シーシャ屋を舞台に描かれる“現代の生きづらさ” 人の弱さを優しさで肯定する『Hookah Haze』の物語

人の弱さを肯定する『Hookah Haze』の物語

 喫煙者の肩身が狭くなる一方で、最近ではシーシャ(水タバコ)の人気が高まっていると聞く。お洒落なイメージやSNS映え、多様なフレーバー、ニコチンフリーのものもあることなどが理由なようだ。筆者も大阪でシーシャバーに行ったことがあるが、そこは路地裏の地下にある、デスメタ系のマスターがやっている怪しい場所で、現代の若者に人気の「チルい」シーシャバー・カフェとは乖離しているだろう。

 さて、本稿で紹介するのは、そんなシーシャ屋を舞台にしたアドベンチャーゲームである『Hookah Haze』だ。本作は現代特有の生き辛さを抱えたキャラクターたちが織りなすストーリーが中心となる作品で、ドット絵や、シーシャを吸うキャラクターのアニメーション、良質なBGMが特徴だ。全体的な雰囲気としては『VA-11 Hall-A ヴァルハラ』の影響を感じさせる。

 ゲームとしてみると、SNSでオススメするフレーバーの選択や(来店するヒロインがオススメするフレーバーで変わる)、シーシャの炭の交換といったミニゲーム的なもののみで、ストーリーも重厚なものではない。そのため、シーシャ屋とシーシャのお洒落で「チル」な雰囲気を味わいながら、短編小説を読むような感覚で楽しめる作品となっている。

『Hookah Haze』ティザーPV

現代特有の問題を抱えたヒロインたち

 本作のストーリーは、主人公の炭木トオルがシーシャ屋を開業するところから始まる。炭木は重い病を患っており余命が僅かしかないが、患者の夢を叶える制度を利用して2週間の期間限定でシーシャ屋「Hookah Haze」の店長として働き、そこに来店するヒロインたちと心を通わせていくこととなる。3名のヒロインたちは、それぞれ現代特有の問題を抱えており、それとどう向き合っていくかが描かれる。

主人公の炭木トオル。薬がないと動けないほどの重病だが2週間限定でシーシャ屋を始める
主人公の炭木トオル。薬がないと動けないほどの重病だが2週間限定でシーシャ屋を始める

 コンカフェ店員の「愛上あむ」は、愛されたがりで寂しがり屋の性格で、自分の容姿には自信があるものの、それ以外の部分では自信がない。コンカフェでは相手に気があるような素振りを見せる“リアコ営業”を行っており、ストーカーのような客に悩まされているものの、リアコ営業を止めれば人気が落ちるのではないかという不安からズルズルと続けてしまっている。

愛上あむは他者からの愛情と共に自分の本当にやりたいことを探している
愛上あむは他者からの愛情と共に自分の本当にやりたいことを探している

 「明月院こころ」は派手な服装とは裏腹に、礼儀正しく理知的で、明るいショップ店員。かつて家族を事故で亡くしたことにより、罪悪感を抱えながら生活しており、PTSDを患っている。大きな音でパニック発作を起こしてしまい、安心して眠ることができないなど、日常生活にも支障をきたしている。また、唯一の家族である祖母は認知症で彼女のことを忘れてしまっており、それが希死念慮に拍車をかけているように見える。

明月院こころはかつての経験から希死念慮を抱いている
明月院こころはかつての経験から希死念慮を抱いている

 古森くるみは企業所属の人形作家で、マイペースな性格で人とのコミュニケーションが苦手。人形作家としての才能はあるものの、会社ではその性格からか認められておらず、パワハラを受けている。また、奇抜な行動が目立ち、そのせいで多くのシーシャ屋を出禁になっている。

古森くるみは自分のやりたいことができない現状に辛さを感じている
古森くるみは自分のやりたいことができない現状に辛さを感じている

 このようにそれぞれがかなり重い問題を抱えているヒロインたちだが、共通しているのは皆、置かれている問題や状況のために自分の評価が低く、自己肯定感に乏しいということ。そしてそれ故に、誰かとの繋がりや居場所を求めているということだ。

 ヒロインたちの問題に一緒に向き合う炭木トオルも同様で、人生の大半を病院で過ごしたため友人と呼べる存在がおらず、過去に手術を失敗した経験から、人生を諦めるようになり、新たな治療法を打診されるが拒絶している。

「好きなもので、誰かと繋がりたいです」という冒頭の炭木のセリフからも、人生についての諦めと、それでも最期に誰かと好きなものを共有したいという思いが垣間見える
「好きなもので、誰かと繋がりたいです」という冒頭の炭木のセリフからも、人生についての諦めと、それでも最期に誰かと好きなものを共有したいという思いが垣間見える

シーシャ屋という舞台だからこその物語

 そんな彼らを繋ぐのがシーシャの存在なのだが、登場人物が重い背景を共有するテキストアドベンチャーの舞台として、シーシャ屋はうってつけの場所だと感じた。シーシャ屋では、フレーバーを決める際や、炭交換の際に店員と客のあいだで自然と会話が生まれるが、本作でもそれは同様で、炭木とヒロインたちはこの時間のあいだに様々なやり取りをする。

炭交換の際には会話が起こりやすい
炭交換の際には会話が起こりやすい
同席したヒロイン同士の他愛のない会話も
同席したヒロイン同士の他愛のない会話も

 また、シーシャを吸うことや、店の非日常的な雰囲気によってリラックスすることは、自然と自分の抱えている問題について話すきっかけにもなるので、重い話題になっても違和感がない。重いテーマとチルな雰囲気が混ざりあうのも、シーシャ屋が舞台ならではのものだろう。

 シーシャを通じて交流を深めていく主人公と彼女たちが迎える結末は、ぜひプレイして確かめてほしい。どのヒロインのルートも短いながらも、個々の問題を通じて、他者との繋がりや「生きる」ということについて考えさせられる内容となっている。

テーマこそ重いが、シーシャを吸うアニメーションなどのビジュアル面は良質。煙を吐く女の子からしか取れない栄養素がある
テーマこそ重いが、シーシャを吸うアニメーションなどのビジュアル面は良質。煙を吐く女の子からしか取れない栄養素がある

誰かへの「優しさ」が自分を救う物語

 最後に、少しだけ本作の内容に踏み込んだ感想を述べておこう。本作をプレイして筆者が感じたのは、登場人物が皆、他者には優しく思いやりをもって接しているということだ。中でも炭木は自分の人生を諦めているからこそ、他者に目を向け、優しく接しているように筆者の目には映った。それは彼らの弱さやトラウマからくる「拒絶されたくない」「傷つきたくない」という思いの裏返しなのかもしれないが、相手に自分と同じ痛みを味わってほしくないという気持ちもあるのだろう。だからこそ、彼らの関係性は表面的なものではなく、互いの痛みを共有しながら心を開いていくものになっていくのではないだろうか。そういった意味で、本作は全編を通して他者への優しさが自己の救済に繋がる物語として読むこともできると筆者は考えている。

 いつの時代も、人は生きづらさを抱えており、それを紛らわすために、酒やタバコといった嗜好品に手を伸ばしたり、誰かとの触れ合いを求めたりする。いまはインターネットで誰とでも繋がれる時代にはなったものの、同時に誰かと密接な関係を築くのは難しい時代だとも言われている。喫煙や飲酒を推奨するわけではないが(そもそもこうした予防線を貼る必要があることこそ、現代の生きづらさの一旦かもしれないと思いつつ)、飲み会や喫煙所でのコミュニケーションが時代に適応する形でどんどん少なくなっていくと同時に、そこで起きていたはずの誰かとのリアルな接点も失ってしまったのではないだろうか。

 たしかにリアルな人間関係は煩わしいし、傷つくことも少なくない。それでも誰かとの繋がりや居場所を求めてしまう弱さを、優しさでもって肯定する。『Hooker Haze』はそんな作品だと筆者は感じた。

Nintendo Switchを“いま”買うのはアリ? 次世代機直前…こんな人たちは購入すべき

次世代機の噂が絶えないNintendo Switch。本稿では、次世代機に関するすでに出ている情報をまとめつつ、このタイミングで…

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる