G7で創設、いまや53ヵ国に広まる「広島AIプロセス」とは? 世界のAI規制・ガイダンスの現状を解説
AI技術は日進月歩で進化しているが、その進歩に追いつこうとするようにして、AI規制とガイダンスも整備されつつある。2024年においても、7月までに世界各国でさまざまなAI制度に関する発表があった。本稿ではそれらの発表をまとめるとともに、昨今新たなに浮上したAIの問題とその対応についても解説する。
賛同が広がる広島AIプロセス
2023年5月に広島で開催された『G7広島サミット』では、AIの活用と規制に関してG7諸国が協調することを定めた国際的枠組み「広島AIプロセス」が創設された。同年12月、総務省はこの枠組みの公式WEBサイト(※1)を立ち上げた。
2024年5月2日には、広島AIプロセスに賛同する国と地域が53に拡大したことが告知された(※2)。「サポーター」と呼ばれるこれらの国と地域にはG7諸国のほかに、南米諸国のチリ共和国やコロンビア共和国、アフリカ諸国のケニア共和国やナイジェリア連邦共和国、オセアニア諸国のオーストラリア連邦やニュージーランドなどが含まれており、文字通り世界各地から賛同が集まっている。
2024年6月12日から16日にイタリアのプーリアで開催された『G7プーリアサミット』の成果物「G7プーリア首脳コミュニケ」(※3)でも、広島AIプロセスを前進させる内容が盛り込まれるなど、この動きは広がりつづけている。そのほかには「AIによる労働の代替」に代表されるような“AIと労働”に関する諸問題についても、世界規模で取り組むことが確認された。
2024年5月17日には、AGI(汎用人工知能)の安全な実現について論じた「先進的AIの安全性に関する国際的科学レポート」(※4)の中間成果物が発表された。このレポートの作成は、2023年11月にイギリスのブレッチリー・パークで開催された第1回AI安全性サミットで公約としてかかげられていたものだ。
同レポートによると、AGIの実現可能性については専門家のあいだでも意見が分かれており、早期に実現するという予想から実現不可能という意見まである。AGIが誕生した場合の影響についても、非常に楽観的なものから人類の絶滅を予想する極度に悲観的なものまである。これを踏まえて、AGIについては統一的見解がないのが現状であり、「AGIの未来は不確実」とレポートは結論づけている。
しかしながら、AGIの未来が不確実だからこそ、その未来は今後の社会や国家における議論によって決定される、とレポートは述べている。つまり、このレポートはAGIに関する国際的議論を促進するための資料として位置付けられているのだ。なお、同レポートの最終版は、2025年2月にフランスで開催されるAIアクション・サミットに先立って公開される予定だ。
以上のようにAIに関する規制や議論は、世界規模で着実に進んでいるのが現状だ。
整備が進む日本のAI制度
一方で日本に目を転じると、2024年には7月時点までに多数のAIに関する重要な発表があった。同年3月15日、文化庁管轄で著作権の運用を審議する文化審議会著作権分科会法制度小委員会が、AIと著作権の関係についての見解をまとめた資料「AIと著作権に関する考え方について」を発表した。この文書を要約した概要資料(※5)によれば、AIと著作権法の関係は以下に示すような3つの観点から考察できるとしている。
- AI開発・学習段階:著作物を含んだ学習データを活用してよいのか?
- 生成・利用段階:AI生成物が著作権侵害に該当する要件とは何か?
- AI生成物の著作物性:AI生成物には著作権が生じるのか?
以上の観点について、概要文書は現行の著作権法に照らした原則的解釈を示したうえで、その解釈の適用範囲や例外を解説している。
2024年4月19日には、経済産業省がAI事業を展開するうえで参照すべきガイドラインとして「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」を発表した。このガイドラインを要約した概要資料(※6)によると、同ガイドラインはAIシステムとサービスを開発するAI開発者、開発したものを提供するAI提供者、提供されたものを利用するAI利用者の三者を対象として作成された。
『GPT-4o』のような基盤モデルに代表される高度なAIシステムの開発者と事業者に対して、同ガイドラインはこうした関係者が遵守すべき項目をチェックリスト形式で示している。関係者は、このチェックリストにチェックを入れていけば、同ガイドラインに従うことになるのだ。
2024年5月22日に開催された「第9回AI戦略会議」では、日本における今後のAI制度を整備するうえでの考え方をまとめた「『AI制度に関する考え方』について」が公開された。この文書を要約した概要資料(※7)には「現在問題となっているAI生成の偽・誤情報対策については、総務省管轄のデジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会が2024年夏頃を目途にとりまとめる予定」と明記されている。
同年7月19日に開催された第10回AI戦略会議では、「AI制度研究会」の設置が議題となった(※8)。この研究会は、前述の「AI制度に関する考え方」などをふまえて、「AI制度の在り方」を検討する目的で設立されるものだ。座長は、AI戦略会議でも座長を務める松尾豊氏(東京大学教授)が就任する。
実践を意識したガイドブック
2024年7月5日には、経済産業省がコンテンツ産業における生成AI活用の促進を目的とした「コンテンツ制作のための生成AI利活用ガイドブック」(※9)を公開した。このガイドブックには、ゲーム・アニメ・広告の各産業における生成AI活用事例とともに、各産業で生成AIを活用する際の留意点や対応策をまとめている。
同ガイドラインで引用されている生成AI活用事例には、生成AIがストーリーと画像を生成するマーダーミステリーゲーム『Red Ram』、ラフデザインからキャラクターを生成する『AI x アニメプロジェクト』、マーケティングターゲットの特性を考慮した広告コピーや画像を生成する『極予測AI』などがある。
各コンテンツ産業で生成AIを活用する際の法的リスクをまとめた表も掲載されている。例えばゲーム産業に関しては、ゲーム開発における各種業務で生成AIを活用した場合の法的リスクを表から参照できる。この表を見ると、キャラクターデザインやテクスチャなどの制作に生成AIを活用した場合、著作権や意匠・商標を侵害するリスクがあるのがわかる。
同ガイドラインでは、「ある著名人の音声データを生成して、キャラクターボイスに利用する」ような実際の生成AI活用を意識した事例における留意点と対策もまとめている。この事例については、著名人の許可なくその人物の音声データを生成した場合、パブリシティ権の侵害にあたる可能性があるとしている。対策としては、そもそも実在する著名人の音声の生成を避ける、本人から音声を生成して活用する許可を得る、などがあげられている。
なお、同ガイドラインは前出のAI事業者ガイドラインやAIと著作権に関する考え方にもとづいて作成されている。それゆえ同ガイドラインは、容易には理解できないAI関連法的文書の内容を実践的なコンテキストに落とし込んで活用できるようにした手引書となっているのだ。