連載:あなたを作る10曲(第二回)
Charli XCX、乃木坂46のMVも手掛けた映像作家・柳沢翔を形作る10曲とは? ヒップホップが与えた影響と共にプレイリスト紹介

柳沢翔のプレイリスト
1. N.E.R.D「Stay together」(2001年)
僕は、NEPTUNES直撃世代なんです。ジャスティン・ティンバーレイクの『Like I love you』MVの最後の方に黄色いキャップを被ったラフな格好の青年がキレッキレのロッキンをしてるのが映って。もうそれがめちゃくちゃカッコよくて。今の時代で例えるなら初めてBTSのテテを目撃したような衝撃ですよ(笑)。速攻調べたらなんと彼がNEPTUNESのファレルだった! トラックメイカーとして名前だけは記憶していたので、さらにショックを受けました。お前こんなにカッコいいんかい! と(笑)。
たしか僕が大学生の頃に、N.E.R.D.の初来日公演が新木場 STUDIO COASTであったんです。1人で観に行きました。最高でした。アンコールでファレルが客をどんどんステージに上げながら。アフターパーティーを渋谷のクラブNUTSでやると叫んでたんです。ライブが終わって、すぐに向かいました。そしたら、ファレルがクラブ前のガードレールにちょこんと座って、ブラックベリーいじってたんです。ボデイーガードもいなくて、本当に1人で。多分僕が1番乗りだったと思います。恐る恐るファレルに「大ファンです。日本に来てくれてありがとう」と伝えたら、ハグをしてくれて、そこから15分ぐらい立ち話をしました。自分はカタコトだったんですが、ずっと笑顔で話を聞いてくれました。すごくいい人でした。それ以来、大好きなんです。いつかMV撮りたい…。
「Stay together」は、N.E.R.D.の1枚目のアルバム『In Search of…』のラストの曲で、アルバムは全曲好きですが、この曲はメランコリックというか、ちょっとポップス寄りで、彼のメロディセンスの多様さが味わえて好きです。あ、チャドも好きです。
2. OZROSAURUS「JUICE」(2003年)
「JUICE」は、トラックにプログレッシブ感があるというか。OZROSAURUSの入りは「AREA AREA」とか「VILI VILI(feat.SHLLA)」だと思うんですが、MACCHOのスキルを脳じゃなくて身体で感じれるのはjuiceかなと。
3. JAYLIB「McNasty Filth」(2003年)
名前、間違えてるかもなんですが、むかし、町田に『422』っていうレコード屋があったんです。店内にはレアなレコードがレジカウンターの上に飾られてて、NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDの「三銃Shit」がたしか3万円くらいの値札ついてました。その隣に、「McNasty Filth」のシングルカットが並んでて、これも同じくらいの値段だったと思います。
高いなーと思って結局CDアルバムを買って帰りました。家で聴いたらアンダーグラウンドのスモーキーさもありつつ、めちゃくちゃキャッチーなのがカッコ良過ぎて、やっぱりレコードが欲しくなって翌日店に行ったら売り切れてたという……。代わりにマッドリブの変名ユニットであるイエスタデイズ・ニュー・クインテットを買って帰ったんですけど、それはあまりハマらなかったなー。当時の自分にはちょっと早過ぎたかもですね。
4. 韻シスト「world art」(2002年)
町田のディスクユニオンで韻シストがプッシュされていて、買ったのが『Relax Oneself』でした。アルバムに入っているどの曲も好きだったんですけど、「world art」は特に好きなので選びました。韻シストやLoop junction、瘋癲みたいなジャズヒップホップバンドが好きだったんですが、当時はあまりいなかったと思うんですよ。
5. DJ TONK「Forever」(2000年)
「Forever」は、LIBRO、Akeem、Hill theIQ、Co-keyといったヘッズ垂涎の夢の共演というか、スキル達者しかいないメンバーがマイクリレーをしていく神曲です。梅田サイファーのアルバム『RAPNAVIO』を聴いていた時に、「Forever」を思い出したんですよね。曲調とか内容は全く違うんですけど、テンション感だったり、色んなスキルとフローで技をかけていく楽しさを思い出させてもらいました。やっぱりマイクリレーは熱量が良いですよね。懐かしくて最近また「Forever」を聴いています。
6. 餓鬼レンジャー「東雲」(2001年)
スペースシャワーTVが放送していたプログラム『Black File』(2006年~2023年)のイベントがclubasiaであって、たしかGAGLEの後が餓鬼レンジャーだったんです。ライブの上手さは勿論ですが2MCのステージングがすごすぎて。それ以来熱が冷めず、もう長いこと餓鬼レンのファンです。唯一無二ですよね。唯一無二中の唯一無二です。餓鬼レンはどれも有名だから「東雲」にしました(笑)。まあ「東雲」も有名ですが……。
7. LIBRO「ハーベストタイム」(2021年)
LIBROは、自分にとって憧れのトラックメイカーでありラッパーで、まさにロールモデルの1人です。SHISEIDOのブランドフィルム「The Party Bus」を制作したときのことなんですが、納品1週間前になっても曲がなかなか完成せず、音楽プロデューサーと話し合った結果、LIBROさんにリミックスをお願いすることにしました。時間がない状況だったのに、最強のトラックを仕上げてくださって、本当に感動しました。学生時代から憧れていた人が、変わらずにdopeでカッコいい。楽曲のおかげで作品は、海外でたくさんの賞を受賞することができました。その仕事の後に、LIBROさんからアルバム『なおらい』を頂いて。LIBROさんのトラックはシンプルなんです。厳選された音数の構築。その一音一音の響きが凛としてて心地よいんです。「ハーベストタイム」も、その次の曲の「シグナル (光の当て方次第影の形) feat. 元晴」もシビれましたね。LIBROさんとKeycoさんのプロジェクトFUURIもめちゃくちゃ影響受けてます。今でこそフレッシュに響きます。
8. imase with PUNPEE&Toby Fox「Pale Rain」(2022年)
「Pale Rain」は「ポカリスエット2022」のCMソングとして制作した楽曲です。『UNDERTALE』の制作者で作曲家のトビー・フォックス氏がメインメロディを作り、それをPUNPEEさんが受け取ってビートメイクをする。そのトラックの上でimaseさんが歌を乗っけるという中々にチャレンジングなコラボでした。
なかでもインディーゲーム界の伝説であるトビーは顔出しもしてないし、どうコンタクトをとっていいのか? から始まりました(笑)。元ファミ通のライターだった山岸聖太監督に相談して、トビーにインタビューをしたことがあるファミ通の方を紹介してもらって……と数珠繋ぎでちょっとずつにじり寄っていきましたね。
コンタクトが取れてからは、めちゃくちゃスムーズでした。1回目の打ち合わせが終わった翌日には、トビーからメロディのスケッチが送られてきましたから(笑)。多分Pさんとimaseくんと話して、アイデアが湧き出たのかなと思います。3人なんか似てたんで(笑)。スケッチを元にPさんがバーッとビートを作って、imaseくんがそれに合わせてメロディを調整してと、この曲はアーティスト3人が盛り上がって一気に創り上げた印象です。僕にとっても非常に思い出深い曲ですね。
9. ゆっきゅん「年一」(2023年)
たまたまラジオからこの「年一」が流れてきて、「いま、とんでもない歌詞じゃなかったか?」と思って、思わず作業する手を止めてネットで調べました。自分が反応したのは『この漫画、名場面ページ破られちゃってるけど/えー逆にロマンティックじゃん/って何その目は』という部分なんですけど、ブワッとその場面とか、その時の心情が浮かんできて、なんて豊かな詞なんだと。Xで岡野大嗣、木下龍也の短歌を衝突事故的に見た時ぐらいの衝撃でした。
歌詞全篇語りたいとこだらけなんですが、やっぱりページが破られてる漫画を「最悪だな」と思うのか、「破って持っておきたいぐらい感動したページがあったんだな」と思うのか、価値観が違う2人がクリスマスに一緒にいるその感じ、甘いけど、切ない。愛しいけど、難しい。そしてその後に続く歌詞「何、その目は」。「お前ってやっぱ変だな」という優しい目線にも捉えられるし、理解し合えない境界線とも受け取れる。どっちにしても、いまその瞬間見つめ合ってる事実は変わらない。エグいです。
まあ、本当は友情の歌らしいので……全然違うんですが(笑)。シナプスが勝手に妄想しちゃうのが豊かだなって。
10.lyrical school「Tokyo Burning」(2019年)
これも同じくラジオで聴いて、こちらは歌詞ではなくトラックに惹かれました。PESが作ったトラックのなかでも上位に入るぐらい好きです。ブギーバック、水星、Blood on the mosh pit、Tokyo burningは朝4時のパーティーアンセムだよなといつも思います。
ーー改めて、柳沢さんにはここまでヒップホップが好きというイメージがなかったので、この記事を読んだ皆さんは今回のプレイリストに驚くのではないかなと思います。
柳沢:僕がヒップホップを好きになった当時は、ヒップホップが真新しい、若いジャンルだったんです。一風変わった曲も沢山あって、それが居心地良かったんです。レコードも駄菓子みたいな値段でしたし、みんなで集まって曲流して世間話して、適当に歌って、時々絵を描いて。ファミレスで朝までダベるとか、スーパー銭湯までドライブするとか、そういうのの延長です。誰でもできそうな感じというか、実際そうだった。
もしかしたら「新しいカンジ」がしたから好きだった訳じゃなくて、堅苦しくなってない場所がたまたまヒップホップだったのかもです。当時「ラップ好きなんだよね~」と言ってその空気感を共有してた気がします。いまはヒップホップが新しいものではなくなったので、少し違うかもしれませんね。このプレイリストを聴いて、共感できるのは僕と同世代くらいの方かもなー。






















