新作RPGが飛躍した2024年のゲーム界 “古き良き”体験を提供した『ユニコーンオーバーロード』の功績を再考する
「2024年のゲーム業界をひとことで表せ」と言われたら、みなさんはどのように答えるだろうか。おそらく好きなジャンルや主戦場としているプラットフォーム、この1年にプレイしてきたタイトルなどによって、感じ方はさまざまであるはずだ。私は「JRPGの躍進が際立った1年だった」と締めくくりたい。本稿では、そうしたムーブメントの旗振り役となった2作品をピックアップ。その共通項から賞レースで不振に終わってしまった一方の再評価を考えていく。
『ユニコーンオーバーロード』の不振に感じた残念さ
年末に開催される表彰式典が閉幕を迎え、ひととおりの振り返りが済んだ2024年のゲーム業界。すべてのノミネート作品/受賞作品に目を通して感じたのは、今年発売の“あるタイトル”が、思いのほか評価されていないことだった。そのタイトルとは、ヴァニラウェアが開発し、アトラスが発売した完全新作のシミュレーションRPG『ユニコーンオーバーロード』だ。
昨年9月に配信となった任天堂の新作情報番組『Nintendo Direct 2023.9.14』で突如発表された同作は、2024年全体でも、注目度、期待度ともに上位のタイトルだったように思う。リリース後もそうした前評判を裏切ることなく、ユーザーの高評価を獲得。発売から約半年が経過した2024年9月には、全世界での累計販売本数が100万本を突破した。新規IPであることを考えると、この数字は大成功と言えるものだろう。
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参考までに、2019年11月に発売され、口コミで支持を広げたヴァニラウェアにとっての前作『十三機兵防衛圏』は、同数を売り上げるのに約4年の歳月を要している。この比較からは、『ユニコーンオーバーロード』がいかに多くのプレイヤーにリーチし、相応の評価と売上を獲得してきたかがわかるはずだ(あえて明言しておくが、両作のあいだにはターゲットやジャンルなど、異なる点も多いため、単純に作品同士の優劣を語る話ではない)。
しかしながら、年末に開催された表彰式典では、『Golden Joystick Awards 2024』でノミネートなし、『The Game Awards 2024』で1部門ノミネート(Best Sim/Strategy Game:未受賞)に終わった。その裏には該当しうる部門が存在しないなど、さまざまに理由はあるだろうが、たとえば、後者における「Best Game Direction」「Best Narrative」「Best Art Direction」あたりは、『ユニコーンオーバーロード』にも十分にチャンスのあるカテゴリだったのではないだろうか。もしかすると、こうした状況に違和感を覚えているのは、私だけなのかもしれない。それほど、私にとって『ユニコーンオーバーロード』は、2024年を代表しうるタイトルだった。
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『メタファー:リファンタジオ』の躍進が照らす『ユニコーンオーバーロード』再評価への道
一方、賞レースの場において、クオリティや評判に対し、妥当とも言える高評価を獲得したのが、おなじくアトラスが手掛けた完全新作のファンタジーRPG『メタファー:リファンタジオ』だ。同作は、『Golden Joystick Awards 2024』『The Game Awards 2024』の双方で、最優秀作品賞にあたる「Ultimate Game of the Year」「Game of the Year」にノミネート。惜しくも受賞を逃したが、大いに存在感を示した。
また、前項で「『ユニコーンオーバーロード』にもチャンスがあった」とした後者の3部門にもすべてノミネートされており、「Best Game Direction」こそ、Team ASOBI開発、ソニー・インタラクティブエンタテインメント発売のアクションアドベンチャー『アストロボット』に譲ったものの、残りの2つである「Best Narrative」「Best Art Direction」では、並み居る高評価作品たちを抑え、見事に戴冠へと至っている。そうした結果に対して抱く印象は、プレイヤーによって異なるようだが、このように多種多様な意見が出てくることこそ、さまざまな層にリーチしたことの裏付けであるように感じる。新規IP、かつ国産のRPGとして2024年を代表する活躍を見せたのが、『メタファー:リファンタジオ』だった。
一見すると、「RPGという広い意味での分類」「ファンタジーを題材にしたシナリオ」「アトラスが携わっていること」以外に接点がなさそうな『ユニコーンオーバーロード』と『メタファー:リファンタジオ』だが、そのゲーム性を紐解いていくと、“ある共通項”が浮き彫りとなってくる。それは「それぞれが古き良きビデオゲームの原体験を意識したデザインをその根幹に据えていた」という点だ。
たとえば、『ユニコーンオーバーロード』では発表当初から、「1990年代の名作シミュレーションRPGが持つ重厚な雰囲気や戦術性をフィーチャー・継承した、懐かしくも新しい唯一無二のゲーム体験」がセールスコピーに掲げられていた。実際に盛り込まれた体験もまた、示された内容と違わぬもので、多くのプレイヤーが『伝説のオウガバトル』など、シミュレーションRPGジャンルの金字塔を例に挙げ、好意的な評価を寄せていた。
他方、『メタファー:リファンタジオ』では、「真・女神転生」や「ペルソナ」「世界樹の迷宮」など、アトラスの誇る人気シリーズから引き継がれたとみられるデザインがひとつの個性となっていた。「プレスターンバトル」や「カレンダーシステム」はその一例だ。どちらもが当該シリーズにとっては代名詞となりつつある仕組みであり、そこに含まれる遊び心の大きさは約束されていた。当該作品をプレイしたことがある層にしてみれば、新規IPである『メタファー:リファンタジオ』の世界にすんなりと入り込んでいく、さらにはより深く没入していくための、小さくない動線となっていたはずだ。
私は先日掲載された『メタファー:リファンタジオ』に関する記事のなかで、同作のJRPGとしての性質に触れた。「アトラスの人気シリーズから引用されたさまざまなシステム」「考えさせられるテーマを内包しつつも、万人向けでわかりやすいシナリオ」「ゲームへの没入感を高めるグラフィック/音楽」が大きな個性となっており、そのことが『The Game Awards 2024』における3冠の獲得へとつながったというものだ。
その記事では、『メタファー:リファンタジオ』のみを説明する言葉として上述の3点を並べたが、これらはすべて、同様に『ユニコーンオーバーロード』にも通ずるものである。そうした観点に立つと、むしろ両作は、おなじ成分を持つタイトルとして一括りに語られるべき、2024年の話題作だったのかもしれない。“JRPGらしさ”と“現代性”をうまく融合したことこそが、『ユニコーンオーバーロード』と『メタファー:リファンタジオ』が大いに評価されたポイントであり、その意味において、両作の成功は、ひとつの文脈で切り取ることができる、2024年きってのトピックと考えられるのではないだろうか。
『ユニコーンオーバーロード』が年末の賞レースにおいて奮わなかったことは残念だったが、それでも同作がゲーム業界に与えたインパクトは色褪せない。むしろおなじ文脈上にある『メタファー:リファンタジオ』が躍進を見せたことで、放たれる存在感もあるのではないか。2024年は、JRPG再興の気運の高まりを感じさせられる1年だったように思う。
『メタファー:リファンタジオ』が『TGA2024』3冠獲得 示唆されるのは“JRPGへの大回帰”か
世界最大級のゲーム表彰式典にて3冠を獲得した『メタファー:リファンタジオ』。本作の戴冠によってJRPGを再評価する機運が高まる可…