コロナ禍を懸命に生き延びたオンラインゲーマーたちのリアルな生態 『ニッツ・アイランド 非人間のレポート』レビュー

『DayZ』ドキュメンタリー映画をレビュー

 渋谷のシアター・イメージフォーラムにて『ニッツ・アイランド 非人間のレポート』を視聴した。

映画『ニッツ・アイランド 非人間のレポート』予告編

 この映画は、オンラインゲーム『DayZ』の世界で構築された独特の文化を、フランス人フィルムメーカーのエキエム・バルビエらが取材するというものだ。

 オンラインゲーム上で生まれる奇妙な連帯感や、コロナ禍における時間の過ごし方など、あらゆる点で観るべきポイントの多い映画ではあったが、副題や一部の表現については疑義を唱えたくもなった作品だった。

※以下、映画『ニッツ・アイランド 非人間のレポート』のネタバレを含みます。

もうひとつの現実にハマりながら、同時に自らと向き合うゲーム体験

 本作はほぼ全編が『DayZ』のゲーム内映像で構成されており、まずその点が素晴らしい。

 人々が歩いている姿を後ろから撮ったり、穏やかな田園地帯を何秒も観せたりといった映画的なカットと、ゲーム内のちょっと怪しい物理演算がなんともチグハグである。

 特に体のパーツのアップは、さすがに10年以上前のMMORPGということもあって、粗が目立ち、彼らが仮想の存在であることが際立っている。

 しかしながら、寝転がって木漏れ日を浴びたり、宵闇のなかで焚き火を囲んだりと、現実以上に美しくハッとさせられるシーンも多々あり、映像表現としてユニークなところも多いので、一見の価値はあるだろう。

 オンラインゲーム上という完璧にカメラを制御しきれない空間をいかに綺麗に撮るかということについて、なかなか工夫がある作品だった。

 ただ、一箇所だけ実写の映像を使用しているシーンがあり、意図はわかるものの、全体の統一感に欠けていることと、メッセージとしてのくどさを感じてしまい、あまり効果的ではなかったのではと筆者は考えている。

 また、本作は日本語版のみ「非人間のレポート」という副題が付いており、パンフレットや予告編でもオンラインゲーム上で発生した狂気について語られているかのような煽りが見られるが、はっきり言ってこの点については訂正すべきだ。

 たしかに冒頭に「深夜の闇」を名乗る殺人集団が登場し、殺戮の限りを尽くす光景が見られるが、明らかに彼らの中身は未成年であり(もしくはそういう精神性を持った大人かもしれないが)、エキエムたち撮影クルーは、彼らの幼い遊び方を軽く映すだけで、さして追いかけもしない。

 本作で最も密着されているのは、ゲーム内に発生した宗教団体のダゴス教で、彼らはダゴスという狼に人肉を捧げているのだが、彼らにしてもそこまで異様だとは思えなかった。

 強いて言えば、明らかにキリストが描かれている教会のなかで、ダゴス教の牧師であるプレイヤーがキリストについて知らないふりをするシーンは、彼が本気でこの遊びを徹底しているのがわかって良かったが、やはりこんなものは狂気というほどではなく、ちょっと真面目にロールプレイをしている程度のことだろう。

 狂気的な人間を撮るのが難しいとわかったからか、話はコロナ禍における時間の使い方へとシフトしていく。

 ヴィーガンの夫婦であるマクロとスラッグは、深夜に寝静まってから『DayZ』のなかで思いきり殺人を繰り返していると笑いながら話す。

 彼らはゲームと現実との折り合いの付け方や、今後リアリティが増していくゲームの表現を子どもにどう受け取ってもらうべきかといったことについて、至極真面目な意見を出していた。

 また、アフリカで大自然に囲まれながら『DayZ』を遊ぶチルは、いつでもどこでも人とつながれるゲームのありがたさや、一日の仕事の終わりに瞑想としてゲームを起動するルーティンが自分にとってどういう意味を持つかについて語ってくれた。

 つまり「非人間のレポート」なる副題はただの誤りで、実際のところはコロナ禍という危機に対してゲームがどう人類を正気に保たせてくれたかという話であり、真に迫る恐怖を感じるシーンなどひとつもなかったのである。

 正気という意味においては、終盤にプレイヤーたちが集まってマップの端を観に行くシーンは素晴らしい。シーンの冒頭ですでに草木のテクスチャが完全に途切れていて、あとはただ無限に生成された砂漠が広がっているのが容易に想像できるにも関わらず、皆が暗黙の了解でこれを無視し、これから決死の旅に出ようと言い始めるのだ。

 こういう大真面目なごっこ遊びこそがMMORPGの醍醐味であり、それを大の大人が何人も集まってやるから楽しいのである。

 本作の登場人物たちが喋っている内容は、MMORPGを黎明期からディープに遊んでいたプレイヤーからすると、ネット上で散々見てきたような話ではあると思うが、今現在『DayZ』に数千時間を費やしている人々に対して、本気で付き合った撮影班の努力は評価したい。

 ゲームにどっぷりハマってる人たちが自分たちを冷静に見つめ直した証言はどれも傾聴に値するし、コロナ禍という前代未聞の問題に、ゲームという娯楽がいかに効果的だったかという点が学べる、面白い映画であった。

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