Dios・たなか×Daokoはなぜ、ニコニコ動画に“帰ってきた”のか ルーツとしてのボカロ文化に再接近した理由

 ドワンゴが主催し、数多くのボカロPが参加するVOCALOIDの祭典『The VOCALOID Collection(以下、ボカコレ)』。開催されるごとにさまざまな気鋭のクリエイターが注目を浴び、なかにはメジャーシーンへと羽ばたいていく者も。

 そんな『ボカコレ』には、かつてニコニコ動画で活躍し、そこから巣立っていったベテランクリエイターがふたたび帰ってくることもある。ことしの2月に開催された『ボカコレ2024冬』には、Dios・たなかやDaokoといったメジャーシーンで活躍するアーティストも参加した。

 なぜ、彼らは今、このタイミングでニコニコ動画へ帰ってきたのか。彼らの帰巣本能を刺激する「VOCALOIDシーンの豊かな土壌」と「若手クリエイターの勢い」、そして当時抱いていた憧憬とは。盟友であり、ニコラップ出身の同郷同士でもある たなか、Daokoのふたりを招き、存分に語り合ってもらった(編集部)。

ちょっぴりドキドキする、未知との遭遇 VOCALOIDと出会って受けた“衝撃”

――おふたりはそれぞれキャリアの初期にニコニコ動画と出会っているかと思います。あらためて、たなかさんとDaokoさんがニコニコ動画に触れたタイミングと、そのときの思い出について教えてください。

たなか:僕が最初にニコニコ動画に出会ったのは、中学1年のときですね。入学してすぐバスケ部に入ったんですけど、つまらなくてすぐにやめちゃったんです。

 部活をやめると、放課後はヒマになるじゃないですか。それで、パソコンでYouTubeをよく見ていたんですけど、そのときに「ワールドイズマイン」の動画が出てきて。それまで『NARUTO』や『ONE PIECE』みたいなメジャーなカルチャーばかりを通ってきたので、そのカルチャーと違いすぎるというか、床に寝そべっている女の子の絵、なんかすごいな、大丈夫なのかな、みたいな。「別の世界みたいだ」と思ったのを覚えています。

――はじめてサブカルチャーに触れた瞬間というか。

たなか:そうです。クリックするときに「なんかやばいかも、でも見てみよう」って思ったことが忘れられなくて。その動画がニコニコ動画から転載されているものだと知って、そこからニコニコ動画も見始めたという感じでしたね。

Daoko:私の場合は小学校高学年くらいのとき、姉がインターネットをよくやっていた影響で、インターネットに触れ始めたんです。当時は「おもしろフラッシュ」がめちゃくちゃヒットしていた時期で、インターネットには面白い動画があるものという認識をしていました。

 そんな時期に、姉がたまたまニコニコ動画を見ていて。いつもと違うサイトを見ているなと思って、一緒に後ろからのぞいたんです。そこで「ボブの絵画教室」の動画に出会って、「めっちゃ面白い!」と思って。あとからこっそり自分でも調べてみて、そこで「ニコニコ動画ってめっちゃ面白いじゃん」と思った記憶があります。夏休みとかになると、ずっとランキングから動画をチェックしていましたね。

 最初はそれこそおもしろ動画目的で見ていたんですけど、そのうちボカロのことも知って。「メルト」とか「みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」とかがギリギリリアルタイムの世代だったと思います。「人柱アリス」とかちょっと怖い曲とかも聴いていましたし、「ダブルラリアット」とかも聴いていたし、そのあたりの初期の動画はリアルタイムで体験している世代だと思います。当時はボカロPさんによって持っている世界観が違うのが面白いなと思っていましたね。

――おふたりとも、ニコニコ動画やボーカロイドに出会ってから、ボカロPになるのではなく「ご自身で歌う」という表現形態に向かっていくじゃないですか。それはどうしてだったのでしょうか。

たなか:「ワールドイズマイン」もそうですし他の曲もそうですけど、動画を見たときに、「自分もこれを作れる」とは思わなかったんですよね。イラストもあるし、音楽もどうやって作るんだろうという感じだし。

 だから僕は最初「歌ってみた」から動画投稿を始めたんです。音楽やMVを作ることと比べたら、歌の方が距離が近い感じがするじゃないですか。歌を録りさえすれば、自分にもできるかも、みたいな。

Daoko:たなかさんは元々歌が上手だったんですか? 初期からお上手だった印象があるので。

たなか:ありがとうございます。歌うのは好きでしたよ。だから、なんかいける気がする、みたいな感じで投稿しましたね。あとは部活もやめて時間があったというのもあります。

――最初の動画は2012年2月に「紫外線」名義で投稿した「ゆるふわ樹海ガール」ですね。ニコラップに出会ったのはそのあとから?

ゆるふわ樹海ガール 歌ってみた 市街戦

たなか:そうですね。最初は知らなかったんですが、あとあとニコラップの存在を知りました。「なんだろう、あれは……」っていう。

Daoko:なんというか、その界隈にいるMCたちも少しメインストリームとは違った雰囲気を持っていたし、不思議なジャンルでしたよね、ニコラップって。

たなか:ですね。僕がそうなんですが、クラブでアガれないけどラップは好き、という人が多かったのかもしれません。

 そんな感じでニコラップに出会って、そこでVACONさんというラッパーに出会ったんですけど、仲良くなって喋っていたら「ラップしたらいいじゃん」と言われたんです。「ほな、やってみますか」という感じでした。

Daoko:そうだったんだ。VACONさん、最高ですよね。めちゃくちゃラップ上手い人が突然現れたなと驚いた記憶があります。

たなか:それこそ、僕がラップを始めたころにはDaokoさんはすでにラップの動画を投稿していましたよね。

Daoko:時期的に言うとそうですね。私も最初は「歌ってみた」を投稿していたんですけど、再生数も全然伸びないし、辛辣なコメントは来るし、みたいな。『GarageBand』とMac内蔵マイクで録っていたものだったし、伸びるとも思っていなかったんですけど、当時はとにかく動画を投稿すること自体が目的だったので。

 そんなときに、ボーカロイドのニコラップアレンジがランキングに上がってくるようになって「ニコラップってタグがあるんだ」と思って開いてみたら、結構追いやすかったんですよね。それまで、ラップといえば2Pac的なものをイメージしていて、ちょっと怖い文化だな、なんて思ってました。だから、オタクの自分がラップにハマるとは思っていなかったんです。でも、当時のニコラップには女性のラッパーがあまりいなかったので、「もしかして、ここならワンチャン伸びるんじゃないかな」と思ったんです。

たなか:意外に打算的な感じだったんですね。

Daoko:打算というか、やったら注目されるかもしれないと思っていたくらいですかね。そこまでマーケティング的なことではないですけど、承認欲求があったというか。

――Daokoさんがはじめて投稿したニコラップは「戯言スピーカー」のリアレンジでした。この曲はたなかさんも2013年にニコラップアレンジしていますし、楽曲を手がけたねこぼーろさんは現在、ササノマリイさんとしてたなかさんと共にDiosに所属しています。ある意味おふたりを繋ぐ曲でもありますね。

たなか:ササノ(ササノマリイ=ねこぼーろ)の音楽ってビート感が強いというか、彼自身もトラックメイカーみたいな側面があるタイプなので、ラップが乗せやすいんですよね。

Daoko:たしかに、そういうのはあったかもしれないですね。当時は全然音楽知識とかもよく分かっていなかったけど、とりあえずリンクを貼ったらトラックを借りていいらしいみたいな感じで。

たなか:結構みんな自由にやっていて、よかったですよね。

Daoko:動画のURLを貼って「音源をお借りしました」と概要欄に書けばOKみたいな、そういう“お借りしました文化”は、ラップに手を出しやすくなるきっかけではありました。しかも「この人のバージョンなんだ」って結構みんな受け入れてくれるじゃないですか。

――ニコニコ動画には二次創作やn次創作文化がありますからね。アレンジして歌うのが普通でしたね。

Daoko:それも面白かったです。同じビート、トラックを使っているけれど、全然違いましたからね。

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