“最後のRAGE”で再び挑む、運命のGRAND FINALSへ DFM・Spicies「強い選手としての姿を見せたい」

 対戦型オンラインTCG(トレーディングカードゲーム)『Shadowverse(以下、シャドウバース)』の大会『RAGE Shadowverse 2024 Summer』は、6月16日(日)にベルサール秋葉原にて決勝トーナメントにあたるGRAND FINALSが開催される。

 今大会は現行の『シャドウバース』で最後の『RAGE Shadowverse』となる。リアルサウンドテックでは、プロ選手から唯一のファイナリストとなったDetonatioN FocusMe(DFM)所属・Spiciesにインタビュー。GRAND FINALSに懸ける思いや意気込み、突出した経験値から導かれる調整法などについて聞いた。(片村光博)

今回のファイナリストには「運命めいたものを感じています」

――ファイナリストとしてGRAND FINALSに向けて準備する日々となりますが、高揚感はありますか?

Spicies:普段と違う緊張感を感じているわけではないですね。大会などに向けて調整していくというのは、これまでプロシーンで戦ってきたなかで、幾度となく通ってきた道でもあります。ほかのファイナリストと比べても、一番平常心で準備期間に臨めているのかなと。配信卓で多くの人たちに見られながらプレイするという点でも、プロとしての経験がアドバンテージになるポイントだと思っています。

――『RAGE Shadowverse 2018 Summer』でファイナリストになったとき(当時のプレイヤーネームはゲキカラーズ)とは、経験値の面で大きな違いがあるということですね。

Spicies:前回はRAGE自体が初出場で、配信卓で試合をする経験もなく、精神的にいろいろな影響を受けながらのプレイになっていました。その経験があるからこそ、平常心でのプレイができることはものすごく大きいと思います。

 シャドウバースは実力をフルに発揮しても、最適なプレイングをすることが難しいゲームです。100%の実力を出せなければ、なおさら良いプレイングを出すことは難しくなってしまいます。平常心かつ良いコンディションで臨むことは、すごく大切だと思っています。

――そう考えると、初のRAGEでファイナリストになった前回がいかに偉業だったかわかります。

Spicies:あのころについて言えば、自分も相手も緊張している状態でもあったのかなと。予選でもプレーオフトーナメントでも、メンタル的にはイーブンだったのではないでしょうか。

 それと、当時はいまよりも自分の実力に対する自信があったというか、怖い物知らずなところもあったので、そういう意味でもメンタルの強さも関係していたかなと思います。

――当時から時間がたち、現行のシャドウバースでは最後のRAGEになります。ここでGRAND FINALSに進出したことに感慨はありますか?

Spicies:感慨というよりも、運命めいたものを感じています。自分にとって最初のRAGEと最後のRAGEでファイナリストになって、「こんなこともあるんだ」と。

 客観的に見ると、ファイナリストになったタイミングは、全プレイヤーの中での相対的な実力が高い位置にいる状態だとも思います。今回ファイナリストになったのも、ここ1年で3回プレーオフに進出して、そのなかの1回で勝ち進めた、という感覚もあって。ファイナリストになった大会が、たまたま現行のシャドウバース最後のRAGEだったという点には、確かに感慨もありますね。

――今回のファイナリストでは、唯一のプロ選手となりました。プロとしての特別な思いはあるのでしょうか?

Spicies:そこに関しては、あまりないんです。どちらかと言うと、シャドウバースを約8年間やってきたなかでの集大成のような感覚ですね。ひとりのプレイヤーとしての思いのほうが強い。シャドウバースをプレイしてきた期間には、当然プロじゃなかった時期もあります。そうした時期も含めて、自分自身の歴史のようなものへの思いが大きいと感じています。

――その歴史のなかでは、やはり前回のGRAND FINALSが印象深いですか?

Spicies:RAGEでファイナリストになって、そこからトントン拍子でプロになって、活躍することができた……という流れが一番印象深いですね。その後、プロとしてあまり勝率が出ない時期もあったりしたなかで、ここ数回のRAGEでプレーオフ進出が増えたり、自分の強さを取り戻してきた感触もあります。今大会は、前回のファイナリストから続いてきたストーリーの区切りになるようなイメージを持っています。

――Spicies選手がプロシーンに参戦した当時は、まだ競技シーン自体が未成熟で、プロもいろいろな“見せ方”にチャレンジしている段階でした。現在ではプロ・アマ含めて完全に成熟しきったような状態ですが、特に当時と比べて変化を感じるのはどのような部分でしょうか?

Spicies:初めてRAGEファイナリストになったときや、プロシーンが誕生したばかりのころのシャドウバースは、「プレイングを突き詰める」ということが現在ほど重視されていなかったと思います。そうした状況もあって、プロ選手になった当時は「シャドウバースの難しさ、奥深さを見せたい」と思って活動していたんですが、いまは強いプロ選手が増えたこと、競技性の高いプロツアーの存在などもあって、「プレイを突き詰める=強さ」という考え方は浸透してきたと感じています。

 だからこそ、いまはプレイング以外の部分で差を付けることを意識したいですね。どれだけプレイングが煮詰まっても、プレイングで差が出ないわけではありません。でも、やっぱり差は縮んでいると思いますし、プレイング以外の部分も大事にしていきたいと思っています。

――先ほどは平常心でのプレイについてもお話されていましたが、それ以外にも必要な“プレイング以外”の要素があれば教えてください。

Spicies:まずはデッキ選択ですね。最近のシャドウバースは、1回「このデッキが強い」と発見されると、どんどんそのデッキの研究が進んでいきます。そしてプレイングが煮詰まってくると、今度はそのデッキに対して強く出られるデッキや対策のプレイングが編み出されていく。結果として、ひとつのデッキがずっと強い状態であり続けることがあまりないんです。

 だから、調整中の早い段階で見つけたひとつのデッキに固執してプレイングを詰めるより、いろいろなデッキを選択肢として持っておいて、最終的に適切な立ち位置のデッキを選択できるようにしておくこと、相手がどのデッキを使ってきても対応できるようにしておくことが大事だと思います。

――いまのシャドウバースは、そうした環境が1週間くらいのスパンで変わっていく印象です。

Spicies:1週間あれば、結構動きますね。ひとりですべてを把握し切るのは難しいですし、対戦相手にも多様なデッキを使ってもらうことが必要になります。周囲に助けてもらいながら、いろいろな角度から準備しないといけなくなっています。

――DFMのチームメイトは有力選手ぞろいですが、ファイナリスト決定後にどんな話をしましたか?

Spicies:「ファイナリストになったから」というアドバイスは特にないんですが……GRAND FINALSまで調整を手伝ってもらうことになるので、こちらから「よろしく」という感じです(笑)。

BO5で特に重要性を増すデッキ選択と、その考え方

――プロ選手としてのRAGE優勝者としては、レバンガ北海道 esportsのRyu選手がいます。刺激を受けた部分や、優勝するために必要なものを感じるところはありますか?

Spicies:Ryu選手とはプロになる前から個人的につながりがありました。プレイヤーとしては、特に対戦相手の対策やルールに合わせたデッキ選択が得意な印象です。GRAND FINALSで採用されるBO5(※)は、競技シーンで標準的なBO3とはちょっと違うところがあります。Ryu選手は実際にプロ唯一の優勝を成し遂げていますし、同じくBO5ルールの『Shadowverse Invitational 2024』でも予選ラウンドを突破していましたから、そうした部分は参考にしたいと思います。

※BO5……両者が3つのデッキを持ち込み、先にすべてのデッキで勝利を収めたプレイヤーが勝ち上がるルール。

――BO5だからこそ大事になる考え方や、Ryu選手の特に優れている部分はどこにあるのでしょうか。

Spicies:『Shadowverse Invitational 2024』では、融合ネクロマンサーという有力なデッキがあったなかで、Ryu選手はアグロネクロマンサーを持ち込んでいました。自分もアグロネクロマンサーが好きだったので、当時はRyu選手と相談したりもしていたんです。アグロネクロマンサーは、そのときの有力なデッキに対して、《新緑の新入生・カステル》を軸にしたエルフ以外には強く出られるデッキでした。そんなデッキにとって、BO3だと2分の1で不利対面のエルフが出てきて対応が難しいんですが、BO5だとその確率がシンプルに3分の1に減りますから、「BO5だからこそ輝く」という判断になるんです。

 まったく同じ理由で、Ryu選手は《剪定の咎人・マガチヨ》を軸にしたエルフも採用していましたね。《新緑の新入生・カステル》軸のエルフには不利でも、ほかのデッキには強いから活躍できる。Tier1とされているデッキにこだわるのではなくて、ルールに合わせたデッキ選択を重視して勝ち残れるのが、Ryu選手だと思っています。

――多数派ではないデッキを使うことによって、相手にとって対応の難しいゲームになるという側面もありますよね。

Spicies:主流ではないデッキを使う最大のメリットは、その部分にあると思います。自分だけ相手のデッキを想定して練習を積んだ状態で試合ができる。経験値の差を生むことができるので、プレイングを詰める以外の部分で優位に立つことができますからね。

――そうした側面も考慮すると、GRAND FINALSまでの準備期間には“探り合い”のような意味合いも出てきそうです。

Spicies:GRAND FINALSの初戦の相手はiDeal|よしだめ選手ですが、得意なデッキ傾向の対策が特に大事になると思います。準決勝、決勝と進んでいくと、特定の相手と当たるわけではなくなるので、相対的に1回戦の相手への対策の比重が重くなるイメージです。優勝の確率を最大化するという点で、1人目の対戦相手への対策は重要だと思っています。

――今回のファイナリストはアマチュア選手も有名プレイヤーが多く、なんとなくの傾向はつかみやすいのかなと、傍目には感じました。

Spicies:なかなか難しいのが、今回のファイナリスト8人が予選に持ち込んだデッキの組み合わせが、すべて違ったんですよね。今後、研究が進むにつれて環境が固まっていって、「この3つのデッキが強い」という流れになれば、そこからデッキ選択と対策を考えていけますし、逆にいろいろなデッキが乱立する環境になったときには、それぞれのプレイヤーが予選で使用したデッキから「こういうプレイヤーなんじゃないか」と予測を立てることもできるかなと思います。

――まさに情報の探り合いですね。一方で、自身の調整はチームメンバーの力も借りながら進められると思うのですが、ゲーム内外それぞれでどんな調整を進めていきたいと考えていますか? まずゲーム内からお聞きできればと思います。

Spicies:ゲーム内と言えるかどうかは微妙なところなんですが、「シャドウバースをどれだけプレイするか」という点は大事にしたいと思います。“朝から晩まで”という形を1ヶ月続けてしまうと、集中力が落ちて練習効率が下がってしまうんじゃないかと思ってまして。だんだんとギアを上げていって、直前に集中的にプレイして、当日はクリアな状態に持っていくような感覚です。

 GRAND FINALSが近づくまでは6時間、近づいてきたら12時間、くらいでしょうか。最初は自然とチームメイトが集まりやすい夕方を練習時間にあてて、GRAND FINALSの1週間前くらいになったら、チームメイトに朝から「お願いします」という感じになると思います(笑)。

 あとは本当に本番直前、デッキ提出後になったら、もう逆にほとんどシャドウバースに触れないようにします。予選大会でも、前日にはそうしていました。そうするとちょうど疲れが抜けて、一番良い状態になるという実感がありますね。

GRAND FINALSでは「Spiciesが強い」というところを見せたい

――体調・メンタルといったゲーム外の面ではいかがでしょうか?

Spicies:当たり前のことではあるんですが、生活リズムを整えておくことです。当日のコンディションを最も良くするという意味では、最低でも2週間前くらいからは、起床時間を当日に合わせて調整していきたいです。

 それと、運動を取り入れていこうとも思っています。でもランニングのように外に出ての運動は面倒くささが勝ってしまって続かなかったり、頻度が落ちてしまったりするので、最近はVRゲームをやっています。ゲーム自体が面白いので、毎日続けることができています。わかりやすい効果としては、体重が少し落ちました(笑)。

――特にシャドウバースはずっと同じ姿勢になってしまいがちです。

Spicies:気付いたらそうなってしまうんですよね。ランニングやバスケットボールもしていたんですが、やっぱりVRゲームだと毎日できるのが大きいです。運動の質としてはちょっと落ちるかもしれませんが、頑張るというよりも面白さで継続できることが大事だなと。

――体力的なところだけでなく、試合間の切り替えにおいて気を付けていること、気を付けたいことはありますか?

Spicies:今回の予選で実践していたのは、試合中以外に一切、シャドウバースの情報を入れないということです。配信卓の経過や結果、自分のプレイングの振り返りも含めて、軽くほかの人と話すくらいにしていました。頭を使う量を抑えて、試合中だけシャドウバースのことを考えるようにしています。

――さまざまな準備を重ねて臨むGRAND FINALSに向けて、どんな姿、どんなプレイングを見せたいと思っていますか?

Spicies:勝てるかどうかには、どうしても運が絡んでしまう部分もありますが、ここ最近はプロシーンであまり結果を残せていなかったということもあるので、「Spiciesが強い」というところを見せたいです。うまさというよりも、勝って結果を残したいという気持ちです。

 プレイングの部分では、相手の動きに対応するのではなく、強い動きを押し付けるプレイスタイルなので、相手がどうやっても対応できないような形を見せていきたいです。

――それでは最後に、応援してくれるファンへのメッセージをお願いします。

Spicies:強い選手としてのSpiciesを見せられるよう頑張りますので、応援よろしくお願いします!

■「RAGE Shadowverse 2024 Summer」GRAND FINALS概要

【開催日】2024年6月16日(日) 08:30開場(B1F 09:30開場) 10:00開演
【開催場所】ベルサール秋葉原(東京都千代田区外神田3丁目12-8)

大会URL:https://rage-esports.jp/shadowverse/category/2024summer

【配信URL】
YouTube:https://www.youtube.com/live/Ia-EkTTWGnM
ABEMA:https://bit.ly/3yyLLw0

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