『Sora』が映像制作にもたらすのは可能性か、それとも新たな苦悩か OpenAI主催の試写会で感じたこと

AI作品が宿るかもしれない“アウラ”

アーティストのたかくらかずき氏は、「AIを使って完全な映像作品を作るのは初めて」と語る。
「AI視点で“人間の夢を想像する”ことをテーマに作品を作りました。自分はこの2、3年AIを使ってアートを作り続けてきましたが、その中でAIとシュルレアリスムの関係について考えていました。シュルレアリスムは“人間以外の想像力を使う”ことを命題においているので、AIによってそのロジックが完成するのではないか、ということです。今回も夢や超現実といったモチーフを使って、サルバドール・ダリの『アンダルシアの犬』などの作品を引用しました」
同氏は「夢」をテーマに、次々と移り変わる映像を、たかくら氏自身のナレーションとAIによる音声読み上げ、そしてBGMでまとめ上げるような作品『DeepDream』を発表した。
「映像のクオリティを追求することは他の人もやっていることなので、自分はむしろ生成されたものからイマジネーションを受けること、流れに身を任せるように作ることを意識していました。出てきたイメージを繋げていき、その上に僕が日本語でセリフを読み上げる。さらにそのセリフを都度リアルタイムで英訳してAIが音声読み上げを行う、という作り方をしました。BGMも生成したものを編集して使っています」とたかくら氏。
たかくら氏は生成AIを“人間のインターネットやアーカイビングの上にシャッターがのっかっているカメラ”のようなものだと語る。
「ヴァルター・ベンヤミンは写真や映画などの複製技術は、それまでの芸術作品から“アウラ”が失われると主張し、それを歓迎しました。それでいえば、AIは“複製”ではありません。もしかしたらデジタルデータに特有の“アウラ”が宿る時代が来るんじゃないかと思っています」
人間では画面の一貫性を保ちづらい

Shy Kidsはカナダで活動する4人組のインディー・ポップ・バンドであり、映像制作コレクティブだ。今回、バンドの楽曲「My Love」をインスピレーションの元に、2匹の猿の恋愛を描く2分54秒の作品を作った。
作品のモチーフに猿を選んだことについて、「人間を登場させると、どうしてもシーンごとの一貫性を保ちづらい。猿であればシーンが変わっても観客は同一の猿だと認識してくれる」とその理由を語る。
またSoraを利用したことで、制作時間やコストの面でも大きな恩恵を得ることができたという。
「映像としてはリアルな猿を再現しながら、マーロン・ブランド級の演技をする俳優をリアルにつれてくることはできません。それにジャングルに行ったり、すべてをCGで作ることも現実的ではないと思います。制作に当たっては大量の動画を生成し、99%は使っていません」と語った。
映像制作は“簡単になった”のか?
広大な砂漠をロケ地に、巨大な建物と鳥達を用意した映像作品を個人が1週間で作るなど、これまで不可能だったことは言うまでもない。猿にマーロン・ブランドレベルの演技を仕込むことだって、まだ誰にもできていない(人間にだって難しい)。Soraによって、これまで実現できなかった、あるいは考えもしなかった映像制作が実現している。
だからといって制作が“簡単になった”のかといえば、それも違う。たしかに、CMや企業のPR動画など、スピード感を持って機能的な映像を作らねばならない現場において、Soraはコストカットや納期の短縮に大いに貢献するだろう。実際、CM映像の背景などSoraの生成映像を使っている例もあるとSouki氏は語る。
しかし、それぞれのクリエイターが、制作においては膨大な手間と時間をかけ試行錯誤を繰り返したと語っているように、どんな制作手法であれ、納得できるクオリティに到達するのは容易ではない。納期や予算といった概念が比較的希薄な個人制作ともなればなおさらだろう。そうしたタイプの作品においては、作家としてのレベルや個性がこれまで以上に顕著に現れるようになるのではないかと感じる。スマホや安価なカメラ機材が普及したからと言って、フォトグラファーの価値が損なわれることはなかった。今後どのような映像作品が登場するのか楽しみだ。























