連載:エンタメトップランナーの楽屋(第13回)
『宇宙人ジョーンズ』や『こども店長』を生み出した“時間の使い方” CMプランナー・福里真一×FIREBUG・佐藤詳悟対談
「こうじゃなきゃダメ」はない
佐藤:データに基づいた要望はあるものの、それ以外はあまり出てこないということもあると思います。そういうときは、どうしていますか?
福里:どうするかというと、それなりに頑張る。
佐藤:それなり? たとえば、要望をどんどん引き出す質問をするとかはしないんですか?
福里:たとえば、「これを言ったほうがスコアが上がる」とか「これは絶対に言ってほしい」といったことを言われたら、そういった条件をしっかりクリアした上で、イメージに合うものを作るようにします。
佐藤:なにか、そうするようになったきっかけはあったんですか?
福里:富士フイルムのCM『フジカラーのお店』での経験は、きっかけの一つです。フジカラーのお店を舞台に、樹木希林さんや出演者の皆さんがずっと商品の説明をするCMシリーズ。ただ、よく言われるのは「商品のことをめちゃくちゃ説明していると、つまらない広告になる」ということです。
佐藤:そうですよね。
福里:でも樹木さんが面白い人だから、お店を舞台に説明をするだけでも面白くて印象に残るようなものになったんですよね。それに「フジカラー」というブランドは、そういうイメージの方が合っているんだなと思いました。
たとえば同じ写真に関係するブランドで「キヤノン」や「ニコン」なら、もっと「カッコいい」とかが必要だと思うんですけど、「フジカラー」というと老若男女みんなが安心できるようなブランドなのかなと。
そういう経験があったので「こうじゃなきゃダメ」みたいなことよりも、いろんなことを入れ込みながらもそれなりにできることがあるなと思うようになりました。
佐藤:熱量の高いクライアントと、データを重視するクライアントがいるということですか?
福里:そこまできれいに別れるわけではないし、データを重視するから熱量がまったくないというわけでもないですよ。いずれにしても私は対応するというだけです。
私は自分自身に「どうしてもやりたいクリエイティブがある」というタイプではないから、いろんなクライアントさんに対応して、それなりに良いものを作っていくということです。
佐藤:とはいえ、クライアント側にセンスがあって面白いことをしたい人がいると、広告が成功する可能性は大きくなるわけですよね。
福里:可能性としてはそうです。集団で、多数決で決めるみたいなことをすると、どうしても丸くなっていってしまう。そうなると広告はなかなかうまくいきません。不思議なことにね。
広告をヒットさせられる人の共通点
佐藤:福里さんが思うご自身の強みはなんですか?
福里:それは、自分ではわかりません。強いて言えば最初に話した、その商品や企業には生まれてきた理由があって、誰かの人生と関わり合うために生まれてきているわけだから、商品と人との関係を考える。そういうところにあるのかもしれない。
佐藤:そこでいう「人」というのは、まだ見ぬ誰かということですか? それとも特定の誰かですか?
福里:どちらもあります。「こんな人が飲んでたら似合うんじゃないか」と考えることもありますし、「誰かがこんなシチュエーションで飲んでたらいいな」と考えるようなこともあります。
たとえば、某ミネラルウォーター。CMに山が出てきて、そこで人が飲んでいるじゃないですか。たしかに普通に考えるとそうなるし、そのまま描いたほうが素直な良いCMになる可能性は高いと思います。私もそうするタイプです。人と商品の関係を考えているわけですから。
佐藤:でも、そうではない考え方をする人もいますよね。
福里:若いときは、逆に考えることすらあり得ると思います。それこそ、「絶対に山だけは出さないぞ」みたいに思ってもおかしくない。「水が似合いそうな人だけは出したくない」とかね。
でも、いまはそう思わない。というか、出てきたほうがいいと思います。変に無理やり捻るよりも、素直に商品を真ん中に置いて考えたい。やっぱり、ど真ん中で商品を捉えたいという気持ちになっています。
佐藤:それは福里さんの好みなのか、それとも消費者にとってその方が良いと思うんですか?
福里:消費者にとって。というよりは、商品にとってかな。CMを作るプロセスにおいてひとつ良いのは、プランナーとディレクター(演出家)が別の人だということです。すると「ダメ出しをする人が誰もいなくて不安になる」ようなことはなくなります。
佐藤:組むディレクターは、どうやって決めるんですか?
福里:その企業に合っていそうな人にお願いすることが多いです。たとえば映画的なトーンが得意な演出家は人に深く届けたいときに合いそうとか、そういった作風と企業の関係は、演出家の作ったものを見ていればある程度わかります。
あとは「うまくいきそう」という感覚は意外と大事です。立て続けにヒットを出していて「なんか、うまくいっているぞ」という印象がある人。これは能力だけの話でもないので、難しいんですけどね。
佐藤:広告をヒットさせられる人の共通点はなんだと思いますか?
福里:結局のところ広告は、世に出してみないと良し悪しがわかりません。でも「なんだか広告のヒットが続いているな」と感じる企業はある。そう考えると、その裏にヒットさせている個人の存在があると思いますよね。でも、一人だけでやろうとするとうまくいかないんです。
先ほどの演出家の話もそうですが、周りの手をうまく借りている人はうまくいっていることが多いと思います。もちろん本人のセンスも必要ですが、それ以上に、そのセンスでどんなクリエイターの手を借りられるかが重要。その相乗効果で、最終的に広告がうまくいくのだと思います。
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