ヒメヒナが観客と共有した“熱い思い” オンラインライブ『HIMEHINA LIVE2021「藍の華」』レポ

『HIMEHINA LIVE2021「藍の華」』レポ

 2018年のデビュー以降、ユーモア満載の動画/生配信コンテンツや、息の合った歌声/ダンスを活かした音楽活動などで人気を集める、田中ヒメと鈴木ヒナによる2人組バーチャルYouTuberユニット・ヒメヒナ。2月7日、彼女たちの最新ワンマンライブとなる無観客&オンラインライブ『HIMEHINA LIVE2021「藍の華」in 豊洲PIT』が開催された。

 このライブは1stアルバム『藍の華』リリース直後に開催予定だった昨年4月からの全国ツアーがコロナ禍によって中止になったことを経て開催された、ヒメヒナやジョジ民(ヒメヒナファンの総称)にとって待望の公演。一度は目前で絶たれてしまった「アルバムを持ってファンのもとへ向かおう!」という2人の想いが、約1年越しに実現する舞台となった。




 この日印象的だったのは、ファンが会場に集まれない無観客ライブとしての開催だからこそ、様々な工夫を凝らすことで、本当に観客が会場を訪れているかのような「リアルライブの熱気」を再現していたこと。本来空席であるはずの豊洲PITの客席にはAR的な演出で無数のコメントが表示され、ファンが客席でライブを見守るような構図になっている。また、特設サイトでは、嵐の『This is 嵐 LIVE 2020.12.31』などでも行なわれた、事前にコールや歓声をファンから募集する企画を実施。その音声を当日使用することで、無観客のオンラインライブでありつつも、まるでリアルライブのような雰囲気が生まれていた。

 まずは荒廃した世界に2人が現われると、「おかえりをしようね」という歌詞が印象的な「約束の血」がはじまり、1stライブや全国ツアー発表、その後のツアー中止に至る道のりを振り返る映像が流れ、「当たり前だと思っていた。会えるってこと、歌えるってこと」というメッセージの後、ヒメヒナの挨拶になぞらえた「80(はおー)」からライブのカウントダウンがスタート。最後に「おかえりなさい!!」と観客の声が挿入され、新衣装をまとったヒメヒナが登場してライブがスタートした。

 序盤パートはエネルギッシュなロック曲が中心。ヒメヒナがいるステージ上とは別のスタジオで演奏するバンドメンバーの姿がスクリーンを通して随時中継されており、会場のヒメヒナ、バックのスクリーンに映る中継先のバンド、客席にコメントとして表示されている観客の姿が、会場でミックスされてひとつのライブ空間になっている。



 本編1曲目の「藍の華」では、「ラーラララララー」と3600人以上の観客の声をつかった演出が早速登場し、超高速ボーカルパートが印象的な新曲「相思相愛リフレクション」、ライブで盛り上がる定番曲のひとつ「ヒトガタRock」などを間髪入れずに披露。随所に事前収録された「はい!はい!」という観客の掛け声も使われて臨場感たっぷりにライブが進む。続く「ヒバリ」では、超高速パートでもピッタリと合う2人のハモリが重なり、観客がヒートアップ。序盤から無観客であることを感じさせないエネルギッシュなステージが続く。

 とはいえ、今のヒメヒナにはロック曲で押すだけではない、一旦引いてみせる巧さもある。続いて2人がイスに腰かけると、ステージ奥に現われた本がパラパラと開き、そこに物語が綴られる。昨年2月の企画ライブ『田中音楽堂オトナLIVE「歌學革命宴」feat.鈴木文学堂』でフィーチャーされた「鈴木文学堂」を思わせる、ヒメヒナのもうひとつの側面だ。「琥珀の身体」では、そのまま本に歌詞が映し出され、語りパートでは以前とは違ったセリフが披露される瞬間も。その内容はまるで物語の続編を伝えるような内容になっていて、「楽曲がリアルタイムで進化する」という、生のライブならではの展開に観客がさらに盛り上がる。

 中でも序盤のハイライトとなったのは、ヒメヒナのこれまでの歩みを振り返るような歌詞が印象的な「夢景色」だろう。この曲では途中、サプライズでスクリーンにファンからのメッセージが表示され、2人が驚いて涙を堪えられなくなる瞬間も。こうした場面にも、オンラインライブで可視化されがちなアーティストと観客との間の距離を感じさせない気遣いが感じられる。

 また、そうした構成が映えるのは、ヒメヒナの音楽に、感情をそのまま音楽にするかのようなエモーショナルさがあるからこそ。どこか10年代のボカロ/歌い手カルチャーへの愛なども垣間見えるような、コンパクトで切れ味のあるロックを中心にした楽曲は、「You know we're not a doll(=私たちは人形じゃない)」という歌詞を持つ代表曲「ヒトガタ」を筆頭に「生命」や「生きること」など人間的な感情がテーマになっていて、文学的な歌詞も相まって様々な考察の余白が残されている。また、リズムを取ることが難しい超高速パートでもぴったり息を合わせながら曲のグルーヴをぐんぐん加速させる2人の歌も素晴らしく、それらすべてがひとつになることで、ヒメヒナ特有の感情を揺さぶるような魅力が生まれているようだった。




 中盤以降は、人気企画のライブ出張版「ジョジリバLIVE」を経て、「アスノヨゾラ哨戒班(Remix)」「アウトサイダー」「ベノム」「ロキ」「夜に駆ける」を次々に披露するカバーコーナーへ。続いて2人それぞれのソロ曲「キセキ色」と「ユメミテル」で作詞を担当したことについてのインタビューが公開され、順番に「キセキ色」と「ユメミテル」をソロで披露。その後2人が舞台を去ると、別スタジオのバンドによるインストメドレーが中継され、最後に「うたかたよいかないで」の曲名が映されたところでヒメヒナが再登場。この曲では「またね/うたかた/もうお別れだね」というサビの部分で、壮大な観客の大合唱が響いた。

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