無差別刺傷事件を通して見えた“令和の20代”の葛藤 『透明なわたしたち』は誰のことなのか?

『透明なわたしたち』で見える若者の葛藤

 本作のタイトルである“透明なわたしたち”とは誰のことを言うのだろう。冒頭飛び降りる少女・ユリ(小川未祐)。彼女に心を引っ張られるサクラ(菊地姫奈)。そして高校時代、碧たちと一緒の時間を過ごしながら、誰の心にも深く留まることができなかった尾関(林裕太)。上京し充実した日々を送っているように見える碧と梨沙が羨ましくて、「私は何者でもない存在」だとSNSの匿名アカウントで吐露する風花もまた、自分を透明だと思っている。最終話である第6話において、「社会は分断で溢れている」と碧は独白する。2020年の日本で現実に起きた事件をモチーフに描かれた映画『あんのこと』において、河合優実が演じたあんが、ようやく掴みかけた自分の居場所をコロナ禍によって悉く奪われていく様子が描かれたように、コロナ禍を経た現在、「透明なわたしたち」は無数にいるに違いない。

 本作の最終話は、希望で終わる。皆が自分の居場所を見つけ、壊れかけた友情を取り戻す。富山が誇る勇壮な曳山祭の光景が、彼ら彼女らがようやく掴んだ「いま」を肯定する。でも、本作においてなにより心に沁みたのは、第5話において、死ぬつもりだった喜多野(伊藤健太郎)に梨沙が手渡した温かい飲み物と、それによって彼が救われた場面だった。さらに第6話において今度は喜多野が、追い詰められた高木(倉悠貴)に同じことをする。その温もりは、それだけで誰かが誰かの居場所になり得ることの証明だった。碧は「ただ真っ直ぐに世界を見つめて」それでも書き続けようとする。私たちにできることはなんだろうか。碧のように、「ただ真っ直ぐに世界を見つめる」こと。彼ら彼女たちと同じような「透明なわたしたち」のいまを、想像することなのかもしれない。

福原遥、トー横キッズと対峙 報道と異なる“無差別傷害事件の犯人像”『透明なわたしたち』5話

福原遥が主演を務めるABEMA連続ドラマ『透明なわたしたち』が2024年9月16日からスタートした。同作はゴシップ週刊誌ライター…

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