グリーエンターテインメントが見据える“IPプロデュース”の未来 いまこそ重要なIP展開の「ストーリーテリング」とは

 グリーグループは2024年11月14日、さらなる事業推進とユーザー体験の強化を目的に、WFS、ポケラボ、グリーエンターテインメントの3社におけるライブサービスゲーム事業などを、WFSに統合することを発表した。

 そしてグリーエンターテインメントは2025年1月1日より、“IPを多角的にプロデュースする会社”として始動。これまでアニメ製作やライセンス事業を通じて多くのIP創出や発展に取り組んできた同社は、グローバル規模でのIP展開を見据え、幹事としてのアニメ製作、ゲームパブリッシング事業、音楽事業、MD事業などにも取り組むべく新体制を構築したという。

 そこで今回、リアルサウンドテックは同社の代表取締役社長を務める柿沼洋平氏にインタビューを実施。ドラマチックRPG『ヘブンバーンズレッド』(以下、『ヘブバン』)のプロデューサーとしても知られる同氏に、新体制への移行の経緯や狙い、IPプロデュース事業の展望などについて語っていただいた。(編集部)

『ヘブバン』プロデューサー業で感じた双方向コミュニケーションの重要性

――まずはこのたびの、IPプロデュース会社への体制変更の経緯や狙いについて教えてください。

柿沼:グリーグループおよび、我々グリーエンターテインメントは、もともとゲームとアニメを中心に事業展開しておりまして、現在も中核事業であり強みとしています。そうしたなかで、昨今、お客さまのコンテンツの触れかたの多様化を強く感じています。

 たとえば、これまではゲーム中心に触っていた方が、現在はゲーム発のIPであってもゲームの中だけでコンテンツを楽しむのではなく、好きなキャラクターのグッズや、世界観を再現したコラボカフェ、コミカライズ、舞台、ドラマCD……といったように、ゲーム内外を通じてコンテンツを総合的に楽しんでいただくような傾向があります。

 したがって、ひとつのIPをひとつの媒体だけではなく、より多角的にコンテンツに触れる機会を創出し、お客さまとの接点を増やしていくことで、IP自体の広がりや成長に寄与するような多角的なIPプロデュースをしていくべく、新体制へと移行させていただきました。

――ユーザーのコンテンツへの触れかたの変化を感じたことが、今回の決断につながったわけですね。

柿沼:そうですね。再編をするにしても、もともと持っていた強みが発揮できなくなっては意味がないと思います。我々の強みをさらに研ぎ澄ますためにも、おもにゲームを直接ディベロップメントするゲーム開発部隊はライトフライヤースタジオ(WFS)に集約することになり、そのぶんグリーエンターテインメントは、アニメやIPライセンス事業を担ってきたIPプロデューサー集団へと特化してくことになりました。お互い、自分たちの得意な事業に集中し、それぞれをさらに成長させていこうという狙いがあります。

――柿沼さんは『ヘブンバーンズレッド』のプロデューサーとして、定期的にファンミーティングを開催することなどでユーザーと密にコミュニケーションを交わされてきました。そうしたご経験も、“多角的なIPプロデュース”という方針策定に影響を与えたのでしょうか。

柿沼:はい。私自身、『ヘブバン』開発・運営に携わったことで価値観に大きな変化がありました。『ヘブバン』ユーザーのみなさまは、新たなバトルコンテンツやイベントシナリオをリリースした際に、それらをコンテンツとして表面的に楽しんでくださるだけでなく、その裏側に込めた開発・運営側の意図まで汲もうとしてくださるんです。

 原案・メインシナリオを担当する麻枝 准さんや、開発担当のライトフライヤースタジオは、どういった意図でこのコンテンツを作ったんだろう、何を伝えたいんだろうという部分まで、総合的に楽しんだり判断していただいているのだなと感じています。

 だからこそ我々も、ただ作って終わりではなく、双方向でコミュニケーションする必要性を強く感じました。我々としても、どういった意図でどう楽しんでいただきたいかを、ファンミーティングなどをとおしてお伝えしますし、逆にお問い合わせ等を通じて寄せられるお客さまからのポジティブなフィードバックから、ご意見、改善のご要望までを真摯に受け止めて、それらをつぎに活かしていくサイクルが極めて重要だと考えています。

――実際、『ヘブバン』は、リリース当初と比べてユーザビリティがものすごく上がったように感じています。ユーザーとの双方向のコミュニケーションが、現状の充実ぶりにつながっているわけですね。

柿沼:ありがとうございます。常にコンテンツを増やしていくなかでも、久しぶりにプレイされる方や新規の方が置き去りにならないように、「今日初めて『ヘブバン』をプレイするユーザーさんがどう思うか?」という“DAY1精神”を忘れずに、今後もチューニングを行っていきたいです。

10年にわたるアニメ事業の経験と、ゲーム事業で培ったノウハウを武器に

――新体制への移行を経て、各事業領域の取り組みかたや運用上の考えかたなどが変化する部分はありますか。

柿沼:我々としての、ものづくりに対するスタンスは基本的に変わりません。たとえ会社として組織や戦略を変更しようとも、重要なのはアウトプットであり、リリースした製品や施策を見てお客さまは判断されるわけです。

 ゆえに、たとえばゲーム事業をひとつのスタジオに集約したからといって、ユーザーのみなさまが求めていないような機能が勝手に追加されるようなことはなく、あくまでその時々でお客さまが最も求めているものに向き合い、取り組んでいく姿勢は変えずに貫いていく所存です。

 そのうえで、それぞれの得意分野に注力できるよう事業再編したぶん、各領域を広げる、成長させていくというフェーズでは各々の事業ドメインの特色を出しやすくなったと言えるので、さらなる機動力の上昇が見込めると思っています。

――グリーエンターテインメントとして注力していくIPプロデュース事業に関しては、再編によってどのような好影響があるとお考えでしょうか。

柿沼:具体的なお話をさせていただくと、グリーエンターテインメントとしては今後一層アニメ事業を強みとして伸ばしていきたいと考えています。「グリー」というとゲームのイメージが強いと思いますし、実際に収益としてもゲームが占める割合が大きいのは事実です。ただ、じつはアニメ事業もかれこれ10年以上にわたって取り組んできた領域となっています。

 もともとはゲーム事業の延長として、アニメのゲーム化権を獲得することを目的にアニメ製作委員会への出資をおもに行ってきました。ただ、アニメの領域に携わる機会が増えたことで、我々としてもノウハウや関係各社様とのリレーションが蓄積できていき、現在はアニメに関する業務を事業として取り組める規模となった経緯があります。

 そうしたなかで、昨今のアニメは配信プラットフォームの成長に伴って、よりグローバルにご視聴いただけるようになったこともあり、よりアニメを効果的に活用できる施策がないものかと模索してきました。その一案としてこれから打ち出していこうと考えているのが、アニメとのコラボレーションです。

――アニメのコラボレーションというと、TVCM枠の活用や、アーティストからのオープニング・エンディング楽曲の提供といったイメージでしょうか。

柿沼:そのとおりです。アニメの宣伝枠の活用はもちろん、アーティストさまと柔軟な関係性を構築して、お互いを伸ばしていくことができたらと考えています。たとえば、我々がアニメを製作することによって確保できたCMの宣伝枠を、アーティストさまに提供させていただき、ご自身の楽曲を多くの方々に知っていただく機会につなげていただければと思っております。

 またアーティストさまにアニメ作品に関心を持っていただき、可能であれば一部告知の協力をいただくことで、我々やアニメ側にもプラスがあります。お互いにメリットがあるような方向性で、実際に複数の案件を水面下で進めている段階です。

――いわゆるアーティスト育成の領域にも踏み込んでいくということなのでしょうか。

柿沼:アニメを通じてアーティストさまの育成に貢献できればと考えています。

 アーティストさまご自身であったり、所属するマネジメント事務所さまであったりが、より広範囲に展開していきたいと考えた際のひとつの武器として我々のアニメ事業を選んでいただくことで、Win-Winの関係性を構築していくことができれば、という発想です。

――アニメとアーティストの結びつきがより強固になることで、アニメ側にもアーティスト側にも認知の向上が見込めますね。

柿沼:はい。我々アニメ事業の目線でお話をすると、もともとはゲーム化権の獲得を目的として製作を行っていたのが、最近ですと投じることができる製作の出資額が増加したことで、製作委員会の共同幹事や主幹事を受け持たせていただくケースも増えてきています。

 結果、宣伝業務なども担当することになるので、以前にも増してIPに対して責任を持って向き合う必要性が出てきています。そこで我々がゲーム事業で培ったマーケティングのノウハウなども活かしつつ、アニメのプロモーションを行い、おかげさまで多くの反響をいただいております。今回、そうしたアニメ事業のさらなる成長に向けてアーティストさまと協業し、弊社としてもよりマーケティングの手段を広げていきたいと考えています。

――ゲーム事業で培ったノウハウが、アニメ事業のマーケティングにも転用できているのですね。

柿沼:ゲームとアニメでは、予算規模やプロモーションに対してそれぞれ異なるアプローチになります。アニメのプロモーションでは、まず公式ホームページの制作やPVの公開が重要なステップとなり、その後の特番や生配信などを通じて個性を際立たせていくのが一般的です。

 一方で、私たちは一般的なアニメプロモーションに加えて、ゲーム事業を通じて培ってきたデータ分析のノウハウを活かし、PDCAサイクルを回しながら、より柔軟かつ効果的なプロモーションを展開することを得意としています。

 初期にマーケティングストーリーを徹底的に考えプロモーションを重ねることで、より効果的な施策へと進化させていきます。お客様の反応を細かく分析し最適化を重ねることで、限られたリソースの中でも最大限の成果を生み出せるよう努めています。

――少し話は戻りますが、今後、グリーエンターテインメントとして次世代のアーティストの発掘などに取り組まれる可能性はあるのでしょうか。

柿沼:あり得ますし、そういったお話をご相談いただく件数も増えてきています。次世代アーティストの発掘からは少し逸れるのですが、近年はいわゆるリブートプロジェクトのご相談も多いですね。

 アーティストとして長年活動してきたなかで、一旦は活動を休止、あるいは区切りはつけたけれど、いまなおコアなファンがいらっしゃって、活動再開を求める声も多いと。ただ、人知れず再始動をしてもコアなファン以外からは注目を集めづらいので、再始動プロジェクトにおいてタッグを組んでもらえないか、といったお話もいただいています。

“お客さまファースト”のストーリーテリングによって、日本のIPを世界へ

――ユーザーのコンテンツの楽しみかたが多様化するなかで、プロモーション手法にも変化が求められますよね。

柿沼:そうですね。たとえばスマホ向けゲームですと、10年前に比べて現在は格段にインストール数を獲得しづらくなっています。よって、初期段階でマスに広げてからコアユーザーを醸成するといった手法が通用しなくなってきていると。現在は完全に逆で、たとえ小さくてもいいから火種となるコア層を作りにいくことが重要ですね。まずコアを意識して、そこからマスにつなげていくという。

――趣味の多様化によって競合コンテンツも増加し、マスに向けた戦略が極めて採りづらくなっているのですね。

柿沼:だからこそ弊社は、IP展開のストーリーテリングが重要であると考えています。たとえばゲームだけではもったいないからコミカライズをやってみる、といった発散的な展開をすると、結局はそれぞれが単発的に消費されるだけで終わってしまいますよね。

 そこで、まずはゲームとして世界観を固めていくことに注力し、しばらくしてユーザーのみなさんがコンテンツの世界観に慣れ親しんできたタイミングでコミカライズを打ち出して気軽に楽しめるようにし、シナリオにのめり込んでくださる方が増えたタイミングで舞台化するというように、お客さまの心情に沿って、どうすればより長く持続的に楽しんでいただけるかを考えていくプランニング的な目線が、いまの時代において重要なのではないかと。

――「IPをプロデュースする」ということは世界的なトレンドにもなりつつあるかと思います。業界は今後、さまざまなコンテンツがあふれる多様化の時代になるのでしょうか。それとも人気の特定コンテンツが集中的に消費されるようになっていくのでしょうか。今後の展望をお聞かせください。

柿沼:結論から申し上げますと、自分たちの意義・価値としては多様化していくことが理想です。ただ、どんどんIPが増えていけば売れるもの・売れないもので2極化するわけで、事業としては“売れるもの”に懸けていくべきである、という話が一般論としてあると思います。

 しかしながら、我々は自分たちのアニメ製作によって保有している作品以外にも、各出版社さまやパートナー企業様とのお取引のなかで、弊社がアニメ製作をしていない作品も「共同プロデュース」という形でお預かりしています。

 そして、実際に共同プロデュースとして海外のパートナーさまとゲーム化をさせていただいた事例もございまして、たとえば最近ですと『聖闘士星矢レジェンドオブジャスティス』があります。本タイトルは日本だけでなく、南米でも人気があり、多くの世界中のお客さまに遊んでいただいており大変嬉しく思います。

――南米と聞くと意外な印象がありますね。グローバル展開まで視野に入れると、どのようなIPヒットするかの予測がより困難になると。

柿沼:そのとおりです。日本はコンテンツ大国として、埋もれているけれど魅力的なIPや、国内では勢いが落ち着いていても海外ではヒットする可能性を秘めたIPなどが、まだまだ眠っていると思います。実際にそうした事例を何度も目の当たりにしています。

 そういったグローバルな時流も注視しながら、ポテンシャルを秘めたIPのプロデュース事例を増やしていき、日本のIPやゲームで世界を熱狂させることが我々のミッションであると考えています。

――グリーエンターテインメントとして、“IPプロデュース”の領域でどのような存在感を示していきたいとお考えでしょうか。

柿沼:「何かあったらグリーに相談してみよう」というような、みなさまにとってのファーストチョイスの企業になることが理想です。直近でも我々の取り組みに興味を持ってくださった企業さまが、「一緒に取り組んでみて面白い結果になったから」とお知り合いを紹介してくださったことがありました。

 そのようにしてリレーションシップを広げていき、最終的には「まずはグリーに声をかけてみるか」と思っていただけるような存在になりたいですね。何でも屋だと思って、気軽にお声がけをいただけたらなと。相談料がかかるわけでもないですし(笑)。

――IPプロデュース事業のみならず、グリーグループとしてさまざまな事業を展開していることも強みと言えそうですね。

柿沼:おっしゃるとおりです。我々でやれることは全力を尽くさせていただきたいのですが、得意とする領域の外で出しゃばりすぎてもよくないですから。結果的にはグループ会社におつなぎするケースもございます。

 ゲームとして展開したいのであればWFSがありますし、広告出稿ならば弊社ならびに広告代理店事業を手掛けるグロッサムがあり、メタバース領域であればVTuber事務所を運営するREALITY Studios、さらには企業のDXを支援するグリーエックスがあります。グループ会社のなかに適切な連携先がなければ、業界内の横のつながりから紹介させていただくことも可能です。ぜひ、さまざまなシーンやニーズで弊社をご活用いただきたいと思います。

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