「難しいけど楽しい」と「理不尽」の狭間で――大ボリュームの『エルデンリング』DLCに感じた“らしさ”

『エルデンリング』DLCに感じた“らしさ”

 6月21日にリリースされた『エルデンリング』のDLC『SHADOW OF THE ERDTREE』。発売3日で500万ダウンロードを突破するなど、DLCでありながら大ヒットを記録している本作、すでに「影の地」での冒険を楽しんでいる読者も多いだろう。とはいえ、プレイにかかる時間の長さや、DLCとしては高価なこと、そして本編以上に難易度が高いという声が多いこともあって、まだ購入を迷っている人も少なくないのではないか。

 そこで本稿では、ひととおり『SHADOW OF THE ERDTREE』をプレイした筆者の視点で本作の難易度やボリュームに関するレビューをお届けする。なお、本作のレビューは後述するアップデート以前のものが中心だが、アップデート後もプレイしているので、参考にしていただければ幸いだ。

DLCエリアにいくためには「血の君主、モーグ」と「ラダーン」の撃破が必要。モーグと戦った場所にある繭からDLCエリアにいける。DLCを購入してもいけない場合はPS5を再起動してみるといい
DLCエリアにいくためには「血の君主、モーグ」と「ラダーン」の撃破が必要。モーグと戦った場所にある繭からDLCエリアにいける。DLCを購入してもいけない場合はPS5を再起動してみるといい

広大なマップの洗練された作りに圧倒される

 影の地の序盤マップ、「墓地平原」に足を踏み入れると、本編同様に美しい景色が広がっており、久々にプレイする『エルデンリング』の世界に一気に引き込まれる。マップは予想以上に広く、高低差の多さや密度の高さも相まって至るところに探索できる場所がある。ある程度まで進めたあたりであらためてマップを見てみると未踏破の場所が多く、その膨大なボリュームに驚かされることになるだろう。

マップは密度が高く、至るところに探索できる場所があり、本編プレイの際には頻出していた馬での長距離移動はほとんどない
マップは密度が高く、至るところに探索できる場所があり、本編プレイの際には頻出していた馬での長距離移動はほとんどない
早速馬に跨ってあたりを探索すると、すぐに火を纏った巨人が目に入り、遺跡のような場所も発見できる。別の場所にいくと教会があり、崖下には毒沼が広がっている。スタート時点ですでに得られる情報量が多いが、本作を進めていくとこれはまだ序の口だ
早速馬に跨ってあたりを探索すると、すぐに火を纏った巨人が目に入り、遺跡のような場所も発見できる。別の場所にいくと教会があり、崖下には毒沼が広がっている。スタート時点ですでに得られる情報量が多いが、本作を進めていくとこれはまだ序の口だ

マップにはさまざまなロケーションが存在。事前情報からマップの広さは本編の「リムグレイブ」ほどの広さだと考えていたが、実際にはリムグレイブにケイリッドを足しても足りなさそうだ
マップにはさまざまなロケーションが存在。事前情報からマップの広さは本編の「リムグレイブ」ほどの広さだと考えていたが、実際にはリムグレイブにケイリッドを足しても足りなさそうだ

 探索するフィールドは平原から海岸線など豊富で目を飽きさせない。また、『エルデンリング』の特徴である、広大なマップでプレイヤーが迷わないようにするための導線もしっかりと存在している。本作からの新要素である「ミケラの印」だけでなく、NPCとの会話やアイテムや敵の配置でプレイヤーをなにかありそうな場所へと緩やかに導いてくれる。マップをよく観察することでルートが見つかることも少なくなく、常にプレイヤー主導で探索を進められる点は本編と同様だが、導線の作り方はより洗練された印象だ。次々と気になる場所が目に入ってくるので、自分だけの冒険を楽しむことが可能だ。

本作の重要人物であるミケラの足取りを追える「ミケラの印」は探索の目印となる
本作の重要人物であるミケラの足取りを追える「ミケラの印」は探索の目印となる
マップの密度が高い分、気になる場所が至るところにある。目印となるような敵やアイテムなどが配置されているのでマップをよく観察すれば、なにかありそうな場所が
マップの密度が高い分、気になる場所が至るところにある。目印となるような敵やアイテムなどが配置されているのでマップをよく観察すれば、なにかありそうな場所が
最序盤から挑めるボス「孤牢の騎士」。シンプルな動きに対して的確に対処をする必要のあるボス敵で、久しぶりに『エルデンリング』をプレイする人のリハビリのために配置されたような「教官役」的な存在だ
最序盤から挑めるボス「孤牢の騎士」。シンプルな動きに対して的確に対処をする必要のあるボス敵で、久しぶりに『エルデンリング』をプレイする人のリハビリのために配置されたような「教官役」的な存在だ

新要素も多く、ボリュームは『ELDEN RING2』といっていいレベル

 マップの作りだけ見ても、本編のボリュームが伝わってくるが、それに加えてボスの数も多く、ダンジョンも複数ある。さらには新たな要素として新武器種も登場し、ボスがいない代わりに強力な武器等を入手することができる「鍛冶遺跡」というダンジョンも実装されている。ほかにもこれまでになかった敵から隠れて進むような場所もあったり、プレイヤーを陥れるトラップもよりプレイヤーの裏をかくように進化していたりと、さまざまなポイントで本編からの発展を感じることが可能だ。

 新武器や新魔術・祈祷はどれも特徴的で、これまでにはないスタイルで戦闘することができる。新武器種である「投擲剣」は中距離から敵に攻撃を連発できるのはなかなか楽しい。また、敵の群れに対しては「調香瓶」の範囲攻撃をうまく使って対応したりといった状況に合わせた試行錯誤も楽しめる。既存の武器も戦技が特徴的なものが多い。筆者は相手に突進して強力な攻撃を繰り出せる「古隕鉄の大剣」が気に入った。

筆者のお気に入りの「古隕鉄の大剣」。戦技がとにかく強いのでぜひ試してほしい
筆者のお気に入りの「古隕鉄の大剣」。戦技がとにかく強いのでぜひ試してほしい
新武器種、『逆手剣』は高いDPSと優秀なモーションを魅力に感じた
新武器種、『逆手剣』は高いDPSと優秀なモーションを魅力に感じた

 また、ダンジョンや敵のドロップでは武器を強化できる「鍛石」が多く手に入るので、購入する手間を省いてどんどん武器を強化でき、いろいろな武器を強化して使えることは助かった。

アイテムのフレーバーテキストでストーリーの考察が捗るのも本作の魅力。本編で残された謎の一部が考察できるようなものもある
アイテムのフレーバーテキストでストーリーの考察が捗るのも本作の魅力。本編で残された謎の一部が考察できるようなものもある

 新要素はどれも新鮮で、これまでの『エルデンリング』にはないプレイを随所で楽しむことができた。ただ、ひとつ気になったのがDLCのダンジョンでのボス戦前に祝福がないこと。本編のダンジョンは入口の祝福近くにある扉を仕掛けで開ける配置だったため、一度ダンジョンから出て装備を強化してからボスに挑んだり、祝福で霊役や戦技を調整してから挑むことができたが、DLCではそれができないのだ。簡易的な復帰ポイントである「マリカの楔」こそあるものの、ダンジョンの道中が長めなこともあって改善してほしいポイントだと感じた。

 とはいえ、全体的にDLCのボリュームには大満足。DLCのストーリーだけならば30時間ほどで終えることができるが、サイドストーリーや寄り道も多く、すべての要素をコンプリートするには膨大な時間が必要となることは間違いなく、新たな試みも随所に見られる『エルデンリング2』といっても過言ではない内容となっている。

難易度は本編以上に高く、賛否が分かれる

 このようにボリューム面では充分すぎる出来の本作だが、戦闘面でのバランスは賛否が分かれている。『エルデンリング』のDLCである以上、高難易度であることは誰もが覚悟していたことではあるのだが、それでも敵の攻撃が痛すぎたり、一部ボスの攻撃がエフェクトで見辛かったり、使用するビルドによって難易度に差がありすぎたりといった点が指摘されている。

 『エルデンリング』といえば、敵の攻撃が痛く、油断すれば雑魚敵にも簡単に殺されてしまうことでおなじみだが、DLCではどんなにキャラクターのレベルが高く、防具が整っていても、敵の攻撃を2~3発受けただけで死んでしまう。これに関してはすでにDLC限定の強化システムである「影樹の加護」と「霊灰の加護」の2種類の効果を上昇させるアップデートで対策されている。

 「影樹の加護」と「霊灰の加護」のレベルはそれぞれに対応するアイテムを探索を通じて手に入れればいいため、難しいと感じる人は探索をしっかりとしてキャラクターを強化し、高難易度のままでプレイしたい人は強化要素のレベルを上げずにプレイすればいいといった具合に、幅広いプレイスタイルに対応したアップデートだと言えるだろう。

 なお、筆者は本作をアップデート前にクリアしたが、現在別データでアップデート後のものをプレイしている。たしかに「影樹の加護」のレベルを上げれば火力・防御力はしっかりと上昇しているのは感じたが、かといって「ヌルく」なるようなことはないバランスだと感じている。

各地にある「影樹の破片」と「霊灰」を手に入れ「影樹の加護」と「霊灰の加護」をそれぞれ強化すれば戦闘がどんどん楽になる
各地にある「影樹の破片」と「霊灰」を手に入れ「影樹の加護」と「霊灰の加護」をそれぞれ強化すれば戦闘がどんどん楽になる

 他方、ボスのエフェクトの見辛さや、ビルドの差は高難易度ゲームではありがちかもしれないが、改善の余地はあるだろう。また、本作の救済処置的な要素である「遺灰」や協力NPCの召喚サインは本編同様存在するものの、ボス部屋に入ってからすぐにボスが攻撃してきたり、サインがボスエリア内にあるため操作が煩雑になったりといった点も指摘されており、筆者もこれに関してはアップデートを期待している。

 とはいえ、戦闘の難易度の高さは『エルデンリング』の魅力の根幹だ。敵の攻撃が痛かったり、ボスや強敵の攻撃への対処が困難だったりするからこそ、探索に緊張感が生まれ、ボス戦や難所を突破した際の達成感を感じられるからだ。

 本作のバランス調整は「難しいけれど楽しい」と「理不尽と感じる」の間で絶妙にバランスを取らなければならない難しさを抱えている。ただ単に難易度を下げればユーザーの満足度が上がるわけではなく、かといって「難しさ」にも楽しいと感じるか苦行と感じるかといった違いもある。だからこそ、今回のアップデートのようにユーザーの声を聞きつつ、幅広い層をフォローする対応を今後も期待したい。

PVでもお馴染みの「串刺し公メスメル」以降から、一気に難易度が跳ね上がる印象だった
PVでもお馴染みの「串刺し公メスメル」以降から、一気に難易度が跳ね上がる印象だった

 少し話が逸れたが、本作でも『エルデンリング』らしい戦闘を楽しむことができる場面の方が多いと筆者は感じている。強敵は連撃やスピードの早い攻撃に加え、ディレイをかけた一撃も繰り出してくるのでしっかりと見て覚え、対応していかなければいけない。一方で、一部の戦略がボスに刺さり、簡単に攻略できてしまうこともある。こうしたトライ&エラーを通じてプレイヤー自身が成長を感じられる点は、DLCでも同様だ。

 敵の落とすルーンも多く、探索をしているだけで気づいたら何万も溜まっていることも少なくないので、試してみたい戦略に必要な武器のステータス条件を満たすことも難しくない。「影樹の加護」の方が効果は大きいものの、レベルアップでHPを上げれば生存率を上げられるのも相変わらずだ。 

序盤からフィールドには強敵が配置されている。画像の敵は飛びかかりや、ディレイをかけてくる攻撃が特徴だった
序盤からフィールドには強敵が配置されている。画像の敵は飛びかかりや、ディレイをかけてくる攻撃が特徴だった

 以上のように、『SHADOW OF THE ERDTREE』は『エルデンリング2』といってもいいボリュームに加え、随所により洗練されたマップ構築や、挑戦的なシチュエーションに感動させられるタイトルだ。戦闘面、特に後半のボス戦の難易度は賛否が分かれるが、筆者は『エルデンリング』らしい戦闘を楽しんでプレイすることができた。本編をプレイしているが、まだDLCを購入していないという人にはぜひ遊んでほしいタイトルであることは間違いない。

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