『ファミコン世界大会』は『ファミコンリミックス』のリベンジなのか? 対戦要素による“広がり”への期待

『ファミコン世界大会』“広がり”への期待

 ファミリーコンピュータ(ファミコン)生誕40周年キャンペーンのトリを飾る形で7月18日、発売を迎えたNintendo Switch用ゲームソフト『Nintendo World Championships ファミコン世界大会』。

Nintendo World Championships ファミコン世界大会 紹介映像

 このタイトルは1990年代、北米地域で実際に開催されていた任天堂公式のゲーム大会「Nintendo World Championships」をテーマとし、誰でも気軽に任天堂のファミコンソフトを元にした競技に挑めることをセールスポイントとしている。

 その初報は5月9日配信のYouTube動画「ファミコントークショップ コバヤシ玩具店」でのことだったが、このゲームの概要を見て、一部のプレイヤーはこんなことを思い浮かべたのではないかと思われる。

 「対戦要素が追加された『ファミコンリミックス』では?」……と。

ファミコンで発売された任天堂タイトルの美味しい部分を重点的に味わえた『ファミコンリミックス』

 『ファミコンリミックス』は、2013年12月19日にWii Uダウンロード専用ソフトとして発売されたタイトルだ。ファミコンで発売された任天堂タイトルのさまざまな場面を切り抜いた「お題」に挑んでいくというゲームである。

 公式には「リミックス」というジャンル名が付けられているが、実際にはミニゲーム集に近い内容となっている。

ファミコンリミックス 紹介映像

 収録されている任天堂タイトルは、1983年から1986年に発売されたものが中心。『スーパーマリオブラザーズ』、『ゼルダの伝説』、『ドンキーコング』といった著名な16タイトルを元にしたお題を楽しめた。

 なお、お題は原作からそのまま切り抜かれた場面のお題に挑む「ファミコン」のほか、視界が暗くなったり、本来あるはずのない障害などが現れるアレンジが施された「リミックス」の2種類が用意されている。

 2014年4月24日には続編『ファミコンリミックス2』と、前作と続編をセットにしたパッケージ版『ファミコンリミックス1+2』が発売。

ファミコンリミックス2 紹介映像

 続編では『メトロイド』に『スーパーマリオブラザーズ3』、『星のカービィ 夢の泉の物語』といった1986年から1994年までに発売された全12の任天堂タイトルを収録。

 さらに主人公がルイージで、ステージすべてが左右反転に変更された『スーパーマリオブラザーズ』の特別アレンジ版『スーパールイージブラザーズ』も収録されるなど、大幅なボリュームアップが図られた。

ファミコンリミックス ベストチョイス 紹介映像

 そして、2015年にはニンテンドー3DS向けに、1作目と2作目から16の任天堂タイトルを厳選して収録し、『スピードマリオブラザーズ』なるアレンジ版も楽しめる『ファミコンリミックス ベストチョイス』が発売。以降、「ファミコンリミックス」のシリーズとしての新展開は一区切りを迎え、2024年4月には続編の発売からちょうど10年が経過した。

 本作は『スーパーマリオギャラクシー』、『スーパーマリオ3Dランド』などでディレクター、直近では『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』のゲームデザインを担当した任天堂の林田宏一氏が企画を立ち上げ、『ゲームセンターCX 有野の挑戦状』や『シアトリズム ファイナルファンタジー』などを代表作とするインディーズゼロとタッグを組む形で開発された。

 「Wii Uで とことん楽しむ ファミコンリミックス+バーチャルコンソール」(KADOKAWA/エンターブレイン)の10~11ページ記載の開発者インタビューによれば、企画の発端には『ゲームセンターCX』を見ていて自分がチャレンジしたい気持ちになることがあったのを踏まえ、手軽にチャレンジできるものを作ってみようと思ったことがあったという。

 また、『スーパーマリオブラザーズ』の最終ステージ「8-4」のクッパと戦いたくても加齢の影響で腕前が鈍ってしまい、そこまで到達するのが難しくなってしまったので、ダイジェスト的に遊べればうれしいという林田氏の思いもあったようだ。

 ほかに「週プレNEWS」(※)のインタビューでは、「当時のゲームの面白さを今のユーザーに伝えられるものを作りたいと思っていた」ことも語られている。

※参考リンク:任天堂“宮本イズム”伝承者たちが語る「ファミコン黄金時代という高い壁、そして新たな黄金時代のつくり方」(週プレNEWS)

https://wpb.shueisha.co.jp/news/entertainment/2014/01/08/24116/

 そうした思いから作られた『ファミコンリミックス』は、まさに各ゲームの美味しいところだけを重点的に味わえることが大きな魅力となっていた。言い方を変えれば、小さな成功体験をゴージャスに味わえるゲームでもある。

 特にファミコンでテレビゲームの世界に足を踏み入れた世代ほど、このような思い出が残っていないだろうか。『スーパーマリオブラザーズ』を例に出せば、「1-1」で最初のクリボーに当たらず避けられただけでも喜んだこと。ゴールに近道できる土管を発見したこと。そして、そのような小さな成功の数々を何度でも味わいたいがため、先の「1-2」へと進まずに「1-1」を繰り返し遊んだこと。

 ゲームとしては全体の一部に過ぎないのに、そこだけで十分満足できてしまう。とりわけ、初めてゲームに触れた人ほど、その刺激の強さから繰り返した経験があるのではないかと思う。

 『ファミコンリミックス』は、まさにそういった初体験時の楽しさを再認識させると同時に、タイムアタックや評価システムなどの要素を組み合わせることで、新しい遊びの形として確立させた作品でもあった。

シングルプレイ専用であったがゆえの限界と、その課題に向き合ったと思しき『ファミコン世界大会』

 ただ、『ファミコンリミックス』には弱点に等しい部分があった。シングルプレイ専用のゲームだったことである。

 基本的に「お題」には、ひとりで取り組むことになる。ほかのプレイヤーと一緒に遊ぶとなれば、コントローラを交代しながら遊ぶという形に限定されていたのだ。

 もともと、企画の時点でシングルプレイ専用は前提になっていたようで、林田氏も「Wii Uで とことん楽しむ ファミコンリミックス+バーチャルコンソール」のインタビューにおいて「ひとりで遊ぶものだと勝手に思い込んでいた」とコメントしている。

 しかし発売後、「みんなでやると何倍も面白いです」とのユーザーからの声があり、ファミコンってそうやって遊んでいたなと再認識させられたという。

 元来、こうした場面を切り抜いた遊びは、シングルプレイに特化されやすい傾向があった。『ファミコンリミックス』と同じく、任天堂タイトルの場面を切り抜き、独自の遊びとして昇華させていた『メイド イン ワリオ』はその一例と言えるだろう。

『メイド イン ワリオ』のプチゲーム『メトロイド』(『ゲームボーイアドバンス Nintendo Switch Online』より)
『メイド イン ワリオ』のプチゲーム『メトロイド』(『ゲームボーイアドバンス Nintendo Switch Online』より)

 ただ、『メイド イン ワリオ』に関しては、据え置き機向けに展開された新作でマルチプレイを実現させている。もっとも『メイド イン ワリオ』の場合、収録された任天堂タイトルの多くは5秒間という制約を考慮して独自アレンジされたものが多い。そのことから、原作から切り抜いた場面をそのまま遊べるゲームというには際どい側面がある。

『ゲームセンターCX 有野の挑戦状 1+2 REPLAY』(Nintendo Switch)より
『ゲームセンターCX 有野の挑戦状 1+2 REPLAY』(Nintendo Switch)より

 『ファミコンリミックス』を開発したインディーズゼロの代表作で、任天堂タイトルが収録されている作品ではないが『ゲームセンターCX 有野の挑戦状』も、基本的にはシングルプレイ専用。一部のゲームでは協力、対戦プレイが楽しめるようにはなっているものの、おまけ的な位置づけで、メインはシングルにあった感じだ。

 その意味でも今回の『ファミコン世界大会』は、『ファミコンリミックス』のときには成し得なかったことにリベンジした作品とも言える。確かに単純に見れば、『ファミコンリミックス』に対戦要素を追加しただけの作品であるように見える。

 だが、もともとの『ファミコンリミックス』がシングルプレイ専用で、黙々とプレイするスタイルだったことを踏まえれば、『ファミコン世界大会』はより賑やかで、かつヒートアップしてしまう魅力がプラスされた新作と言えるだろう。しかも、ローカルのみならず、オンラインにも対応している。より一層、ファミコンの名作たちが新しい形で楽しまれ、広まっていくのではないだろうか。

 前述したが、『ファミコンリミックス』の発端には「当時のゲームの面白さを今のユーザーに伝えられるものを作りたい」との思いがあったという。しかし、『ファミコンリミックス』は交代によるマルチプレイは可能とは言え、元がシングルプレイ専用ゆえに伝える範囲にも限界があったのではないかと思う。

 その意味では今回の『ファミコン世界大会』は、『ファミコンリミックス』のとき以上の波及効果を望めるように思える。それにもともと、『ファミコンリミックス』には、今回の『ファミコン世界大会』の原点に当たるモードが存在した。

 続編『ファミコンリミックス2』(※)、パッケージ版『ファミコンリミックス1+2』で遊べる「チャンピオンシップモード」だ。『スーパーマリオブラザーズ』、『スーパーマリオブラザーズ3』、『ドクターマリオ』の3タイトルのお題に挑み、その総合得点で競う遊びが楽しめたのである。ただし、この3タイトル以外をテーマにした競技は無し。スコアのオンラインランキングには対応していたが、2024年現在はWii Uのネットワークサービス終了により、他のユーザーとの競い合いは楽しめなくなった。

※前作『ファミコンリミックス』を購入するとゲームモードが解禁され、遊べるようになる(『ファミコンリミックス2』単体ではプレイできない仕組みとなっている)。

 このことを踏まえると、ますます『ファミコン世界大会』は『ファミコンリミックス』のときに達成し得なかったことに挑んだリベンジ作との印象が強くなってくる感じだ。くわえて、今回は対戦形式もさまざまである。なおのこと、盛り上がりと広まり方も大きくなるのではないだろうか。

 たしかに対戦要素が追加された『ファミコンリミックス』の印象はぬぐい切れない。だが、もしかすると、『ファミコンリミックス』以上に当時のゲームの面白さが新しい形で伝わるかもしれない。その意味でも、本作はその内容に限らず、発売後の動向にもいろいろな意味で注目される作品と言えるように思えるのだ。

『ファミコン世界大会』を通し、ファミコンのゲームたちはいかなる未来を歩み、遊びの形を変えていくのか

 ……とは言うものの。『ファミコンリミックス』の経験がある人間の視点からすると、『ファミコン世界大会』に対しては、外側の部分において「どうにかならなかったのか」と物申したくなる部分がある。収録された13作品のことだ。

 全部、『ファミコンリミックス』の2作で収録済みのタイトルである。『ファミコンリミックス』を知っていれば「またか」的な印象があるのは否めない。ある意味、初報時における『ファミコンリミックス』の匂いが強いのもここに起因している感じだ。

 すでに続編『ファミコンリミックス2』の発売から10年が経っているのと、シリーズ展開が途絶えていることを踏まえれば、新鮮に映る側面もあるかもしれない。しかし、やはり何かしら『ファミコンリミックス』に収録されなかったタイトルが欲しかったところだ。

 名前を出してしまえば『デビルワールド』、『謎の村雨城』、『マッハライダー』、『ヨッシーのたまご』、『ジョイメカファイト』辺りである。

 『ジョイメカファイト』は日本語版しか出ていないタイトルのため、候補にするのは厳しかったと思われるが(※『謎の村雨城』は2014年に海外版がニンテンドー3DSのバーチャルコンソール版で配信されたことがあった)。

『ファミリーコンピュータ Nintendo Switch Online』(『マッハライダー』は2024年7月4日のアップデートで追加された)
『ファミリーコンピュータ Nintendo Switch Online』(『マッハライダー』は2024年7月4日のアップデートで追加された)

 一応、これらのタイトルは『ファミリーコンピュータ Nintendo Switch Online』で遊べるので、そちらで補うこともできなくはない。

 ただ、やはり1~2本は見たことのないタイトルを加えられなかったのかというのが正直なところだ。そうすれば、『ファミコンリミックス』の派生作……悪い言い方をすれば、二番煎じっぽさも薄くできたように思えてならない。

 欲を言えば、40周年記念キャンペーンのイメージビジュアルにあったように、『ロックマン』や『悪魔城ドラキュラ』といった他社のゲームが混じっているものも面白かったかもしれないが、それはそれで『大乱闘スマッシュブラザーズ』的な実現上の難しさが容易に想像される。ひとまず、次の50周年の時に現実になるといいなとだけ願望を書いておくとしよう。

 とにもかくにも、ファミコン40周年キャンペーンが一区切りを迎え、ローカルとオンラインでさまざまなファミコンタイトルをテーマに競い合えるゲームの発売。かつての『ファミコンリミックス』のときに考えられた「当時のゲームの面白さを今のユーザーに伝えられるもの」として、長々と遊ばれ続けるゲームになるのか。

 そして、いずれはイベントでも競技タイトルのひとつとしてピックアップされ、新世代のファミコン名人が誕生するのか。製品版を遊び、ときどきオンラインにも挑戦しながら、今後の推移を見ていきたいところだ。

 そして、気が早いが……次の生誕50周年ではどんなキャンペーンが繰り広げられるのかも楽しみに待ちたい。筆者自身、今以上に年老いていそうな不安が残るが……そうなっても現在と変わることなく、さまざまなゲームを楽しんでいる人間でありたい。

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