『ファイアーエムブレム エンゲージ』と『ELDEN RING』の対照性 "金字塔”としてゲーム史に名を残すために必要なもの

FEエンゲージとエルデンリングの対照性

 1月20日、人気シミュレーションRPGシリーズの「ファイアーエムブレム」から最新作『ファイアーエムブレム エンゲージ』が発売となった。

 本稿では、同タイトルと2022年屈指の成功タイトル『ELDEN RING』の対照性から、ゲーム文化のありかたを考えていく。ゲームの歴史を語るうえで、なくてはならない作品群である「ファイアーエムブレム」シリーズ。同シリーズは、次の30年もその立ち位置を守っていけるだろうか。

1990年誕生の「ファイアーエムブレム」シリーズ。2000年代以降は難易度の選択が当たり前の仕様に

 1990年代、「ファイアーエムブレム」シリーズや「スーパーロボット大戦」シリーズ、「オウガバトルサーガ」シリーズの登場により、広く浸透したシミュレーションRPG。当初は「一度倒れた仲間は復活しない」という特性から、プレイのハードルが高く、ライトゲーマーお断りのジャンルだった。しかしながら昨今では、ゲーム開始時に細かな設定を選べるケースが増え、あらゆるプレイヤーに門戸が開かれつつある。今回発売となる『ファイアーエムブレム エンゲージ』も例外ではなく、敵の強さや編成など根本的な難しさを決める「ノーマル」「ハード」にくわえ、一度倒れた仲間に対する処置を決める「カジュアル」「クラシック」も選択でき、これらの掛け合わせから自身のスタイルに最適な難易度をプレイヤーが各自で決められる仕組みとなっている。

 「ファイアーエムブレム」シリーズがこうした仕様を実装し始めたのは、ゲームボーイアドバンスで発売された第6作『ファイアーエムブレム 封印の剣』から。同作はクリア後にはじめて「ハード」を選べる仕組みだったが、その後の作品には初めてのプレイでも触れられる箇所に難易度の選択要素が盛り込まれた。直近ではシリーズのコンセプト変更や支持層の変化などから、“当たり前”の仕様として定着している。

『ファイアーエムブレム エンゲージ』と『ELDEN RING』。両作のあいだに横たわる対照性

ファイアーエムブレム エンゲージ ストーリートレーラー

 こうしたシミュレーションRPGの動向に逆行するのが、「死にゲー」の台頭だ。「死にゲー」とは、攻略過程においてプレイヤーが何度もゲームオーバーを経験することで少しずつ各障害の突破口をつかみ、その積み重ねによってクリアまで到達する類のゲームジャンルを指す言葉。フロム・ソフトウェアが開発したアクションRPG、『Demon's Souls』『DARK SOULS』の登場によって定着した近年トレンドの分野である。古くから同様のゲーム性をもつ作品は多くあったが、紹介した2つのタイトルの成功が流行へのターニングポイントとなったことから、最近では「ソウルライク」という呼び方も一般的となってきている。

 2022年2月には、おなじくフロム・ソフトウェアから『ELDEN RING』がリリースに。同タイトルは発売から約半年で、全世界1,750万本を超える販売本数を記録(2022年9月末時点)。年末には「その年にリリースされ、クリエイティブ及び技術分野で最高のエクスペリエンスを提供する」と判断されたビデオゲームに贈られる賞『The Game Award for Game of the Year(GOTY)』を受賞し、商業的にも文化的にも2022年を代表する1作となった。

 2023年1月の現時点において、シミュレーションRPGジャンルの重要作品のひとつであるといえる『ファイアーエムブレム エンゲージ』と、死にゲージャンルの重要作品のひとつであるといえる『ELDEN RING』。この2作のあいだには、難易度をめぐる対照性がある。前者が年齢・性別やゲームカルチャーに対する造詣の深さによってターゲットを区別せず、間口を広げるため難易度を緩和する方向に進化してきたのに対し、後者はシリーズの初作とされる『Demon's Souls』からリリースを経るにつれ、人間の限界値を探るかたちで難易度を高めてきている。もちろんそこには、プレイヤーに届けたい体験の違いがあるのだろう。しかし、双方がともに近年の注目作・成功作とされるなかにあって、この対照性は非常に興味深いものだといえる。

遊びやすさの追求は、ゲーム文化を娯楽へと昇華する

ELDEN RING 発売ロンチトレーラー【2022.02】

 先に述べたとおり、「ファイアーエムブレム」シリーズにおいては難易度の選択が当たり前の仕様となりつつある。私が過去に書いた記事に集まった読者の声のなかには、こうした仕様を肯定的にとらえる意見も目立った。

 もし「ファイアーエムブレム」シリーズの難易度が「ソウル」シリーズのようにプレイヤーに歩み寄らない形で設定され、そのもとに多くの作品がリリースされていたとしたら。おそらく多くのフリークは、「同シリーズに現在のような人気はなく、“歴史上の名作シリーズ”にとどまっていた」と考えるに違いない。「新作の開発が途絶えていた可能性もある」とする人もいるだろう。しかしながら、私はやや懐古的なプレイヤーのひとりとして、「難易度の設定はゲームデザインの一部である」と考えている。難易度を自由に選択できることはユーザビリティのひとつととらえられる反面、そこに対する制作側の意思(コンセプト)の表現を放棄している面もあると思うのだ。

 ゲームがポップカルチャーの一部となった昨今では、売上こそが絶対的な評価であると語られる機会も増えてきたように感じる。もちろん商業コンテンツである以上、利益がなければ制作に携わる人たちに報酬も払えない。けれども、その一軸のみで語られるものをゲームカルチャーとしてしまってよいのだろうか。極端な商業主義は、ゲームカルチャーの“文化的側面”を削ぎ落としてしまってはいないだろうか。

 たとえばいまから30年後に振り返ったとき、『ファイアーエムブレム エンゲージ』はゲーム史に名を残す金字塔として語り継がれるような作品になり得ないような気がする。それはなぜか。エンタメ性に振りすぎてしまっているからだ。一方の『ELDEN RING』に関しては、そのような作品として語り継がれるだけの性質を持ち合わせていると感じている。もちろんこれは根拠にもとづかない、極めて個人的な推測だ。

 本稿に登場する『ファイアーエムブレム エンゲージ』『ELDEN RING』は、異なるゲーム性・作品性をもつタイトル群の例である。一概に前者のみを価値のないタイトル、後者のみを価値のあるタイトルとするものではない。

 遊びやすさの追求は、ゲーム文化そのものを娯楽へと昇華する。サブカルチャーからポップカルチャーとなりつつあるいまだからこそ、一人ひとりのプレイヤーがこのような視点をもち合わせる必要があるのかもしれない。

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