「検索社会」に“大変動”が訪れる? 『Google I/O 2025』で発表された4つの重要トピックスを解説

素材生成やカメラ制御が可能な映画制作AIツール『Flow』が登場
『Gemini』で利用できる「Imagen 4」や「Veo 3」はあくまで画像や動画を生成するAI機能であり、広告画像やPR動画制作のような「目的をもったクリエイティブ活動」に最適化されているわけではない。こうしたなか、今回の『Google I/O』では映画制作に最適化された生成AIツール『Flow』が発表された(※7)。
『Flow』は、以下のように単なる動画生成にとどまらない機能を実装している。
- プロンプト入力によって、物理法則に忠実なリアリスティックな動画を生成。
- プロンプト入力から動画に挿入できる素材を生成することも可能。
- カメラの動き、アングル、パースペクティブ(遠近感)を制御可能。
- 生成済みのシーンを編集する機能「シーンビルダー」を実装。
- 生成した素材は、生成時に入力したプロンプトとペアで管理可能。
- 映像クリエイターが生成した動画は、Flow生成動画共有ページ「Flow TV」から視聴可能(※8)。同ページの動画には生成時のプロンプトも表示されるので、動画生成のテクニックを学習できる。
Flowの発表に伴って、Googleは同ツールの早期アクセスを許可した映像作家たちによる制作動画を公開した。動画のひとつには、ヘンリー・ダウブレッツ(Henry Daubrez)が制作した、マスクをつけたアメコミヒーローに扮した少年が登場する自伝的な作品もある。
動画生成AIの活用をめぐっては、既存の動画を使って訓練していることなどから、クリエイターのなかでも賛否が分かれている。アメリカ・アカデミー賞を運営するアカデミー理事会は2025年4月、映画制作における動画生成AIの利用に関して、「賞のノミネートの可能性を助長するものでも、損なうものでもない」という規定を発表した(※9)。権威ある映画関連団体が、言わば「動画生成AIを容認する立場」を表明したことから、今後は徐々に映画制作現場にこれらのAIの使用が広がると予想される。
今後始まるであろう映画制作における動画生成AIツールの覇権争いをめぐっては、『Flow』がその覇権候補のひとつになるかもしれない。
Google製スマートグラスは“ポストスマホ”最有力候補か
近年Googleは、同社が開発するスマートフォン「Pixel」シリーズに積極的にAI機能を搭載して、“AIスマホ”という印象を強く与えている。『Google I/O 2025』では、「Pixel」シリーズ以外のAI搭載製品の発表があった。
そのうちのひとつ『Google Beam』は、AIによって遠隔コミュニケーションを進化させる製品である(※10)。大型ディスプレイの形状をした同製品には多数のカメラが搭載されており、それらから得た情報とAI技術によって被写体を3次元的に再構成して表示する。こうした処理の結果、遠隔にいる人物がその場にいるかのような実在感を伴ってディスプレイに映し出される。リアルタイム翻訳機能も搭載されているので、文字通り言語の壁も超えられる製品となっているわけだ。同製品は、世界の大手企業に順次提供される予定。
またXRデバイスに関しては、「Android XR」プロジェクトの発表もおこなわれた。「Android XR」とは、AndroidとGeminiを活用して新しいXR体験を発明するプロジェクトである。具体的には『Gemini』を搭載したVRヘッドセットやスマートグラスを開発しており、『Google I/O 2025』でも『Gemini』を搭載したスマートグラスの試作品が披露された。同製品を紹介したYouTube動画では、メガネに搭載されたカメラで撮影した被写体に関してGeminiと対話したり、メガネから視聴できるディスプレイに表示された「Googleマップ」を利用したりする様子が収録されている。
スマートグラスはスマホに続く次世代のパーソナル端末として長らく注目されているものも、依然として大きく社会に浸透してはいない。そして今回発表されたGoogleのスマートグラスが“ポストスマホ”の最有力候補なのかと問われれば、そうとは限らない。
OpenAIは2025年5月21日、Appleの元最高デザイン責任者でiPhoneやiPadの製品デザインを手がけたジョナサン・アイブ氏が率いるデザインスタジオ・ioとの合併を発表した(※11)。この合併の意図は、合併発表と同時に公開されたYouTube動画を視聴するとわかる。
動画によると、OpenAIのサム・アルトマンCEOとアイブ氏は2年前から「AIや新しいタイプのコンピュータの未来」について話し合っていた、とのこと。そして最近、アルトマン氏はそうした会話から生まれた試作品を受け取った。実際にそれを使い始めたところ、「世界で誰も見たことがないような最高にクールな技術のひとつ」のように感じたのだった。
なお、アルトマン氏が体験した試作品がどんなものかは動画からうかがい知れないものの、動画の最後には「来年には私たちの作品を共有できることを楽しみにしています」という字幕が表示される。
Googleが開発するGemini搭載のスマートグラスと、OpenAIのAI搭載製品のどちらが市場を席巻するかは、容易に予想できない。しかしながら、現在のAI技術の浸透ペースを考えると2026年あたりに画期的なAI搭載製品をめぐる熾烈な戦いが勃発しそうと言えるだろう。
本稿は、『Google I/O 2025』を4つのトピックに焦点を当ててまとめてきた。こうした振り返りからわかるのは、Googleが生成AIを軸として自社ビジネスの再編と競争力強化を進めていることだろう。そして、この動向が続く限り、同社とOpenAIの生成AIをめぐる覇権争いは当面は終わらないだろう。引き続き注視していきたい。
〈参考〉
(※1)Google Japan Blog「検索における AI : 情報を超えた知性へ」:https://blog.google/intl/ja-jp/products/explore-get-answers/google-search-ai-mode-update/
(※2)現代ビジネス「ここにきて「グーグル検索」の利用回数が減ってきた…!「検索→AI」シフトの「甚大な影響」:https://gendai.media/articles/-/152054?imp=0
(※3)Google Japan Blog「Gemini がよりパーソナルに、プロアクティブに、そしてパワフルに進化」:https://blog.google/intl/ja-jp/company-news/technology/gemini-app-updates-io-2025/
(※4)Google Japan Blog「Google I/O 2025: 研究が現実に」:https://blog.google/intl/ja-jp/company-news/inside-google/google-io-2025-keynote-sundar-pichai/
(※5)OpenAI Developers Xポスト:
https://x.com/OpenAIDevs/status/1904957755829481737
(※6)Microsoft日本語ブログ記事「Microsoft Build 2025: AI エージェントの時代とオープンなエージェント型 Web の構築へ」:https://news.microsoft.com/ja-jp/2025/05/20/250520-microsoft-build-2025-the-age-of-ai-agents-and-building-the-open-agentic-web/
(※7)Google US Blog「Meet Flow: AI-powered filmmaking with Veo 3」:https://blog.google/technology/ai/google-flow-veo-ai-filmmaking-tool/
(※8)Flow TV:https://labs.google/flow/tv/channel/xoxo/42qMnlICExwdwCtkmybK?random=true
(※9)AMPAS「AWARDS RULES AND CAMPAIGN PROMOTIONAL REGULATIONS APPROVED FOR 98TH OSCARS®」:https://press.oscars.org/news/awards-rules-and-campaign-promotional-regulations-approved-98th-oscarsr
(※10)Google US Blog「Google Beam: Our AI-first 3D video communication platform」:https://blog.google/technology/research/project-starline-google-beam-update/
(※11)OpenAI「Sam & Jony introduce io」:https://openai.com/sam-and-jony/























