『ドンキーコング ジャングルビート』は、任天堂の“ある精鋭開発チーム”をデビューさせた記念碑的作品だ
12月16日をもって『ドンキーコング ジャングルビート』(以下、ジャングルビート)の発売から20年が経った。ニンテンドーゲームキューブ向けに発売された横スクロールアクションゲームで、1981年から続く「ドンキーコング」シリーズの一作である。
『ジャングルビート』が発売された2004年は、『ドンキーコング』シリーズにとっての転換期だった。その背景にあったのは、1994年11月26日発売の『スーパードンキーコング』(スーパーファミコン)以降、「ドンキーコング」シリーズの新作を専属で担当していたイギリスのゲーム開発会社「レア(RARE)」の離脱。
それまで同社と提携を結んでいた任天堂は2002年9月、過半数を保有していた株式すべてをマイクロソフトへと売却。以降、レアはマイクロソフトの完全子会社となり、作られたゲームはXboxプラットフォーム主体で供給されていくことになった。同時に「ドンキーコング」シリーズの開発からも身を引いてしまったのだ。
厳密には、ゲームボーイアドバンス向けに発売された「スーパードンキーコング」シリーズ3作の移植版は引き続きレアが開発を担当している。ただ、新作については体制が改められ、その初手として2003年にナムコ(現:バンダイナムコエンターテインメント)が開発した『ドンキーコンガ』なるリズムアクションゲームが発売。
それに続く、横スクロールアクションの新作として発売されたのが『ジャングルビート』だった。実はこの『ジャングルビート』、後にさまざまな名作を世に送り出していくことになる、ある任天堂開発チームのデビュー作でもあった。
音楽ゲーム用コントローラで遊ぶ、ワイルドでパワフルな爽快アクションゲーム
開発チームの詳細は後に回して、先に『ジャングルビート』の内容と見どころを紹介したい。
冒頭にも触れたように、『ジャングルビート』は横スクロールのアクションゲーム。主人公のドンキーコングを操作してさまざまなステージを駆け抜け、待ち受ける動物の王たちを力でねじ伏せて「王の中の王」を目指すというものである。
世界観とストーリーは当時の本流だった「スーパードンキーコング」とは一切の関連性を持たない。そのため、ディディーコングら相棒キャラクターたちのほか、元祖ドンキーコングことクランキーコングを始めとする「コングファミリー」は一匹も登場しない。さらに言えば、「スーパードンキーコング」シリーズの象徴的な悪役であるキングクルールとその配下の「クレムリン軍団」も未登場。関連するキャラクターと要素はドンキーコングとバナナだけと、非常に割り切った設定になっている。
本編の流れも「スーパードンキーコング」とは別物。2つのステージとボス戦ステージが地続きで構成された「コース」を攻略していくという内容だ。「スーパードンキーコング」シリーズの相棒キャラクターとのタッグプレイ、「KONGパネル」のアイテムなどの要素もない。バナナに関しては存在するが、100個集めると残機が上昇する仕組みは省かれている。まさにドンキーコングを主人公にした新しいアクションゲームとも言える、新規性を前面に出した仕上がりだ。
そんな新規性のなかで、群を抜いているのが操作全般である。前述のリズムアクションゲーム『ドンキーコンガ』向けに作られた周辺機器「タルコンガ」を使ってドンキーコングを動かすのだ。
「タルコンガ」は2個のタルがくっ付きあったデザインが特徴の周辺機器。それぞれのタルの上部分には叩く面があり、中央には「手拍子センサー」なる、一定以上の音量を感知すると反応するセンサーが備えられている。この2つのタルの右側を叩くとドンキーコングが右に動き、逆に左を叩くと左に動く。タルを連打するとダッシュ。また、両方のタルを同時に叩くとジャンプし、センサーに向けて手を叩くと、ドンキーコングの周囲に衝撃波を放つ「音波アタック」が繰り出される。
さらにバナナなどのアイテムや触れる対象が近くにあるときに手を叩くと、「クラップキャッチ」なるアクションが発動。バナナをキャッチしたり、敵であれば追加の攻撃を叩き込むターンへと移ることができる。
文字に起こすだけでも奇抜さが察せると思われるが、操作自体は簡単で取っつきやすく、レスポンスも良好。加えてダッシュ中にタルコンガを逆方向に叩くと「バック宙返り」、ジャンプ中に左右同時押しで「クイックドロップ」なる技が発動するなど、アクションの種類も意外に多彩。
それでいて、桁違いの爽快感を誇る。本作のドンキーコングの主要攻撃手段はパンチとキック。迫りくる敵を豪快に殴っては蹴り飛ばしていくという、大変パワフルなものになっている。
とりわけその凄味が表現されているのが、耐久力の高い敵に対しての追加攻撃。相手の上にまたがり、『北斗の拳』の北斗百裂拳ばりの連続パンチを叩き込むのである。各コースの最後に対峙するボスも、同じように隙を突いて連続パンチを決めていくのが基本戦術となる。もちろん、パンチを叩き込むに当たっては、タルコンガの両面を“ボコスカ”と連打する。
このようなアクションの存在もあって、『ドンキーコング』としては異例の爽快感が表現されている。演出面でも爽快感を際立たせる工夫がされており、連続パンチを決めるときにはカメラがドンキーコングに接近。さらにトドメを刺したときには、画面全体が色反転したのち、相手が倒れる様が描かれるという、とてもスカッとさせられるものになっている。
ほかに本作ではバナナを取ると画面左上にある、ドンキーコングの残り体力も兼ねた「ビート」なる数値が上昇。ただ、ジャンプした後に「クラップキャッチ」を決めたり、特殊なアクションを決めると発生する「コンボ」が出ている際に取れば、普通に取るよりも多くのビートを獲得できる。
その限界を突き詰めるスコアアタックも面白く、総合成績に応じて金銀銅+αのグレードに応じた「クレスト」なる称号が得られるチャレンジ要素も用意されていて、やり込み甲斐もある。それまでの「スーパードンキーコング」とは異なる世界観も総じてぶっ飛び気味。なかでも宇宙を舞台にしたコースの存在はその極致と言えるだろう。
ボスに色違いの使いまわしが目立つ、ビートが稼ぎにくいステージは相対的に難易度が上がる、そして操作スタイルの関係で勢いあやまると手を痛める恐れがある(※一応、従来型コントローラによる操作にも対応している)などの難点も見られる。だが、総合的な完成度は高く、爽快感の高さから、「スーパードンキーコング」シリーズにはない強烈な個性を持ったアクションゲームに仕上げられている。
実は後に3Dマリオシリーズの開発で知られるようになる、任天堂東京チームのデビュー作
この『ジャングルビート』を作ったのは任天堂内部の開発チーム。それも本社のある京都ではなく、東京の開発チームだ。
任天堂の開発拠点と言えば、2003年上半期辺りまでは本社のある京都というのが一般的だった。しかし同年7月、京都から一部のスタッフが東京へと進出。立地調査などの準備を経て、当時の東京・浅草橋にあった「任天堂東京支店」と双子のビルの中で新たな開発拠点が始動した。それが後に「東京制作部」と呼ばれるようになる、任天堂初の東京の開発チームだった。
その東京チームのデビュー作というのが『ジャングルビート』だったのだ。東京制作部の設立については、かつて任天堂公式サイトに掲載されていた「Nintendo Online Magazine(N.O.M)2004年7月号(No.72)」で初めて公表。主要メンバーは2002年7月にニンテンドーゲームキューブ向けに発売された『スーパーマリオサンシャイン』のスタッフで、前述の「N.O.M」によれば同作の開発終了後、設立に向けて動き始めたという。
つまり『ジャングルビート』の発売20周年は、東京チームのデビューから20年であることも意味する。なお、2024年現在は組織再編によって「東京制作部」とは呼ばれなくなった。ただし開発拠点としては健在で、2024年現在は東京の神田へと場所を移している。
東京チームは『ジャングルビート』の後、Wii向けに当時の3Dマリオシリーズ最新作『スーパーマリオギャラクシー』を開発。以降、『スーパーマリオギャラクシー2』、『スーパーマリオ3Dランド』と3Dマリオの新作を次々と開発し、その専任としてのイメージが強固になっていった。2024年現在も特にコアな任天堂ファンの間では、東京チームと言えば3Dマリオの開発元との印象が強いと思われる。
同時に任天堂の開発チームのなかでも、とりわけ攻めの姿勢を見せる精鋭チームとの印象を持つ人もいるかもしれない。事実、東京チームは面白い遊びのアイディアを盛り込むためなら、型を破ることもいとわない姿勢をさまざまな作品で披露しているのだ。
2013年発売の『スーパーマリオ3Dワールド』は分かりやすい一例だろう。マリオたちが分裂する「ダブルチェリー」のアイテム、『スーパーマリオカート』のパロディそのものな「ダッシュレーシング」なるコース、そして「キノピオ隊長」を主人公にしたコースといった、非常に意欲的なアイディアが多数、本編に盛り込まれている。さながら「アイディアのおもちゃ箱」と言わんばかりだ。
デビュー作『ジャングルビート』にも、そんな攻めの姿勢の原点が多く見られる。前述したように『ジャングルビート』はドンキーコングとバナナ以外では、本流たる『スーパードンキーコング』から引き継がれた要素がひとつもない。
だから宇宙を舞台にしたステージが登場することもあれば、明らかにドンキーコングの世界観的に場違いな敵キャラクターがしれっと出てくる。そして、それらをタルコンガの操作と絡めた遊びに昇華するのと同時に、不意に笑ってしまうネタを見せつけてくる。一部のステージに登場するバレリーナのパンダや、バッファロー風のキャラクターに乗って雪原を走り抜けるステージはその象徴だ。
マニアックなネタとしては、とあるコースのボスとして登場するイノシシのボスが、某電気ネズミな「でんこうせっか」を決めてくるというのもある。実際に狙って仕込んだものかは不明だが、そのような遊びもネタも、面白ければ積極的に採り入れてしまう姿勢はまさに東京チームの個性であり、後の「アイディアのおもちゃ箱」の原点と言えるだろう。
気が付けば『ジャングルビート』でのデビューから20年が経過したが、東京チームの攻めの姿勢はさらに輝きを増している。とりわけ2017年発売の『スーパーマリオオデッセイ』は、『ジャングルビート』からスタートした東京チームの強みが最も発揮された作品と言える。
3Dマリオに限らず、東京チームは他にも『うごくメモ帳』に『ファミコンリミックス』、そして『スーパーマリオ3Dワールド』から独立した『進め!キノピオ隊長』といった意欲的な新作をこの20年の間に出している。また、2023年発売の『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』には、東京チーム出身の林田宏一氏がゲームデザインとして参加した影響からか、それまでのシリーズにも増して型破りな2Dマリオが誕生するに至っている。
ついには本家本元たる京都の開発チームにも波及し始めた東京チームの制作スタイルだが、『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』のことも踏まえれば今後、さらにそれが浸透し、極まっていくのかもしれない。その結果、どのような攻めた新作を生み出すことになるのか。また、マリオ以外のシリーズにもそれが現れるようになるのか。いろいろな意味で双方の動向からは目が離せないと言ってもいいだろう。
『ジャングルビート』の名残と影響はいまもなおあちこちに
なお、3Dマリオを専属で手掛けるようになって以降、東京チームは「ドンキーコング」の新作を作っていない。2024年のいまも、『ジャングルビート』が唯一のタイトルとなっている。厳密にはWii向けのアレンジ版『Wiiであそぶ ドンキーコング ジャングルビート』があるが、路線を継承した続編に当たるものは存在しない。
2010年には『ドンキーコング リターンズ』が発売されているが、同作は「スーパードンキーコング」の系譜に連なる作品のため、『ジャングルビート』由来のシステムや世界観は引き継がれていない。ただし、各エリアのボスを操る「ティキ族」にトドメを指すときに連続パンチを叩き込むという、『ジャングルビート』を思わせるフィニッシュイベントが存在。
『ジャングルビート』で確立された、ワイルドでパワフルなドンキーコングというイメージは継承された格好だ。また2024年12月11日、ユニバーサルスタジオジャパンでオープンした『ドンキーコング・カントリー』のエリアには「ジャングル・ビート・シェイク」なるフード&レストランもあるなど、名残がいくつか見られる感じだ。
『ジャングルビート』は、前述のWii向けアレンジ版以外の移植および復刻版は、本稿執筆時点で存在しない。タルコンガ操作に対応したオリジナルのニンテンドーゲームキューブ版もまた然りだ。任天堂内部のチームが開発した作品であることから、将来的な復刻の可能性はあると思われるが、おそらくはオリジナルではなく、Wiiのアレンジ版がベースになる可能性が高いだろう。
正直なところ、Wiiのアレンジ版は筆者個人としてはオススメしにくい。ドンキーコングの弱体化(※3ダメージまで許容されるライフ制の導入、音波アタックの範囲制限、残機制の導入が実施されている)による難易度上昇と、Wiiリモコンおよびヌンチャクを激しく振ることが要求されるゆえ腕が筋肉痛になりやすいのが理由だ。
とは言え、ゲーム自体の面白さと売りである爽快感は据え置き。復刻するか否かはまったくもって読めないが、もし機会があれば、(筋肉痛に警戒しつつ)その豪快なアクションと爽快感を味わってみていただきたいところである。
また、東京チーム……特に代表作たる3Dマリオについては、2021年の『スーパーマリオ3Dワールド+フューリーワールド』以降、音沙汰がない。完全新作として収録された『フューリーワールド』がオープンワールド風のゲームデザインであったことから、次作はそれに近しいものになることが推察されるが、これもまたまったく読めない感じである。
とは言え、攻めることに関して定評のある東京チームのことだ。きっとまた、プレイヤーを「あっ」と言わせてくれるのは間違いないと思われる。いつの日になるのかは分からないが、そんな東京チームの次を体験できるときを心待ちにしたいこのごろである。
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