出会いも、別れも、悔しさも糧にして、圧巻のパフォーマンスを披露ーー「HIMEHINA LIVE 2024『涙の薫りがする』レポート
豪華なパフォーマンスの連続に圧倒される 巧みなライブ演出に脱帽
ここから6曲は、アレンジバージョンもまじえたオリソンメドレー。ヒメヒナのライブはこのメドレー形式が定番となっているらしいが、怒涛の楽曲展開に合わせて演出も目まぐるしく変わった。たとえば「Mr.VIRTUALIZER ~Electro ver.~」ではバックダンサーが登場、「閃光花火」では櫓にジェット花火、「会いたいボクラ」では天井から吊るされたベンチに座っての歌唱……などなど、円盤やアーカイブがあるとはいえ、ライブという1回の体験にここまでエネルギーを注ぎ込むのか、と衝撃すら受けた。
メドレー最後の「うたかたよいかないで」という選曲も相まっていきなりクライマックスのような雰囲気だと思っていたら、本当に二人が「ありがとうー!」「今日も楽しかったよー!」「最高のライブだったよー!」と締め始める。そんなやりとりは徐々に棒読みになっていき、ヒメの「ってなんでやねーん!」という渾身のノリツッコミがさく裂するなど、MCでも盛り上げ上手な二人であった。
和やかなMCを終えると、エレベーターに乗り込んでお着替えタイム。2人の友人でもあるVTuber・富士葵が電話越しに曲振りを行い、カバーメドレーに突入した。鎖で吊るされた椅子に座って登場したヒメヒナ。「ノンブレス・オブリージュ」で圧巻の活舌とユニゾンで観客の度肝を抜いたかと思えば、「人マニア」では着ぐるみのヒメヒナと息ぴったりのダンスを披露。「デビルじゃないもん」「ダーリンダンス」ではそろいのステッキマイクが病みカワな世界観に華を添える。〈ちゅ〉の部分でヒナがヒメのほっぺにキスをすると、なぜか仕掛けた側のヒナが動揺してしまい、続く「美少女無罪♡パイレーツ」の歌い出しに入り損ねるという尊すぎるワンシーンも見られた。また、同曲のラストではヒメがヒナにキスし返したことも、書き残しておかねばなるまい。
そんなカバーメドレーを通して、「衣装の豊富さ」もヒメヒナの世界観構築に重要な役割を果たしていると見受けられた。このメドレーでは2022年のハロウィン衣装を採用し、ヒメが白いミニワンピの天使スタイル、ヒナがダークカラーのへそ出しショートパンツの悪魔スタイルになることで、「デビルじゃないもん」を筆頭にどの楽曲とも素晴らしいシナジーを発揮。新しい制作物をつめこむだけでなく(それだけでもすごいが)、すでにある資産を効果的に活用することで、新規ファンには新鮮さを、既存ファンには文脈面の深みを提供している点が実に巧みだ。
ノンストップでアップテンポな曲をたたみかけてきた二人だが、ここからはチルタイムとなった。語りから入ったピアノバラード「黙劇」、「GOLDEN ~Chillout ver.~」、さらには初披露の新曲「風編み鳥」と、少しずつボルテージを戻していく。「風編み鳥」では風に舞うような軽やかなステップと、2人や制作陣のこれまでとこれからの旅路を思わせる歌詞に、心揺さぶられた。
続くMCでは、「風編み鳥」の歌詞を振り返りつつ、「このライブを作るのにも何悶着あったか! みんなが同じ方向を向くのにはいろいろな意見があって、ここに立っているのだ! それが楽しいんだよな。これからも一緒に進んでいこうね」(ヒメ)と話した。さらに「みんな大丈夫? 初見の反応できますか?」(ヒナ)とDAY1と同じ発表がもう一度行われることを示唆した上で、全国ツアー(西)の決定をサプライズでお知らせ。2020年、コロナの影響で、一度は中止を余儀なくされた全国ツアー。当時から追っているファンにとっては、実に4年越しの悲願となる。告知に当時のムービーも使われるという粋な演出を経てからの、「全国ツアー西、行くぞー!!」という2人の渾身の叫び。これを言いたくて言いたくてたまらなかったのであろうことは、容易に想像できる。
そんな告知に続くヒメのソロステージは、「Realize Dream」。直訳で「夢の実現」というぴったりすぎる選曲だ。続いては再びふたりが合流し、「キリカ」「藍の華」と、伏線を回収するような選曲が続く。楽曲は、どんな状況・シチュエーションで歌われるかや、どんなメッセージをこめて歌われるかによって、聞き手が受ける感動も変わる。そんなライブの醍醐味とも言える体験が、一連の選曲につまっていた。
息ぴったりの掛け合いとユニゾンが激アツな「ハレ」、ヒナのソロステージとして「流星パーティーライド」、ゲストの星川サラによる「3分ガール」を経て、ライブは終盤へ。今日のパフォーマンスを支えるバンド隊が姿を現し、スモークが荒々しく吹き上がる。ここからはK-POP風のダンス衣装にぴったりな選曲が続く。
「マザードラッグ」「WWW Rock」とこの終盤に激しめのアップナンバーを連発、絶えず変化するステージ演出と連携しながら歌い踊る二人の体力には驚かされるばかりだ。「フリコドウル」ではMV同様にダンサーをしたがえ、回転するステージの中央でコールをあおる。休む間もなく、曲終わりに降りてきた紗幕には、親の顔より見た「劣等上等」のカバーMVが流れた。大熱狂を乗りこなす二人は、もちろん「本日はみなさんでご唱和ください!」「みんなで踊るよ!」と、JOJIたちを全員残らず連れていく。
軽快なカッティングギターがつないだ先は「ヒトガタRock」。2番のラップパートの遊び心あるアレンジには思わず歓声が上がった。ヒメヒナのオリジナル曲はどれも粒揃いの中、セトリの順番が文脈とファン心理をしっかり押さえていて、「こういうのやってほしい」が何倍にも膨らんでぶつかってくるような破壊力だ。
最後は、これでヒメヒナを知った人も多いであろうヒットソング「愛包ダンスホール」へ。黄色一色のペンライトに銀テープが降り注ぎ、会場は最高潮の盛り上がりで応える。ファンとのデュエットソングと言っても良いくらいコールパートが複雑かつ多い曲で、事前のレクチャー動画ではその難易度の高さに動揺する反応もあったが、JOJIたちはこの短期間でしっかり仕上げてきていた。幕が閉じる瞬間、すきまからぴょこんとかわいらしく「またね」と告げた二人は、そのまま一度退場した。
本編最後に披露された「愛包ダンスホール」の〈おかわりはアンコール次第ね〉という歌詞はもしかしてアンコールの匂わせだったのか……という深読みをしつつ、あらためてここまでの大ボリュームのライブが無料配信までされていたことに感動する。無論、会場ではすぐにアンコールが沸き起こり、「うたかたよいかないで」のオルゴールサウンドが流れると、声は自然と歌をつむぎはじめた。
ほどなくしてスクリーンに「Thanks for your Voice and Love.」というテキストが現れたかと思えば、ライブTシャツ姿の2人が、天井から吊るされた足場で登場。そのまま「Hello, Parasomnia」「ナンダロウナ・ワンウェイ・ロード」さらに3rdアルバム「提灯暗航」収録曲を次々とごちゃまぜにremixした3曲のメドレーに突入した。
アンコールとは思えない怒涛のセトリを歌い切った2人は、水を飲んでようやく一息。満面の笑みで、「幸せですね」(ヒメ)「本当に幸せなんだけど、どうしよう?」(ヒナ)と、ライブの高揚感を噛みしめる。終わりたくなさすぎて駄々をこね始める2人だったが、気を取り直して本公演のBlu-ray化を発表した。
「ライブをやれなかった時期があって、せめて無観客で……って開催したり、みんなに会えなくていっぱい悔しい思いをしたから。『会いたい、みんなの声が聞きたい』。そんな思いでできた曲です」(ヒメ)との紹介で始まったのは、「こだましがみ」だ。終盤に向けて曲の疾走感が増す中、〈それはあなただった〉でスクリーンには緑一色のニンライトに染まった客席が映された。はっとするような展開に心奪われたまま、シンガロングが響きだす。祈りだった歌は祝福の歌になり、2人の美しいハーモニーは会場中に、そして配信を通して世界中に届いた。
今日最後のMCでは、2人が順番にライブの感想を述べた。
ヒメは、今日初めてヒメヒナのライブに来た人や、長い期間応援してきた人に感謝を伝えたうえで、「大変身の発表をしてから1年、“愛包”でいろんなみんなにこうやって出会ったり感想をもらったりして、またJOJIの輪が広がったってすごく思った。ツアーの発表もできて、みんなに会えなかった期間、かなわなかったこと、悔しかったこと、ひとつずつこういう形で恩返ししていきたいなって思ってる。これからも頑張るから、頑張ろう! これからもついてきてくれ! 本当にいつもずーっとずっとありがとう!」と、途中涙まじりになりながらも、最後には力強く笑顔で締めくくった。
一方のヒナはダーリンダンスでのキスから「美少女無罪♡パイレーツ」に入れなかった事件を振り返り、「今日Blu-rayになるって発表しましたよね? まずいです! 昨日は成功してるので、昨日のやつと差し替えることは可能でしょうか!?」と申し出るおちゃめな一面や、「本当に今日、みなさんのことみくびってました。愛包のコールとか、みんな急に歌えるわけないよって。もうびっくりです。みなさん最高! みなさん大天才! ありがとうの代わりに、『だーいすきだよ!』」と特大の投げキッスでファンの心をかっさらっていった。
「過去の思い出や、そのときの涙がこみ上げたツンとした薫りがよみがえるような、心に残るようなライブにしたくて、このライブタイトルになりました。この2DAYSが、みんなの心に残るライブになっていたらうれしいです」(ヒナ)
「この曲はね、『うたかたよいかないで』に続く、別れと未来を思う曲です。みんなにも人生の中でたくさん別れの瞬間があると思うけど、涙の甘酸っぱい薫りを背負いながら僕たちは未来に進むんだ。そんな気持ちを込めた曲です」(ヒメ)
そんな2人の紹介で放たれたのは、ライブタイトルでもある新曲「涙の薫りがする」。今日という日は終わりを迎えるけれど、それは決して悲しい別れではない。全国ツアーというこれ以上ない約束があるから、また会う日を待つことができる。その幸せを誰より知っている二人だからこそ、歌声には一層感情がこもり、伸びやかに響く。
最後は大ジャンプで大団円を迎えるかと思いきや、ここでなんと撮影OKパートがスタート。まだ発表されていない楽曲を含めた最新曲がノイズ交じりに流れる思わせぶりな演出の後、新曲「LADY CRAZY」のパフォーマンスが始まった。スマホを構えた観客は、新衣装で登場した2人のニヒルな笑いと、KPOP調のサウンドと鳴り響く重低音に衝撃を受けたに違いない。おもむろにステージに登場した箱のタイマー表示が0になる瞬間、二人のキックでガラスが割れ、中から現れたジャケットを模したビジュアルを以て、ニューアルバム「Bubblin」の告知も果たされた。
すべての演目を終え、豊洲PIT2DAYSライブの大成功を収めた2人は、口々にお礼を言いながら電車に乗り込む。名残惜しそうに車両の端まで移動して手を振りながらも、心底嬉しそうな表情で、全国ツアーへと出かけていった。
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