TREKKIE TRAXのCarpainter×Seimeiが語る“ネットレーベル”の歴史とテクノロジーの進化 rekordboxとDropboxが生み出す制作への好影響とは

これまで何度も音楽制作やDJの現場を取材してきたリアルサウンドテックだが、様々なクリエイターの話を聞いていて日々感じるのは、技術の進化に応じて制作はどんどんスムーズかつ良質なコミュニケーションが取れるように進化してきているということ。
ハードウェアももちろんだが、コミュニケーションにおいてソフトウェアの進化が寄与している部分は非常に大きい。とくに日本国内だけではなく、世界を舞台に活躍するクリエイターならなおさらだ。
今回はそんなソフトウェアのなかでも、DJたちがこぞって使っている『rekordbox』の進化にフォーカスを当てるべく、ダンスミュージックレーベル〈TREKKIE TRAX〉の主宰のひとりであるCarpainterとSeimeiに登場してもらい、ネットレーベルの今昔話やソフトウェアの進化が音楽制作とDJに与えた影響、5TBのDropboxが付帯している同ソフトのProfessionalプランの便利さについて、存分に語ってもらった。(Jun Fukunaga)
テクノロジーの進化で激変した“DJ環境”「圧倒的に現場に持ち込める曲数が増えた」

ーーCarpainterさんとSeimeiさんが最初にDJや音楽制作を始めたきっかけについて教えてください。
Carpainter:僕らは自分が12歳、Seimeiが14歳くらいの年齢までオランダに住んでいました。日本に帰ってきたのは、ちょうどインターネットやYouTubeが台頭してきた時期です。そのころ、オンラインでSeimeiが見つけてきたテクノなどのダンスミュージックやYMOを聴いていたのですが、未成年が遊びに行けてそういう音楽を実際に聴ける場所はほとんどなくて。ただ、地元が横浜だったこともあり、当時横浜アリーナで開催されていた石野卓球さんのイベント『WIRE』に毎年遊びに行っていて、そこでの衝撃が音楽を始めるきっかけになりました。
Seimei:僕はDJが先でしたが、Carpainterは音楽制作から入りましたね。母親がピアノの先生をやっていて、実家にドラムなどが打ち込める簡単なシーケンス機能付きの電子ピアノがありました。それでテクノやトランスの真似事をし始めて、僕に聴かせてくれたんです。そのあと、ちゃんとPCで作った方がいいという話をして、2人で電気屋に行き、お年玉で初めてのDAWを買いました。それが中学2年生のころです。
ーーお2人が世に出てくるきっかけになったのはTREKKIE TRAXの設立ですか?
Carpainter:昔、同世代でDJをしたくて曲も作ってみたいという似たような境遇の人がいないか、Twitterで探してみたんです。そこで見つかったのが、現在のTREKKIE TRAXメンバーでもあるandrewとfutatsukiでした。そのメンバーで「U-20」という20歳未満だけが出演するイベントをやっていたのですが、当時流行っていたネットレーベルの〈Maltine Records〉のように曲を作ってリリースすることでイベントにお客さんを呼ぼうと考え、立ち上げたのがTREKKIE TRAXですね。
Seimei:ネットレーベルの盛り上がりを高校生のころにリアルタイムで見ていたのは大きかったですね。たとえば、ネット音楽の中心人物だったtofubeatsさんがメジャーデビューしたり、『Sonar』のような大きな音楽フェスに同世代のネットレーベル周辺のアーティストがどんどん出演したりと、ネットからリアルに移行していく過程をすべて見ていました。それが自分たちの活動に対するモチベーションになったし、今後ネットとリアルの垣根がなくなっていくということを実感していました。
ーーCDやレコードでDJをしていた時代から、現在は音源データでDJができたり、作った音源をクラウドで簡単に共有・管理できるようになりました。以前と現在では、DJや音楽制作の環境はどのように変化したと感じていますか?
Seimei:DJに関して言うと、圧倒的に現場に持ち込める曲数が増えました。レコードの場合は50枚程度が限界ですが、USBなら数千曲単位で持ち込めるので、自由にジャンルを切り替えられます。この差は非常に大きいと感じています。
Carpainter:それとミックス時のサポート技術の発達も大きいですね。たとえば、曲同士のBPMを自動で合わせてくれるシンク機能もワンタッチで使えるので、選曲に集中する時間が増えました。また、曲の頭出しも瞬時にできるため、次の曲をかけるまでの時間が短縮され、ミックススタイル自体が変化しています。これらはすべてテクノロジーの進歩によってDJが受けている恩恵だと思います。
ーー音楽制作に関してはいかがですか。
Carpainter:1番変わったのは、ストリーミングで試聴して、気に入ったサンプルをそのままダウンロードできるSpliceのようなサンプリングサービスの登場ですね。以前は自分のPC内の音源だけを使っていましたが、いまはSpliceの膨大なサンプル音源を利用できるため、使える音が実質無限になりました。
Seimei:それとTracklibのように手軽にサンプリングの権利を購入できるサービスも登場し、権利処理が格段に楽になりました。
ーー初めてrekordboxを使ったのはいつ頃ですか?
Carpainter:TREKKIE TRAXのなかでは僕が1番最初に導入しました。そのころは「rekordbox 5」だったと思います。
Seimei:僕らが導入したのは割と最近で、最初はUSBのフォルダに直接音源を入れて使っていました。そのころはrekordboxを使う理由がよくわからなかったんです。
Carpainter:でも、僕らの周りで使っている方がだんだん増えていき、いろいろ情報を仕入れているうちに明らかに便利だとわかってきて。それで本格的に使い始めたのが2019年ごろですね。
Seimei:最初はレコードからDJを始めたこともあって、テンポを合わせられてこそDJという感覚があったので、BPMのシンク機能には少し抵抗がありました。ただ、Carpainterが2人でDJしている時にrekordboxのSYNC機能を使い始めて、とても便利なことを実感したんです。それこそ、さっきCarpainterが言ったとおり、テンポが自動同期する分、その時間を選曲やほかのことに集中できるようになったのは大きかったですね。いまではrekordboxがないと困るくらい日常的に使っています。
ーー普段はrekordboxをどのように使用されているのでしょうか?
Seimei:rekordboxでDJセット用のプレイリストを作り始めてから、選曲の流れをかなり意識するようになりました。また、キャリアが長くなった分、楽曲知識も増えたので、rekordboxはその経験を活かすために欠かせない存在です。あと、技術的には次の曲の頭出しタイミングに「HOT CUE」を設定して、つなぐ目印にするという使い方をしています。
Carpainter:rekordboxを使う前は、プレイリストの代わりにUSB内にDJ用のフォルダを作ってましたが、その場合、同じ曲を別のフォルダでも使いたい場合、両方に入れることになるので、USBで使う容量も2曲分になってしまいます。でも、rekordboxは違うプレイリストに同じ曲が入っていてもそれを呼び出せるので、容量の節約が可能です。それにその日かけたい曲を100〜200曲入れたプレイリストから、良い流れの組み合わせを複数作れるのが便利です。
Seimei:rekordboxで手持ちの音源を管理すると、アーティスト名や曲名で検索するだけですぐに目当ての曲が取り出せます。ただ、僕はあらかじめ曲ごとに入れている、「レイヴ」や「ゲットーテック」など独自の雰囲気ワードで検索することが多いですね。そうしておくと、その日の現場の雰囲気に柔軟に対応できるんです。
曲のキー解析機能も重宝していますね。たとえば、テクノとダブステップのような違うジャンル同士の曲をつなぐときも、曲のキー同士が合っていれば割と違和感なくつなげるし、そういった実験的なことも簡単にできるのがrekordboxの面白いところです。
ーーたしかに曲同士のキーが合っていれば、違和感なくマッシュアップ的なプレイも成立しそうですね。
Seimei:そうなんです。まさにこのキー解析のおかげで、いわゆる2manydjs的なマッシュアップもすごくやりやすくなりました。それにキーを意識してDJをするようになってからは、お客さんの反応も良くなった気がします。rekordboxでは、こういったキーやジャンルを一発で検索・表示できるだけでなく、それらの情報を目視で簡単に確認できます。そこも使っていてすごく助けられている部分ですね。
ーーrekordboxのProfessionalプランを実際に使ってみて、どのような印象を持ちましたか?
Carpainter:まず、Dropboxのストレージを5TB分使えるのはありがたいですね。それに設定すれば、rekordbox内のプレイリストに入れた曲がすぐにすべてDropbox内にクラウドバックアップされるので、仮にPCを失ったとしても、同じ環境が再現できるという安心感はユーザーからすると大きなメリットです。
また、rekordboxのスマホアプリとプレイリストの連携も気に入っています。たとえば、今度出演するイベントのプレイリストを作るとき、まずPCのライブラリから自分がかけそうな曲をどんどん入れていき、移動中にそれを聴いて選曲したり、CUEを打ったりできることは、1番大きな恩恵です。しかもrekordboxのスマホアプリではDJもできるので、電車での移動中にアプリでミックスを試すこともあります。そのときにこのつなぎ方がいいなというところをHOT CUEでメモしておけば、あとから普段使っているPCでも再現できるのもかなりありがたいですね。
Seimei:僕もバックアップ機能はすごく便利だと思っています。これがあれば、曲のデータを入れたUSBを読み込めないといった機材トラブルがあったときも助かりそうです。また、rekordboxでは録音もできるので、rekordboxを入れたPCにDJコントローラーをつないで、ラジオやメディアから提供依頼を受けたDJミックスを録音しています。それとSTEMS機能も面白いですね。実際にまだクラブの現場で試したことはないのですが、実験的にいろいろな曲のボーカルを抽出したり、使い方を模索しています。
Carpainter:スマホでプレイリストを作るときに楽曲をダウンロードするのですが、そのときのタグ情報もバックアップされるので、スマホの容量を抑えたい時に一旦削除したとしても、再度ダウンロードした時にそのタグ情報が復活するのはすごく助かっています。Professionalプランを使う前は、そういう操作は割と複雑そうな印象がありましたが、ワンタッチで手軽にできるのがありがたいです。データとしての曲の扱いがかなり楽になったと思います。





















