『Shadowverse』プロ・アマ最強決定戦で感じた競技シーンの成熟 プレイヤー層に浸透した“ランダム要素”との接し方 

『Shadowverse』プロ・アマ最強決定戦で感じた競技シーンの成熟

 対戦型オンラインTCG『Shadowverse(シャドウバース)』の招待制大会『Shadowverse Invitational 2024』が、3月2日と3日に都内にて開催された。プロ・アマ問わず実力者たちが頂点を懸けて激突したトーナメントは、りざ選手の優勝で幕を閉じた。

 今夏に新作『Shadowverse: Worlds Beyond(シャドウバース ワールズビヨンド)』のリリースを控え、競技種目も移行することが発表されているため、同形式の今大会が『シャドウバース』で開催されるのは最後になるはず(『Invitational』の開催は今回が最後とアナウンスされた)。ひとつの“集大成”とも言える大会において、りざ選手は決勝でプロシーンを牽引してきたRumoi選手を破って戴冠。「(優勝できるとは)夢にも思っていなかった」と謙虚に語り、新時代の訪れを感じさせた。

シャドウバースにおけるランダム要素の変遷

 筆者がシャドウバースの競技シーンを本格的に意識するようになったのは、「アルティメットコロシアム」期からのこと。AXIZが2019-20シーズンのチャンピオンシップで優勝する瞬間に遭遇し、その熱狂に目を奪われた。以降、16ものカードパックがリリースされ、能力調整も幾度となく実施されたが、この期間はシャドウバースにおける“競技性”が明確に成熟した時期でもあった。

 そう感じる理由はプレイヤー側の環境への適応力、大会配信における実況・解説の尽力、プロシーンにおける数々の名勝負の誕生など、いろいろなものが挙げられるが、このタイミングであらためて注目したいのは、カードゲームとは切っても切れない関係にある“ランダム要素”だ。

 あくまで個人の所感だが、シャドウバースはドローカードの増加も含めてランダム要素を抑える方向に舵を切った後、競技性を担保しながら、むしろランダム要素も活用することが上手さである、というゲーム性になっていったように思う。効果対象がランダムだったり、効果自体が抽選だったりするカードが環境デッキに入ることは一時期に比べてかなり多く感じるのだが、プレイヤーはランダム効果で一発逆転を狙うことではなく、ランダム性をコントロールできる状況で使って優位を作り出すことが求められている(余談だが、ランダム破壊効果を持つ実用的なカードが少ない時期は、いわゆる環境デッキを組むと「潜伏」能力に手も足も出ず、結果として『月の刃・リオード』が猛威を振るうこともあった。そして『《暴走》する戦車・オルオーン』のようにド派手なランダム要素は、競技シーンでの実用が難しい設計にされていた)。

 もっとも、ランダム要素は競技性という面でネガティブに捉えられることもある。そこで大きな役割を果たしてきたのが、前述のプロシーンと実況・解説だ。1枚のドローで勝負が決まったように見えるシーンも、選手たちがハイレベルな読み合いのなかで一手ずつ積み重ね、つかみ取っている。選手が実践し、実況・解説が正確に理解して伝え続けることで、一般プレイヤーの認識も変化していったと感じる。

 以前、Rumoi選手へのインタビューで「カードゲームの運要素」について尋ねたことがあり、そのときは「実戦でいかに再現性を生み出すか」「運に左右されるゲームでも再現性のある場面はあって、そこでしっかりとした選択を取れるようにする」という旨の回答をしてもらった。そうした思考がさまざまな名勝負を通じて、時間をかけて多くのプレイヤーに浸透してきたということなのかもしれない。

新作で新規層が流入しても、失われてほしくないこと

 そんな流れを経て迎えた『Shadowverse Invitational 2024』。観測できた範囲ではコメント欄にも実力者へのリスペクトを感じる雰囲気が生まれており、頂点を争う選手たちを“競技者”として見ることはもはや当たり前のようになった。

 そして、今夏には『シャドウバース ワールズビヨンド』がリリースされ、競技シーンもそちらへと移行する。ゲーム性自体も少なからず変化することが予想されるが、なにより多くの新規層が流入してくるタイミングにもなるだろう。

 新規プレイヤーはまず楽しむことこそ大事だという前提のうえで、シャドウバース競技シーンの歴史によって生まれた、“ひとつの幸運をつかみ取るために、努力を積み重ねる”という認識も、ここで失われてほしくはない。そこにあるシャドウバースの奥深さを伝えることが、約8年間にわたって楽しませてくれたシャドウバースへの、既存プレイヤーなりの恩返しになるのではないか。『Shadowverse Invitational 2024』の熱戦に見入りながら、そんなことを考えていた。

© Cygames, Inc.

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