け完全新作となる同作は、PlayStation 5、Xbox Series X|S、PC(Steam)向けに2026年の発売が予定されている。
最初の『鬼武者』は2001年1月にPlayStation 2向けに発売され、同ゲーム機初のミリオンヒットを記録。以降、続編が発売されるなどしてシリーズ展開を見せたが、『新 鬼武者』を最後に家庭用ゲーム機での新展開は途絶えてしまった。
また、次世代機でも過去作の復刻がなかなか進まず、年月の経過とともに遊ぶためのハードルも上がり続けていた。その流れも2018年の『鬼武者』1作目のHDリマスター版の発売で変わり、今やメディアミックスも含めてその名を耳にする機会が増えた。
やや時間を要したが2作目の『鬼武者2』もHDリマスター版が発売され、今後、その続編『鬼武者3』の復刻が実現するだろうと心待ちにしているファンは多いと思われる。
ただ筆者は、次に復刻するのは外伝作品の『鬼武者~Onimusha Tactics~』(以下、『鬼武者タクティクス』)になるのでは、と考えている。
表面的に“特殊な作り”をしている「鬼武者」シリーズ全体が抱える復刻の課題
実のところ、2018年発売の『鬼武者』1作目のHDリマスター版はシリーズ初の復刻事例ではない。それより前の2016年、Wii Uのバーチャルコンソール向けタイトルとして配信された『鬼武者タクティクス』が初の復刻ケースだった。

『鬼武者タクティクス』は、「鬼武者」シリーズ唯一となる任天堂のゲーム機向けタイトルだ。2003年7月25日に携帯ゲーム機「ゲームボーイアドバンス」用ソフトとして発売された。
詳しいその内容は後に回すとして、この作品が本編より先に復刻できたのは、ゲームとして“普通の作り”だったことにある。
「鬼武者」本編シリーズの特徴は、実在俳優をキャラクターモデルに起用し、著名な外部クリエイターを楽曲制作や敵デザインに招聘、有名アーティストとのタイアップも行う“特殊な作り”にあった。
豪華で多彩な才能が結集した作品だが、言い換えれば権利関係が複雑に絡み合ったゲームでもある。俳優の肖像権、外部クリエイターの知的財産権など、多くの権利が関わっており、後の時代に復刻する際はそれらすべての解決が必要になる。

この問題は過去の配信サービスでも顕著だった。2012年から展開されたPlayStation 3専用「PlayStation 2アーカイブス」では、『戦神-いくさがみ-』『ワイルドアームズ ザ フィフスヴァンガード』といった主題歌付きタイトルも配信されていた。
しかし、『スーパーロボット大戦Z』『ブレス オブ ファイアV ドラゴンクォーター』のように途中で配信終了となった作品も存在し、権利継続の課題が浮き彫りにされている。
「鬼武者」シリーズのような俳優の肖像権も絡んでくるタイトルにいたっては、ほとんど復刻が実現していない。一例としてコーエーテクモのシミュレーションゲーム『決戦』は1作目が配信されたものの、市川染五郎氏(現:十代目 松本幸四郎)などをモデル起用した続編『決戦II』は配信されずに終わっている。初期『龍が如く』2作品も同様だ。

対照的に『鬼武者タクティクス』は、主人公がオリジナルキャラクター、外部クリエイター参加なしでカプコン主体の制作、主題歌の演出もなしと、まさに“普通の作り”ゆえに復刻時の権利課題が少なかった。主人公にモデルが存在しない点は『新 鬼武者』も同じだが、同作には主題歌演出があるため、一部の権利クリアが必要になる。
そんな強みが結果として2016年のバーチャルコンソール版配信につながったと筆者は見ている。もともと、特殊な作りが売りの「鬼武者」シリーズにとって、"普通の作り"をしている『鬼武者タクティクス』は異色の存在だが、その異色さが年月の経過とともに本編を上回る強みとして機能する結果を呼んでしまったことには、少し皮肉なものを感じる。
そして、この先行事例が存在するからこそ、次に復刻を果たす過去作は『鬼武者タクティクス』になるのではないか、と考えるのだ。
あまりにも“オウガ”で粗も目立つ……だが、相応に独自の見どころも持った『鬼武者タクティクス』
だが、そもそも『鬼武者タクティクス』とはいかなるゲームなのか。率直に言って「鬼武者」シリーズの中でも群を抜いて異色の存在だ。なぜならアクションゲームではない。ターン制のシミュレーションRPG(SRPG)である。

鬼一族の血を引く主人公「王仁丸(おにまる)」とその仲間たちが、異形の存在「幻魔」が支配する帝国を築き上げようと目論む幻魔王「織田信長」の侵略に立ち向かうというのが大まかなストーリーとなる。
SRPGとしては“鬼”にちなんでなのか、非常に“オウガ”な作りをしている。斜め見下ろし視点で描かれた高低差のあるマップとその場で展開される戦闘、細かな動きが付けられたキャラクター(ユニット、駒)のドット絵がその象徴だ。

ただ、ユニットの向きに応じて攻撃を受けた時にダメージ補正が入る(例えば、背後を狙うと大ダメージのような)要素はなし。複数の敵を巻き込む範囲攻撃も味方を巻き込むことがない、高低差による命中率や遠距離攻撃時の射程距離補正もないなど、システム全般は単純化されている。

また、街やお店といったマップや施設が存在しない。武器などの装備品、回復アイテムといった消耗品は敵を倒すと得られる「幻魔石」を戦闘準備画面にて合成し、生み出す仕組みとなっている。本編の流れ(構成)も途中、「幻魔空間」なる自由に挑戦可能な寄り道マップも用意されているが、基本は1本道で進行していく形である。
さらにゲームオーバーもなく、仮に敗北しても各キャラクターのレベルはそのままの状態でやり直せる。戦闘中、体力がゼロになって永久離脱して使えなくなってしまうような要素もない(ただし、戦闘中に倒れると経験値はリセットされる)。

一連の特徴もあって、SRPGとしては取っつきやすさが際立つ内容に仕上げられている。もちろん「鬼武者」の名を冠しているだけに「魂吸収」「一閃」「鬼武者化」といったシリーズ由来の要素も存在。難易度もキャラクターごとのレベルよりも装備している武器、防具を「魂吸収」で獲得した魂でどこまで強化したかが強く影響する、「鬼武者」らしさを感じさせる味付けになっている。

それでもなお、先述の通り「鬼武者」シリーズの作品として見ると、相当に異色な内容であるのは否定できない。そもそも、ターン制のSRPGゆえに本編シリーズ特有のアクション性は皆無。敵を一撃で葬る「一閃」に象徴される爽快感も皆無で、シリーズ特有の「バッサリ感」の“バ”の字も存在しない。
しかも、その「一閃」自体が完全に空気。本編のようにプレイヤーが任意で繰り出せず、確率で発生する技となってしまっているのだ。使い方と発動の仕組みにも問題があり、待機(構え)を取ってターンを終え、そのキャラクターに敵が“通常攻撃”を仕掛けた時にしか繰り出せない。敵が“特殊攻撃”(特技)を仕掛けてきた時には繰り出せないのである。

ほかにストーリーも若干コミカルな要素も含んでいた『鬼武者2』よりもさらに砕け気味で、時代的にミスマッチな横文字の乱用が目立ったり、仲間が加入する過程があまりにも唐突で強引といった粗が目立つ。本編シリーズの知識がなくても楽しめる内容にまとまっているのは評価できるが、「出来がいいか」と言われると首を横に振ってしまう感じだ。
そんな具合に気がかりな部分の多い作品というのが実のところである。ただ、SRPGとしての取っつきやすさや装備品の強さが大きく影響する「鬼武者」らしいバランスなど、光る部分があるのも確か。そもそも「鬼武者」のSRPGという点で、作品的にも貴重。

ストーリーも『鬼武者2』の主要キャラクターである雑賀孫市、安国寺恵瓊、風魔小太郎の3人が味方として登場する見どころがある。特に風魔小太郎は『鬼武者2』の時とは一味違った活躍を見せてくれる。

『鬼武者』1作目の主人公・明智左馬之助の義父でもある明智光秀が登場するのも必見だ。ちなみに1作目主人公の関係者という強みもあってか、本編では(ステータス的な意味で)いろいろと優遇されていたりする。
カプコン全体の歴史から見て貴重な見どころも? 今後の復刻も十分に見込まれる異色作
ややマニアックな見どころとしては制作スタッフもある。実は本編の「鬼武者」シリーズ関係者はシナリオ制作のフラグシップ(※1)を除き、ほとんど関わっていない。エンディングのスタッフロールを見れば一目瞭然である。
しかも、エグゼクティブプロデューサーとして、現カプコン会長兼CEOの辻本憲三氏の名が記されている。辻本氏がエグゼクティブプロデューサーとして記されたカプコンのゲームは意外にも例が少ない。その点で見ても、本作は「鬼武者」シリーズに留まらず、カプコン全体の歴史から見ても貴重な1本と言えるだろう。

さらにもうひとつ挙げると対象年齢だ。本作はWii Uのバーチャルコンソール版配信の際に新たにCEROレーティングが設定されたのだが、なんとA(全年齢対象)。基本的にC(15歳以上対象)の「鬼武者」シリーズとしては異例の設定になっている。

実際、本編には血が出る演出がない。序盤に村の住民が幻魔たちによって全滅するというショッキングな場面はあるが、血が出ることもなければ、『鬼武者2』のオープニングのように詳細に描かれたりするようなこともない。
その意味ではある意味、本作は「鬼武者」の一端を知るには最適な作品とも言えるだろう。
前述したように、本作はWii Uにて復刻を果たしている。Wii Uの「ニンテンドーeショップ」が終わったため、いまは新規の購入ができなくなっているが、また新たな形で復刻される可能性は十分にあり得るだろう。筆者はNintendo Switchの『ゲームボーイアドバンス Nintendo Classics』で配信される可能性を想定している。
ただ2025年現在、『ゲームボーイアドバンス Nintendo Classics』では任天堂以外のタイトルの復刻例が確認されていないため、実現するか否かは不透明だ。もしかすると、同じく外伝作品に当たる対戦型アクションゲーム『鬼武者 無頼伝』(※2)とセットにしたコレクションパッケージとして展開……という線もあるかもしれない。
正直、復刻されたらぜひ遊んでもらいたいと声を大にして言えるゲームかと言われると、そうではない。現代の基準に沿うと、ゲーム全体のテンポや操作性において一定の根気も試される。
ただ、独自の見どころと特徴を持った作品であり、「鬼武者」シリーズ全体でも異色すぎる存在感を持つので、機会があれば触れてみてほしいところである。それと並行して、本作の復刻が早々に実現した“普通の強み”を再確認してみるのも一興だ。
※1 フラグシップ:1997年に設立されたカプコンの子会社でシナリオ制作を専門とする。「鬼武者」シリーズのほか、『バイオハザード2』『エルドラドゲート』『デビルメイクライ』『ゼルダの伝説 ふしぎの木の実』などのカプコン開発タイトルでシナリオを担当した。2007年解散。解散前には『星のカービィ 鏡の大迷宮』を始め、ゲームソフトの開発にも進出していた。
※2 『鬼武者 無頼伝』:『鬼武者』『鬼武者2』に登場したキャラクターたちが一堂に会する対戦型アクションゲーム。2003年11月27日、PlayStation 2向けに発売。(なぜか)『ロックマンエグゼ』のロックマン(&光熱斗)と『ロックマンゼロ』のゼロもプレイアブルキャラクターとして出てくる。






















