プラットフォーマーの枠を超えて、“すべての配信者を応援する企業”へ ミラティブCEOが語る、次なる一歩
「人間はどうしたらわかりあえるんだろう」
誰しもが思うような些細で、それでいて途方もない“願い”を、エンタメの力で成し遂げようとする男がいる。2018年に創業した株式会社ミラティブのCEO・赤川隼一だ。
ミラティブは、ライブ配信アプリ『Mirrativ』の運営・開発をおこなうプラットフォーム企業。同アプリはスマホだけで手軽にゲームの実況配信をおこなえるのが特徴で、サービスローンチ以来着実な成長を遂げてきた。スマホゲームの配信者数では日本一となり、淘汰の激しい業界の中で利益を出しながら成長が続いているという。
そんなミラティブは、5月26日より「アイブレイド」「キャスコード」というふたつの企業をグループに迎え、新戦略を発表した。どちらも配信に関連した事業をおこなう企業だが、意外にも「自社アプリの拡大」や、「新規配信者の誘因」を主目的にしたものではないという。
リアルサウンドテックでは今回、赤川に直接“本音”を尋ねた。見えてきたのは「ファンや配信者に寄り添った姿」であり、それと同時に、ファンダムを中心に回る業界において「経営者として最善を尽くす在り方」の、一つの答えと呼べる姿であった。
ミラティブが新規事業を発表 “All for Streamers”を掲げ全配信者への支援をスタート
スマホゲーム配信者数で日本一を誇るゲーム配信プラットフォーム『Mirrativ(ミラティブ)』(以下Mirrativ)を 運営す…「iOS版が始まると、Androidユーザーが活性化」 人と人の営みであることを意識した瞬間
ーーまずは赤川さんがミラティブというサービスを立ち上げた理由について、改めて伺いたいです。
赤川隼一(以下、赤川):ミラティブは2015年にローンチしましたが、当時は個人的な「やりたい気持ち」と、事業的な視点のそれぞれがあったんです。個人的な話で言えば、私自身がずっと音楽などのサブカルチャーにどっぷり浸かって過ごしてきましたし、10代の頃から自分でゲーム情報のホームページや音楽好きの集まるチャットなどを作ることで同じ趣味の人たち同士が「”好き”でつながって仲良くなる」という経験をしてきました。
そうした中でゲーム実況が盛り上がってきて。ゲームを通じて人がつながるという点に注目し、ミラティブを立ち上げました。最初に掲げたコンセプトは「友達の家でゲームやっている感じ」だったんですが、10年近く経った今もそのコンセプトを維持したまま支持されているレアなサービスにはなれているかなと思います。
事業的な話でいえば、2014年にTwitchがAmazonに買収され、当時のアクティブユーザーは1億人ほどでした。一方、ちょうど携帯電話がスマートフォンへどんどんシフトしている時期でもありました。Twitchは当時も今もPCゲームやコンソールゲームが中心ですが、「今後、ゲームもゲーム実況もモバイルが中心になっていくんじゃないか」という感覚がその時はあり、「Twitchのモバイル版のようなものを作れれば、世界中でとても刺さるものになるんじゃないか」という目論見がありました。
ーーそこから現在に至るまで、サービスのターニングポイントをひとつ挙げるとすると?
赤川:ひとつ挙げるなら、2017年9月20日。日付まではっきり覚えているのですが、iOSでもゲーム配信をできるようになったことです。
もちろんiOSユーザーが増えたのも大きいのですが、面白かったのは、もともと配信できていたAndroidユーザーの使い方やリテンションも含めて、全ての活動が活発化したことです。そこで「やっぱりこれってコミュニケーション、コミュニティのサービスなんだな」「大事なのは双方向性なんだな」とすごく痛感しました。自分が配信するだけでなく、相手も配信しているからお互いに見に行き合う、応援しあう、そういうソーシャルな側面が重要なんだと。
スマホゲーム、PCゲームの命運を変えた コロナ禍がもたらした“功罪”
ーーミラティブがほかの“ライブ配信アプリ”と差別化するにあたり、ライブゲームサービスのリリースは大きかったようにみえます。このあたりの戦略の変化を教えてください。
赤川:ミラティブアプリでは視聴者がゲームに参加できる「ライブゲーム」サービスを展開していて、アプリ全体の中でも結構な割合の売上やユーザーアクティビティへの貢献をしています。短い開発期間で、今のゲーム業界の主流とは違うやり方で成功例が出ているのは事実です。ただ、本当に世の中に受け入れられていくのは、むしろこれからだと思っています。
ライブゲームの着想のきっかけになったのは『PUBG』などが出てきた頃から、明らかにゲーム実況を通じてゲームがヒットする時代になったと感じたことです。その流れを受けてゲームクリエイターも自然とゲーム実況を意識したゲームデザインを行いはじめていました。とするとその先ではゲーム実況とゲームそのものが融合したユーザー体験ができあがっていく、これは私の中ではきわめて自然な流れでした。実際、”ゲーム実況映え”するゲームが流行る世界観は加速しています。最近だと『8番出口』や『R.E.P.O』のようなインディーゲームなどもそうかもしれません。
ただ、ゲーム実況とヒットが結びつく流れが加速している一方で、視聴者が配信を通じて参加することの当たり前さは、まだそこまで浸透していないと思っています。だから「これから」なんです。10年後もゲーム実況文化は存在感があるはずで、その時に視聴者ができることがコメントとスパチャだけ、というのはちょっと想像しがたいですよね。
ーー2015年から2025年までの10年間の間には、コロナ禍もありました。サービスによっては予定が大きく前倒しになったり、逆に後退したりとさまざまな影響があったと思いますが、ミラティブおよび赤川さんの構想にはどのような影響を与えたと考えますか?
赤川:先ほどお話ししたように、2015年の段階ではすべてのゲームデバイスがスマートフォンに飲み込まれていくのではないかと想像していました。ですので、コロナ禍によってむしろコンソールゲームやPCゲームが大きく伸びたのは完全に想定外でした。日本でもSteamがこんなに浸透すると思っていた人は少なかったのではないでしょうか。ここは完全に読み違えたところです。
その読み違えは、今の新しい戦略にも関連しています。ミラティブのアプリ自体はヘビーユーザーを中心に愛され続けて伸びており、それ自体はものすごくありがたいことなのですが、ゲームに関しては「全部モバイルになる」というよりは、むしろハイブリッド化が進んでいます。スマホが高品質化したことで『原神』のようにPS5でもモバイルでもできるといったクロスプラットフォーム対応のタイトルが増えました。そうした状況の中で、画質などのコストもかかり先行している巨大企業も多いPC向けにサービスを大きくしていくことは、体力的な部分も含めて踏み切れませんでした。
そのぶん、スマホ向けに事業を集中させてきた結果、スマホで配信しているユーザーの数は、どのサービスを差し置いても一番多いというポジションを得ることができました。
ーーPCでの配信勢がコロナ禍によって多くなったことは、ゲームのプラットフォームもそうですが、配信者のありかたも変えたと思います。
赤川:ストリーマーやVTuberなどの配信者等の活躍の場はどんどん広がっており、YouTubeやTwitchなども影響力を大きくしていますよね。僕たちとしてもより多くの配信者にしっかりと価値を提供していこうと考えたことが、会社として新たな展開へ踏み出すきっかけになりました。