まるで「アトリエ」シリーズのよくばりセット? 『紅白レスレリ』に見る、コーエーテクモのIP戦略

『紅白レスレリ』に見るコエテクのIP戦略

 コーエーテクモゲームスは6月13日、『紅の錬金術士と白の守護者 ~レスレリアーナのアトリエ~』(以下、『紅白レスレリ』)を9月26日に発売すると発表した。

 シリーズの本流とは毛色の異なるタイトルとして、発表時から話題を集めてきた同タイトル。本稿では、待望の情報解禁から見えてきた『紅白レスレリ』のゲーム性を掘り下げていく。

『レスレリアーナのアトリエ』から派生した新たな錬金術RPG『紅白レスレリ』

『紅の錬金術士と白の守護者 ~レスレリアーナのアトリエ~』プロモーションムービー第1弾

 『紅白レスレリ』は、コーエーテクモゲームスが開発/発売を手掛ける人気RPG「アトリエ」シリーズから誕生した、新たな錬金術RPGだ。2023年9月よりモバイル/PC向けに展開されている『レスレリアーナのアトリエ 〜忘れられた錬金術と極夜の解放者〜』(以下、『レスレリアーナのアトリエ』)と世界観をともにするタイトルで、同作とは異なる2人の主人公が登場する。

 プレイヤーは、かつて3つの州の境に存在し、鉱山と交易によって栄えた町「ハルフェン」を舞台に、錬金術の才能に目覚めた冒険者「リアス・アイトライゼ」、ガイストコアと呼ばれる不思議な道具を持ち、異空間への入り口を開くことができる青年「スレイ・クロスリッター」の視点から、住民のほとんどが消えてしまうという謎の災害の原因に迫るとともに、2人の故郷であるその町の復興計画の行方を見つめていく。

 特徴となっているのは、素材の持つ色をつなげてアイテムを作成する「ギフトカラー調合」と、『レスレリアーナのアトリエ』から発展させた戦略性の高いタイムラインコマンドバトル、ショップ経営の仕組みなど。時間経過や天候の変化によってさまざまに表情を変えるフィールドは、自らの足で自由に探索することができる。「亜空の道」と呼ばれる階層型ダンジョンには、ランダム生成の概念も取り入れられている。また、ゲーム中には、ロゼリュクス・マイツェンやウィルベル・フォル=エルスリート、トトゥーリア・ヘルモルト、ソフィー・ノイエンミュラーといった過去のシリーズ作品でおなじみの面々がプレイアブルキャラクターとして登場するという。

 『紅白レスレリ』は、2025年9月26日発売予定。対応プラットフォームは、PlayStation 4/PlayStation 5、Nintendo Switch、PC(Steam)で、価格は、通常版が8,580円、プレミアムボックスが12,400円、スペシャルコレクションボックスが22,600円となっている(※)。

※…プレミアムボックス、スペシャルコレクションボックスは、パッケージ版のみの展開。このほか、現時点で未発表だが、ダウンロード版のみの豪華版も展開される予定。詳細は公式サイトを参照のこと。価格はすべて税込み。

『紅白レスレリ』の開発/発売は、コーエーテクモによるIP利活用の一端か

『紅の錬金術士と白の守護者 ~レスレリアーナのアトリエ~』ティザートレーラー

 2024年9月にその存在が明らかとなったときから、シリーズのファンを中心に広く注目されてきた『紅白レスレリ』。開発/発売元のコーエーテクモゲームスは今回の発表にあわせ、公式アプリ『KT App』上でプロデューサーインタビューを公開している。

 対応した総合プロデューサーの細井順三氏によると、同タイトルでは「『レスレリアーナのアトリエ』でストーリー原案/シリーズ構成などを担当したタカヒロ氏がシナリオ、世界観の監修を行っている」「従来のシリーズ作品で好評だったゲームサイクルを提供しつつ、さまざまな部分に現代的なアップデートを施している」という。

 また、時間軸としては「『レスレリアーナのアトリエ』の主人公であるレスナやヴァレリアの冒険と並行した物語」であるとのこと。同日に公開されたメディア向けのインタビュー記事内では、「同作の世界を広げるものではあるものの、本編と密接に関わっているわけではなく、未プレイであってもシリーズの完全新作として楽しめる」とも説明している。

 一連の仕様や発言からわかるのは、『紅白レスレリ』がシリーズの伝統を尊重したゲーム性を持つ正統なアトリエ作品であると同時に、各所に新たな挑戦を盛り込んだ意欲的な作品、かつシリーズが築いてきたアセットを活用した象徴的な作品であることだ。

 先にも述べたとおり、同タイトルのひとつの個性ともなっているダンジョン「亜空の道」は、階層型、ランダム生成といった特徴を持っている。これらの要素はローグライクジャンルからの借り物であるだろう。過去のシリーズ作品に同分野の影響を感じさせるものはなかったと記憶している。この点は『紅白レスレリ』に含まれる挑戦的な部分である。

 細井氏によると、「亜空の道」はあくまでやり込み要素であり、ストーリーの進行上は、初級レベル以外、踏み込む必要がないとのこと。メインシナリオ以外の部分に実験的に取り入れることで、シリーズとの親和性を模索している段階なのだろう。ユーザーから好評を博すなど、一定の手応えが得られた場合には、本編へと逆輸入される可能性もあるのかもしれない。

 他方、ダブル主人公や妖精さん、ショップ経営などは、シリーズの過去作品に登場し、好評だった要素である。ここには制作側の“らしさ”を追求する姿勢もうかがえる。過去作品でおなじみの面々をプレイアブルキャラクターとして使用できることもまた、そうしたコンセプトの一環だろう。

 このような『紅白レスレリ』の個性は、ナンバリングとは別軸で展開された『レスレリアーナのアトリエ』から影響された部分であると言える。同作は、過去のシリーズ作品に登場した人気キャラクターたちが一堂に会するという、ライブサービスゲームらしい特徴を持っている。そうした本編のオールスター性を名前のとおり受け継いでいるのが『紅白レスレリ』であるというわけだ。

 ダブル主人公や妖精さん、ショップ経営といった要素の転用もまた、このような構図上にあるアプローチである。モバイル/PC向けに展開されている『レスレリアーナのアトリエ』の世界観をベースにしていることにも示されているように、その作品性はどちらかと言えばスピンオフ的で、たとえば、2025年3月に発売された『ユミアのアトリエ ~追憶の錬金術士と幻創の地~』などのように、サブシリーズ化され、継続して物語が描かれていくものではないのだろう。おそらく制作側は、そのような箇所に“らしさ”を見出しているはずだ。IPの持つアセットを最大限活用したお祭り感こそ、『紅白レスレリ』のゲーム性の本質と言えるのではないだろうか。

 また、制作側はプラットフォームの違いを明確に意識しているとも考えられる。そのような個性を持つ『紅白レスレリ』だからこそ、ファンに望まれやすく、コンテンツとしても長く残りやすいCS機向け・パッケージ買い切り型で展開する判断へと至ったのではないか。

 上述の性質から、同タイトルは単発での展開が既定路線なのだろう。とはいえ、想定以上の結果が得られた場合には、同様のコンセプトでサブシリーズ化され、新作が展開されていく未来もあるのかもしれない。

 『紅白レスレリ』は“良いとこどり”の仕様で成功を手にできるか。今回の情報解禁をきっかけに、ファンの期待は大きく膨らみつつある状況だ。

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