ゲームシナリオの深層 第1回
切ない悲劇の中にある希望――少女たちに襲い掛かる恐怖を描いたホラーADV『深夜廻』
良質なシナリオを持つゲームを楽しみ、プレイングのあいだに隠された真相を読み解く連載企画「ゲームシナリオの深層」。第1回は『深夜廻』を取り上げる。
※本稿には『深夜廻』のネタバレを含むため、未プレイの方はご注意いただきたい。
『深夜廻』は、少女たちのあいだに起きた悲劇を描くホラーアドベンチャーである。舞台は夏の終わり。ジトッとした空気が肌にまとわりつく、あの不快な季節感を存分に味わえる一作であり、この季節に遊ぶにはうってつけだ。
物語の主人公は、まだ年端もいかない少女ユイとハル。親友同士であるふたりだが、ユイの引っ越しが決まり、離れ離れになることが避けられなくなってしまう。ハルはその現実を受け入れきれないまま、ふたりで最後の時間を過ごすべく、夜空に打ち上がる花火を眺める。
やがて花火が終わり、ふたりは山道を下っていくが、途中でユイが忽然と姿を消してしまう。ハルはユイを探すため、夜の街をさまよい始める。
衝撃的なチュートリアル、そして切なくも美しい花火のシーンを経て、プレイヤーはハルとして本格的な探索を開始する。基本的にはステルスゲームの要領で、無数のオバケたちの襲撃をかわしながら、ユイの行方を追っていく構成となっている(それにしてもこの街、こんなにオバケがてんこ盛りで大丈夫なのだろうか……)。
そんなハルの前に立ち塞がるのが「コトワリさま」という異形の存在だ。中ボス的な役割を担い、行く先々でハルに襲いかかってくる。巨大な手にハサミを構えた殺意むき出しのビジュアルが印象的で、手足や首のある存在を容赦なく断ち切ろうとする執念を感じさせる。
プレイヤーは、さまざまな「人身御供」を利用してコトワリさまを欺きつつ捜索を続ける。やがて、コトワリさまが「縁切り神社」の神であることが明らかになる。離縁の願いを叶える土着の神として祀られていた存在であり、その激しい執行力を見るに、効果は絶大だったのかもしれない。
本作には、ハルやユイを除けば、ネームドのキャラクターはこのコトワリさまともうひとりくらいしか登場しない。果たしてこの少人数で物語が収束するのか、最終章に至るまでは半信半疑だった。
しかし、かわいらしいビジュアルからは想像もできないような秀逸なジャンプスケアを何度も体験し、「さすがにそろそろ何かあるんじゃないか?」と思い始めていたところで、物語は大きく動き始める。
ストーリーの背後で糸を引いていた「女郎蜘蛛」の存在が明らかになり、ユイに起きた悲劇が単なる偶然ではなく仕組まれたものであることが示唆される。UIやチュートリアルにまで干渉する悪神が、自らの巣へと幼い人間を引きずり込んでいたのだ。ハルはその神と対峙することになる。
そして、ついにその邪悪な神は打ち破られる。だが、本当の意味で試されるのはその後だ。親友としての絆があったとしても、死者との縁を自らの意志で断ち切らねばならない。その覚悟が、ハルに求められる。
優れた物語とは、しばしば「発想の逆転」や「視点の切り替え」によって構成されている。本作もその例にもれず、一般的には良いものとされがちな「縁結び」の概念に対し、執着や恐怖の側面を提示してみせる。
筆者は、そうした「縁」の捉え方こそが本作の面白さだと考えている。常識や偏見に揺さぶりをかけ、むしろ「離縁」こそ新たな一歩を築いてくれるのだと教えてくれるのだ。
なんとも切ない物語ではあるが、それでも犠牲を払って正しい選択をし、未来へと歩み始めるハルの姿には、どこか清々しさがある。悲劇の中に希望を残す——そんな余韻を抱かせてくれる一本である。