連載:クリエイティブの方舟(第二回)
「MVは大喜利だよね」映像作家・関和亮と水溜りボンド・カンタが捉える“映像表現の面白さ”
始まりは“無邪気”でいい ロジックの上に好奇心をプラス
関:最近だとミセス(Mrs. GREEN APPLE)の「ダーリン」のMVを制作したんですが、あれも本当に無邪気なアイデアから生まれて。
カンタ:あれも常軌を逸してますよ(笑)。大人になればなるほど、無茶な提案がしづらくなるというか。要はお金がかかりすぎるじゃないですか。
関:そうだよね。だから花火をこれだけ打てたらベストだけど、もし難しかったらこういう方法もあります、とセカンドプランも用意してました。
カンタ:アーティストに当たってもおかしくないぐらい打ち上げてますよね。
関:安全性への懸念とか、予算的なNGが出る可能性も考えて準備しました。でもこのアイデアが実現できたら、絶対みんな気に入ってくれると思ってました。
カンタ:見たことがない映像でしたもん。花火自体は珍しくないけど、あの量はなかなか。
関:歌詞に「本当の音を聴いて」とあるように、「本音」ことがテーマだと聞いてたんですよ。「本音を出す」って何だろうと考えたときに、「大森さんが歌を歌う=本音を歌う」、つまり「彼が歌うことが本音を出すことである」という結論に至って。大森さんからなにか出たらおもしろいなと考えたんです。
カンタ:無邪気ですね。
関:無邪気だよね。溢れ出す本音を、バーンと打ち上がる花火で表現したいと提案したら本当に実現できたから、僕自身もびっくりしてます。言ってみるもんだなって。
カンタ:僕はやっぱり見たことがあるものを作りたくなっちゃうんですよ。実際バーンって打ち上げてみて、思ったよりダサかったら怖いじゃないですか。前例があるものの方が間違いないと思っちゃう。
関:なるほど。僕はそこまで重く考えてないのかもしれない。実験場くらいの気持ちですね。とはいえアーティストの面は汚せないから、150点、200点が取れるように頑張ってます。いままで大失敗はそんなになかったかな。みんなそこまで冷たくないし、大丈夫だよ。面白そうだからちょっとやってみようとか、出発点はそれくらいでいい気がします。
カンタ:みんな関さんの作品が好きで、「関さんが言うなら絶対面白いから実現させようぜ」っていう信頼感もあるんでしょうね。
関:「それは無茶ですよ」って言われることも多々ありますけどね。
カンタ:そういうときはどうするんですか?
関:そうしたら根本から変えて、手かせ足かせを付けます。自分のなかで制限を設けて、そのなかで何ができるか考えますね。たとえばこのテーブルの上で完結させる、という制限をつけると、また新たなアイデアが生まれてくるから、そっちに全振りするかな。
カンタ:アイデアの引き出しはどうやって蓄えてるんですか?
関:そこまで常に考えてるわけではないけど、普段から周りをよく観察してるかもしれないですね。子どもとか奥さんを見てるとすごく面白いんだよ。昨日も食洗機の洗剤の箱を冷蔵庫にしまおうとして「間違えちゃった」とか言ってて爆笑したもん。
カンタ:僕が関さんにお会いする前は、魔法使いというか、恐怖の対象だったんですよ。絶対やばい人で、瓶とかを投げつけたりしてるんだろうなって(笑)。そうじゃないとあんな作品は作れないはずだと思ってたのは、僕の幻想でしたね。
関:そんな人いないでしょ(笑)。そうであってほしい部分もあるだろうね。意外とロジックを大事にしてるかもしれない。アイデアをスタッフに伝えないといけないし、作品を見る視聴者にも伝わらないと意味がないから、ちゃんと説明できるものになってます。そのうえで、見たことないものや興味があるものをさらに足していく。
カンタ:僕はOK Goが好きなんですが、関さんは「I Won't Let You Down」のMVの監督をされてますよね。あれはもはや、無邪気に「こうしたらおもしろいね」って言える規模感ではないと思うんですよ。
関:現場をまとめるのは僕だったからたしかに大変だったけど、無邪気さは変わらなかったな。マスゲーム(集団演技)するときになにを使うかという話になり、「傘はどうだろう! 傘にしよう!」って言ったら、みんなが「いいね!」と言ってくれて。
カンタ:そんなに明るいトーンのお話じゃないと思うんですけど。
関:それはもう緻密な計画の下でやりましたけどね。準備に時間をかけて。
カンタ:自分も映像チームを作ったりして前進してるつもりだけど、初めてお会いしたときよりもっと関さんの背中が遠くなっていくんですよ。でも近くにはいるし、よくわかんない感覚です。「簡単だよ」って言われても簡単じゃないんですよ。
関:僕はちょっと言語化力が弱いんだよ。うちの若いディレクターに「関さん言語化できてないっすよ」って言われるし(笑)。
カンタ:僕が昔から好きな岡本太郎の本を読んだときも、「芸術は難しいものではなくて、子どものころに自由に描いていたものでいいのだ」みたいなことが書いてあって。頭ではわかるけど、できないんですよ。知れば知るほどできなくなっていく領域もあります。
関:責任感が強いね。無責任になれとは言わないけど、無責任に考える時間を作ってみるといいかも。自分で二重人格を作ってしまうというか。
ーーそろそろ2時間が経ちますね。
関:もう2時間もしゃべったの!?
カンタ:こんなに話せてうれしいな。この連載も、今日のために始めたようなものです。
関:連載のいいところだよね。自分がただただやりたいことができるじゃない? 会いたい人に会いに行けるのはめちゃくちゃいいよね。
カンタ:今度はこういうおもしろい作品ができましたって見せにきますね。
関:待ってます! 今度は普通に飲みにも行こうね。