『祇:Path of the Goddess』の“原点”とは いまこそ『深世海 Into the Depths』をオススメしたい
カプコンの新作『祇(くにつがみ):Path of the Goddess』が発売されたいまこそ、その作風と精神の原点に当たる作品『深世海 Into the Depths』も遊んでみていただきたい。
もともと、『祇:Path of the Goddess』は、2023年6月の初報当時より『大神』と『深世海 Into the Depths』という、2つのカプコンタイトルに連なる新作であることが宣伝されていた。特に強い関連性を持つのが『深世海 Into the Depths』。ディレクターを担当されたカプコンの川田脩壱氏を始め、共通するスタッフが『祇:Path of the Goddess』にも引き続き参加していることがその背景にある。
ただ、『深世海 Into the Depths』は、いわゆる“知る人ぞ知る作品”だ。そもそも2024年現在、同作はNintendo Switchでしか販売されていない。『祇:Path of the Goddess』が展開されたPlayStation 5、Xbox Series X|Sなどの家庭用ゲーム機、およびパソコンでは遊べないのだ。
それでも『深世海 Into the Depths』は強くオススメしたい作品である。同じスタッフによる新作『祇:Path of the Goddess』が発売されたいまだからこそ、このカプコンのゲームとしては非常に珍しい作風を持った作品の魅力を伝えたい。
そして、興味を抱いたのであれば、ぜひ遊んでみていただきたいところだ。
潜水服を強化しながら、海底世界の奥深くを目指す潜水探検アクション
『深世海 Into the Depths』はもともと、2019年9月にAppleのゲームサブスクリプションサービス「Apple Arcade」向けに配信されたカプコンの完全新作タイトル。
年を跨いだ数ヶ月後の2020年3月26日には、Nintendo Switch版も発売された。販売携帯は『祇:Path of the Goddess』と同じく、ダウンロードのみとなる。
なお、Apple Arcade版は2023年8月29日をもって配信終了。そのため、2024年現在はNintendo Switch版が唯一の存在となる。
ジャンルは横スクロールのアクションゲーム。分類としては、迷路のように入り組んだ広大なフィールドを冒険していく探索型で、公式には「新感覚 潜水探検アクション」と名付けられている。
プレイヤーは主人公「潜海者(せんかいしゃ)」となり、作中の舞台となる海底世界、その名も「世海(せかい)」を未知の機械「潜導(せんどう)」とともに探索していく。最終目標は「世海」の最深部への到達。要は海の中をどんどん潜っていけばいい。
もちろん、最初から最後まで、順調に潜り続けられるなんてことはない。その途上で危険な海洋生物が立ちはだかったり、「世海」全体を蝕む最大の脅威「氷」に直面することがある。また、潜水を続けていくと、血のように赤く染まった区域も出現。
この赤い境界面は高水圧の「水圧限界エリア」で、潜ってしまうと主人公がまとう潜水服とボンベが徐々に消耗していき、ゆくゆくはゲームオーバーになってしまう。しかし、最深部を目指すに当たっては、この水圧限界エリアを突破しなくてはならない。
そのために地面に埋まった「資源」を集め、潜水服を水圧に耐えられる状態に強化させていくのだ。本編はそんな潜水服の強化を都度図りつつ、海底を探索していくのが基本になる。具体的には画面右上に表示されるミニマップ、もしくは全体マップに記された「マーカー」が示す目的地を目指す感じだ。
探索型のアクションゲームというと、迷路のように入り組んでいることから、行き先が分からず右往左往してしまう事態に陥りやすい。本作は常時、目的地がマーカーで表示される仕組みとなっているのもあって、そういった事態は起きにくい。また、水圧限界エリアの設定によって行動範囲も絞り込まれるため、過度に道を外れてしまうことも起きにくい。そうした配慮もあって、比較的スムーズに進めていける作りとなっている。
ただ、舞台が海の中。常時、水の抵抗がかかるため、移動にジャンプ、武器による攻撃の挙動は重い。ジャンプに至っては、水の中ということもあって非常に“フワッ”とした浮遊感がある。
そして、行動のたびに「酸素」が減っていく。もし、酸素をすべて失ったりでもしたら、主人公はどうなってしまうのか? 大体、ロクでもないことになるのは想像がつくと思うので、詳細は省こう。
なので、本作は酸素の残量にも気を配る必要がある。なお、酸素の残量は道中で「酸素ボンベ」を回収することで最大値を上げられる。だが、ボンベは敵の攻撃を受けたり、高いところから飛び降りる行動を取るとヒビが入る。そのまま何回か、いずれかの行為をすればボンベは大破。最大値も下がってしまう。
一応、再びボンベを手に入れれば戻せるほか、ヒビも採掘で手に入れた資源を使うことで直せはする。ただ、どれも適時実施できるわけではないので、破損しないための気配りは必要。そんな主人公の体力と生命線の役割を持ったアイテムになっていて、ほかの体力制を採用したアクションゲームとはひと味異なる特徴を持っている。
ほかに探索の過程では主人公の能力を上げるアイテムも手に入り、それによって行動範囲が広がることも。また、ある程度ゲームが進むと「潜水艦」も登場。広い範囲の移動のほか、内蔵された「ドリル」で道を作って掘り進むようなことも可能になる。
まさに水中、海底という舞台設定を巧みに活かした内容に仕上がっており、非常に強い個性を持ったアクションゲームになっている。ある意味では、カプコンらしい”トガり”のある探索型のアクションゲームでもある。
カプコン特有の“トガり”を持ちつつ、遊びやすさにこだわって作られたその内容
少々話が脱線するが、カプコンのアクションゲーム……特に横スクロール型と言うと、「ロックマン」に「魔界村」といった、ステージクリア型の印象が強い。探索型はどちらかというと印象が薄い方である。
ただ、1作も出していないわけではない。前述した「ロックマン」なら『ロックマンゼクス』、「魔界村」なら『極魔界村』といった探索型の作品がある。従来のステージクリアから一転し、探索型へとモデルチェンジを図った2014年発売のリブート版『ストライダー飛竜』もそのひとつだ。
しかし、これはそれらの3作品を体験して感じた筆者の主観になるが……カプコンの探索型作品は”トガり”が鋭く出すぎる傾向がある。例を出せば、ステージクリア型の文法に沿った構造のフィールド、100万回やられても諦めない精神が試される難関の連続、敵の攻撃を必ず受け続けながら立ち回る戦闘(ボスを除く)などだ。それが作品ごとの個性であると同時に、人によっては拒否反応が出やすい特徴にもなっていた。
『深世海 Into the Depths』にもそんな”トガり”はある。水の中が舞台ゆえのアクションの重々しさと浮遊感、酸素周りの管理とボンベの仕組みがその一例だ。
ただ、本作はその”トガり”を純粋に面白いものと味わえる作りになっている。それが本作の大きな魅力。最も個性が際立っているアクション以外の箇所は遊びやすさに神経を注ぎ、余計なストレスを抱きにくい作りにまとめ上げているのだ。
具体的には操作の説明と、実体験を兼ねたイベントを序盤にたくさん設ける。途中経過の記録(セーブ)と酸素の補充が可能なチェックポイントを豊富に設置する。そして、常に次の目的地を表示する……などだ。そのような気配りが細かくなされているのである。高水圧の水圧限界エリアも、過度に動きすぎて右往左往してしまう問題を防ぐことのほか、次に進む場所という行動指針としても機能している。
そういった丁寧な気配りもあって、本作は“トガり”の筆頭たるアクション全般を素直に楽しめる。それでもゲームを始めて間もないころは、煩わしさを感じやすい。しかし、全体の構成と導線が適切なこともあって、徐々にそれを自分のものにする楽しさが勝ってくる。
そして、思い通り動かせるようになればなるほど、大胆な動きを決めたい衝動にも駆られやすくなる。「ブースト」で水の中を素早く動いて、目的地まで迅速に動いたり、敵の攻撃を華麗に避けたりといった感じだ。
クセのあるアクションを自分のものにする楽しさというのは、同じカプコンのアクションゲームで『バイオニックコマンドー』のワイヤーアクション(スウィングアクション)が持っていたものだが、それに近い手応えが本作にもある。同時に海底世界が舞台ゆえの独自性も表現していて、ほかの探索型のアクションゲームでは到底味わえない体験をプレイヤーにもたらすのだ。その体験の独自性も魅力のひとつとなっている。
それでいて、操作がそこまで複雑ではないのもユニークなところ。あくまでもアクション周りにクセがある程度で、肝心の操作……使うボタンの数は少なく、取っつきやすくされているのだ。そこのギャップも前述した『バイオニックコマンドー』を思わせる。また、難易度も選べる設計で、最も簡単な「イージー」なら、スリルもホドホドに海底世界の探検を楽しめる。
本作の舞台「世海」には、かつての文明の遺構が多数、見られると同時に、潜れば潜るほど思いもしない光景が出てくる。そういった雰囲気を味わいながら楽しみたいなら、ぜひ「イージー」でのプレイを推奨したい。
それと並行し、言葉では一切語られない謎多きストーリーにも注目だ。特に終盤には思いもしない壮大な展開が待っているので、思わずクギ付けになってしまうだろう。ボリュームもじっくり進めて7~8時間と、長すぎず短すぎずの程よさなので、十分な満足感を得られるはずである。