又吉直樹が“仙人”の出で立ちで我々を独特な世界に引き込むーーYouTubeチャンネル「渦」の摩訶不思議な面白さ
お笑いコンビ・ピースのメンバーであり、小説『火花』『劇場』などで知られる芥川賞作家・又吉直樹の個人チャンネル【渦】をご存知だろうか。好井まさお、サルゴリラ・児玉智洋、ライス・関町知弘、フルーツポンチ・村上健志、スパイク・小川暖奈などの後輩たちと独特すぎる世界を繰り広げるYouTubeの魔境とも言える摩訶不思議のチャンネルだ。
【渦】のメインコンテンツは「インスタントノンフィクション」。又吉扮する国語教師・髑髏万博(しゃれこうべばんぱく)が老若男女に分かりやすく「国語」を教えてくれる教育系コンテンツだ。
インスタントフィクションとは「高尚なものでなく、自分が普段使っている言葉で自由に軽い気持ちで書く400字の物語のこと」で、唯一のルールは文章のなかに自分が思う「面白い」を入れること。
「400字の物語を書く」と言うと少し敷居が高いように思われるが、普段使っている言葉で、自由に、軽い気持ちで、と改めて言われるととてもハードルが下がり心が軽くなる。
そうして送られてきたインスタントノンフィクションを髑髏が独自の解釈で深読み、考察していくのだが、ときに深すぎて何を言ってるのか分からない部分があるのが面白い。そして、聞き手であるサルゴリラ児玉の相槌も絶妙だ。意味不明なことを口走る髑髏に対し「いや全然分かんないです」「本当ですかそれ?」と、歯に衣を着せぬ物言いでツッコんでいく。
そんな2人のやり取りによって真っ直ぐ読めば、なんでもない、どこにでもあるような文章が、この2人の軽妙なやり取りから紐解かれる文章がどんどん輝きを増し“名文”となっていく。文章を書いたり読んだりすることが苦手だと思う人にこそぜひ観てもらいたいコンテンツだ。
さらに文学だけではない。高校時代は関西の強豪・北陽高校サッカー部に所属し、インターハイの出場経験もあるなど、芸能界きってのサッカーの実力者でもある又吉。その圧倒的な運動神経を活かしたスポーツチャレンジ企画も【渦】の魅力の一つだ。
1週間リアルコーデをサッカーのリフティングしながら紹介する(元・AKB48小嶋陽菜が投稿した動画「LOOKBOOK」のパロディ)、41歳で50m走6秒台に挑戦する、平成ノブシコブシ吉村や大西ライオンやティーチングプロの元内ゆう、などからゴルフを教わるなど、遊びではない本格的なスポーツ企画は、まさに芸人を超えたアスリートの域。
かと思えば、後輩たちと洋服のショッピングに出かけたり、最近観た映画や漫画を紹介したり、激辛レトルト商品の食べ比べをしたり、恋愛トークに花を咲かせたりと、王道YouTuberのような企画にも積極的に挑戦している。
そのギャップにわけがわからなくなる。いったい、又吉直樹という人間はなんなのか、公開されている動画をすべて観ても、その実像がいっさい掴めない。暗くもあり、明るくもある。深く入りこめば入りこむほど、又吉直樹という名の迷宮に迷い込んでいく。誰かのYouTubeを観ていてこんな気持ちになる感覚は初めてだった。





















