G7で創設、いまや53ヵ国に広まる「広島AIプロセス」とは? 世界のAI規制・ガイダンスの現状を解説
各国の対応が始まった「新たなAI問題」
日本以外のG7諸国でもAIに関連した制度の整備が進んでいる。2024年5月21日、欧州委員会は新たに「AI規制法」を承認した(※10)。同法は“リスクの高いAI”には厳しい規制を課すリスクベースのアプローチを採用しており、同法を違反した企業に対して「前会計年度における全世界の年間総売上高の3%または1,500万ユーロのいずれか高い方を上限とする制裁金を科すことができる」と定めている。
AI規制法は第1章から順次施行され、全章が施行されるのは2024年7月の発効後から36ヵ月後となる。同法の順次施行は、OpenAIをはじめとする世界的AI企業の開発、ひいては各国のAI規制にも影響を与えるかもしれない。
一方、イギリスの市場競争を管理する競争局は2024年7月23日、EUとアメリカの競争当局との連名で、「生成AI基盤モデルおよびAI製品の競争に関する共同声明」を発表した(※11)。同声明は、特定の基盤モデルやAI製品による市場の独占を阻止し、公平な市場競争を実現することを目的としている。
さらにカナダの競争局も2024年3月20日、人工知能と競争に関するディスカッション・ペーパーを公開した(※12)。同ペーパーではAI市場が独占状態におちいるリスクについて考察されており、たとえば「ネットワーク効果」による市場独占の懸念が指摘されている。
「ネットワーク効果」がなんであるかを簡単に説明すると、あるサービスのユーザー数が多くなれば、そのサービスの利便性が高まるという現象を指す。これはSNSや動画投稿サイトで考えてみるとわかりやすいだろう。この効果が生じると、ユーザー数の多いサービス以外は選ばれなくなり、そのサービスによる独占状態に陥る可能性がある。
イギリスとEU、そして北米でAI市場の独占に対する対策が進んでいる背景には、基盤モデル開発の参入障壁が高くなっていることも指摘できる。基盤モデルの開発には莫大な計算資源が不可欠であり、その結果として、資金力のある企業しか開発できなくなりつつあるのだ。
PCやスマホのOSが少数であることを鑑みれば、近い将来、“AIサービスのOS”である基盤モデルも開発企業が少数に淘汰され、市場の競争力が低下する可能性が大いにある。こうした懸念に対して、各国の競争当局は先手を打ったと言えるだろう。
以上のようにAIを安全に活用できるようにするためのAI規制とガイダンスは、世界規模および世界各国で着々と整備されつつある。しかしながら、偽・誤情報対策については画期的な対策はまだなく、AI市場独占の懸念についても対応が始まったばかりである。それゆえ、今後も日本および各国政府のAIに対する取り組みを注視する必要があるだろう。
〈参考資料〉
(※1)広島AIプロセス公式サイト
(※2)広島AIプロセス公式サイト「サポーター」一覧
(※3)外務省「G7プーリア首脳コミュニケ」
(※4)先進的AIの安全性に関する国際的科学レポート
(※5)文化庁「『AIと著作権に関する考え方について』【概要】」
(※6)経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」本編(概要)」
(※7)AI戦略会議「『AI制度に関する考え方』について(概要)」
(※8)AI戦略会議「『AI制度研究会』の設置について(案)」
(※9)経済産業省「コンテンツ制作のための生成AI利活用ガイドブック」
(※10)欧州委員会「Artificial intelligence (AI) act: Council gives final green light to the first worldwide rules on AI」
(※11)イギリス競争局「Joint Statement on competition in generative AI foundation models and AI products」
(※12)カナダ競争局「Artificial intelligence and competition | Discussion Paper – March 2024」
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