「アーマード・コア」を彩る機体の魅力 “自機コンセプト無視”のランク1位に見る、フロムらしい演出

「アーマード・コア」を彩る機体の魅力

 かつてはコアな人向けのゲームだった「アーマード・コア」シリーズも、最近はすっかり人気になった。2013年の『ARMORED CORE VERDICT DAY』以来、約10年ぶりの新作となる『ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON』が2023年の8月24日に発売。新しい層に「AC」シリーズが認知されるようになっただけでなく、過去作を大きく超える300万本以上の出荷本数を記録してみせた。『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』や『ELDEN RING』を始めとする過去作の成功や、ネットミームとして広まったネタに10年の歳月で膨らんだ期待など、さまざまな要素が後押ししたのは間違いないだろうが、それでも記念すべき快挙だ。

 最近で言えば、12月10日にPrime Videoで配信されるドラマ『Secret Level』では、題材となる15のゲームのなかに『アーマード・コア』が含まれていることもわかった。公開された映像では、人型兵器のACらしき機体に乗るキアヌ・リーブスが登場したのも記憶に新しい。

Secret Level - Teaser Trailer | Prime Video

 「AC」シリーズと言えば、その核である人型兵器AC(アーマード・コア)も大きな魅力と言える。『アーマード・コア フォーアンサー』(以下、『ACfA』)に登場したホワイト・グリントは翼を思わせる変形機構を搭載していたり、『AC6』では高速で飛行するアサルトブーストなどの一部機能を使う際、搭載しているコアパーツの変形方法が変わったりと、作り込みには目を見張るものがある。

 パーツは企業ごとに形状が大きく異なっていることも多く、彼らが手がける武器の属性の傾向や開発方針といった諸々の情報から、そのパーツが生まれた背景やコンセプトを想像するのもおもしろい。『AC6』で言うなら、ベイラム製のACはシンプルで角張っていることが多いのに対し、アーキバス製のACは曲線を基本にした未来的なデザインが多い傾向がある。

 本稿では、「AC」シリーズでもさまざまな種類がある機体のなかから、『ACfA』に登場したステイシスに焦点を当て、機体を構成する各パーツや武器を中心に取り上げつつ、パイロットについても解説していきたい。

“リンクス”を管理する機構のなかの頂点

 AC・ステイシスの搭乗者はオッツダルヴァ。『ACfA』に出てくる人型兵器、アーマードコア・ネクスト(以下、ネクスト)のパイロットは「リンクス」と呼ばれており、基本的にリンクスは同作の世界を支配する企業が興した、「カラード」という機構に所属している。オッツダルヴァはカラードにおけるランキング1位であり、ネクストが戦局を左右するほどの戦力を秘めている点を踏まえると、ステイシスもその搭乗者であるオッツダルヴァも、『ACfA』における最高戦力と言えるだろう。

「旧レイレナードの出身と言われる、オーメルの切り札
 生え抜きとは異なり、常に戦場にある、実戦派の天才
 標準機LAHIREのコンセプトをあからさまに無視した
 中距離射撃スタイルが、オーメルとの距離感を象徴している」

 上記はオッツダルヴァに関する説明文。レイレナードとは、前作『アーマード・コア4』に登場した企業のことだ。同作でリンクス戦争という大戦が勃発した折には複数の企業を率いて戦ったが、オーメル・サイエンス・テクノロジー(以下、オーメル)社を中心とする敵陣営に敗れ、ついには崩壊してしまった。戦後は、旧レイレナードの技術者たちの多くがオーメル社に合流し、同社の製品開発に携わった。

 そうした背景を踏まえると、オッツダルヴァは自分の古巣を潰した敵の一員と言える。彼の乗る機体・ステイシスは、機動力を生かした接近戦向けの「LAHIRE」(以下、ライール)というパーツシリーズをベースにしているにも関わらず、あえてその長所を無視して戦っているのは、オーメルに対する敵意の表れなのかもしれない。自社製品のコンセプトを否定されるのは、利益を追求する企業としては致命的なはずだが、それを許容しているのはオーメルが寛容であるからなのか、あるいは、オッツダルヴァに強く言えない事情があるのだろうか。

ステイシス。画像はコトブキヤで販売されているプラモデル版
ステイシス。画像はコトブキヤで販売されているプラモデル版

 ちなみに、『ACfA』には“僚機”というシステムがあり、特定のミッションでは仲間を雇って連れていける。ミッション「旧チャイニーズ・上海海域掃討」でのみオッツダルヴァも雇えるが、その際に必要な依頼料はミッションでもらえる報酬の6割。プレイヤー側より取り分が多い。

 「準備できているな、貴様」に始まり、「何をちんたらやっている…」、「脳みそまでカビたか、それでよく生きられたものだ」だの、ミッション中は見下したようなセリフが多いものの、ミッション終了時には「ありじゃないか」と言われることも。天才かつランク1位ということもあり、それなりにプライドが高いようではあるものの、実力を示した相手を褒めるくらいの誠実さはあるようだ。

 ミッション「ホワイト・グリント撃破」では味方として登場。共同作戦なので、僚機として選ぶわけでなく必ず共闘する。説明文では「最高クラスのネクストであることは間違いなく」と称されるホワイト・グリントに対し、互角の戦いをくり広げた。

脆いが圧倒的な機動力を誇るステイシス

 ステイシスを構成するのは、オーメル社が開発した標準機のライール。コアパーツ「CR-LAHIRE」や、脚部パーツの「LG-LAHIRE」は前方に突き出たような形状をしており、その奥行きのある形状は、空力を意識した戦闘機やF1などを思わせる。

 ステイシスの搭乗者であるオッツダルヴァの説明で、リンクス戦争に敗れたレイレナードから多くの技術者がオーメルに流れたと書いたが、レイレナードの標準機である「03-AALIYAH」(以下、アリーヤ)は、コアパーツが前方に突き出たような形状をしていた。ライールとアリーヤでは見た目こそ大きく違うが、前傾姿勢を思わせるその形に、旧レイレナードのセンスや技術の名残りを感じ取れる。アリーヤは中量タイプだったのに対し、ライールは軽量タイプ。腕部パーツは敵に照準を合わせるまでの時間に影響する“運動性能”が高く、高速で動きながらでも相手を捕捉しやすい。総じて、機動力を生かして敵を翻弄しながら戦うのに向いている。

アリーヤ。画像はコトブキヤで取り扱われているプラモデル版
アリーヤ。画像はコトブキヤで取り扱われているプラモデル版

 そんなライールをベースにしているステイシスの武装は火力重視。右腕にはアサルトライフルの“AR-O700”、左腕にはレーザーライフルの“ER-O705”、背中の右側にはミサイルの“MP-O901”、左側にはレーダーの“RD03-PANDORA”を搭載。独特な機動のミサイルを飛ばすMP-O901で敵機をけん制しつつ、攻撃力も連射速度も優秀なAR-O700とER-O705でAPを削っていく、というコンセプトだろう。

 つまりステイシスは近距離での射撃戦に向いているので、ベースであるライールの性能を生かした堅実な構成と言える。レーザーライフルのER-O705の射程距離は680と中距離程度だが、ほかのレーザーライフルと比べて弾速が遅く、遠い敵には当てにくい。そのままでは使い勝手が悪いが、ライールがベースの機体は接近戦に強いので、ER-O705を至近距離で使うことで弾着までの時間を早め、結果的に命中率を補える。そうした背景もあり、機体と武器の相性はかなり良い。だが、ステイシスに乗るオッツダルヴァ本人は、敵機とある程度距離を取りながら撃ち合うことが多く、せっかくの構成を無駄にしている。

 標準機であるライールの性能に武器も合わせておきながら、それらを否定するかのように動くオッツダルヴァの戦法、これが先の説明文にあった、「標準機LAHIREのコンセプトをあからさまに無視した中距離射撃スタイルが、オーメルとの距離感を象徴している」の詳細と言える。旧レイレナード出身と噂されるオッツダルヴァの立ち位置、かつての戦争で勝利したオーメルと、そのオーメルに負けて技術者も奪われたレイレナード。前作『AC4』のストーリーを交えた設定を、機体の構成や搭乗者の戦法によって表すのは、フレーバーテキストを始めとする間接的な手段で物語を表現する、フロム・ソフトウェアらしい演出と言えるのかもしれない。

 近年注目を集める「AC」シリーズ。『AC6』からシリーズを知って過去作をやりたいが、環境を用意するまでの手間から手が出にくい人も多いだろう。『AC4』や『ACfA』も含めて、いまこそ過去作のリマスター発売などに期待したい。

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