CD・DVD・Blu-ray……ストリーミング時代における“記録メディア”の現在とは?

 クラウドストレージによるデータ管理が一般的になった昨今だが、光学メディアの汎用性と堅牢性はなお捨てがたいものだ。セキュリティ上の課題からオンラインに置けないデータもあるだろうし、クラウドサービスは他社にデータを預けるもの、サービスが終了したらデータも消えてしまう。一度書き込んだデータを自在に書き換えられないという光学メディアの特性も、データ保全の面では優位に働く。

 Verbatimは1969年からストレージ・メディアの世界で存在感を示し続けるブランドだ。データカセットやフロッピーディスクの製造を経て、90年代には世界で初めて書き換え可能なCDメディア(CD-RW)の製造に成功。現在もCD・DVD・BD(ブルーレイディスク)といった光学メディアの製造を手掛けており、世界中で支持されているグローバル・ブランドだ。

 今回はそんなVerbatimの光学メディアについてお話を伺うべく、Verbatim Japanの代表取締役・関山孝行氏とVerbatim製品の日本総代理店であるアイ・オー・データの執行役員・笹森英彦氏にインタビューを行った。光学メディアを取り巻く状況、日本市場の特徴などについて知る貴重な機会となった。

「枯れた技術の優位性というのはゆるぎにくい」

Verbatim Japanの代表取締役・関山孝行氏

ーーVerbatimは50年以上の歴史を持つブランドですが、ブランドの来歴や近年の主力事業などについてお教え下さい。

関山:Verbatimはこれまでアメリカやヨーロッパをメインに展開しており、物理メディアのブランドとして認知を拡大してきました。過去には三菱ケミカルメディアの傘下にいたこともあり、日本にも縁深いブランドです。現在は台湾のCMC Magnetics Corporationの傘下にあり、日本での販売総代理店であるアイ・オー・データ機器さんと協力しながら、さらにブランドを発展させていきたいと考えています。

 コンシューマー向けの主力製品として、現在我々が力を入れているのはオプティカル(光学)製品です。CD・DVD・BDといったディスクですね。Verbatimの高品質な光ディスク製品をお客様に知っていただき、お手元に届けるような活動を進めています。

ーー昨今はフラッシュメモリの大容量化に加えてクラウドストレージなどが台頭していますが、光ディスクの魅力や優位性というのはどこにあるのでしょうか。

関山:フラッシュメモリに代表される不揮発性メモリは、時間の経過とともに劣化していきます。以前は再生できたものが2、3年後には機能しないというようなパフォーマンスの問題を抱えている。これに対して光ディスクは記録した後は通常の室温の環境で正しく保管されている場合には最低でも10年はデータを読みだせる。保管に電力を使わない、コストがかからないというのは大きな利点だと思います。長い目で見たときに、保管したものが数年後に読み取れないんだったら意味がないですよね。また、日本は自然災害が多い国ですが、以前起きた津波のときも、唯一データの復旧ができたのは光メディアだったという話もあります。こうした枯れた技術の優位性というのはゆるぎにくいもので、時流としても今、その良さを見直ししてもらえる機会が増えているようにも感じます。

ーー日本市場ではどういった製品が人気ですか?

笹森:日本独特の文化として「録画」があります。テレビ番組を録画する際にブルーレイディスクが重宝されており、これは日本市場特有の状況です。ブルーレイディスクの市場は、残念ながらもう主に日本だけに残っています。これにくわえてCD-RとDVD-Rが世界中で使われています。これらのディスクの良いところはデータをローカルに保持できることに加えて、安価なので配布しやすいということ。また官公庁や医療の世界では「書き換えられない」という特徴を活かしてCD-Rを使っているケースがかなり多いんですね。まとめるとコンシューマーの領域ではほとんどがブルーレイ製品、BtoB、BtoGの領域ではCD・DVD製品の需要があります。

ーー「録画」は世界的に見ても独特の文化なのですね。

笹森:一家に一台レコーダーがあって、見逃した番組を録画で楽しんだり、光ディスクで保存したりといった文化は日本独自のものです。とはいえコロナ禍を契機にテレビ局各社も「見逃し配信」を行うことが増え、光ディスクの販売数も下がっています。コロナ禍で需要が大きく変わったということは、光ディスクのビジネスをやっている中でも痛感しています。

関山:笹森さんがおっしゃったように、光ディスクが使われるタイミングは減っています。ただ、大容量のBD製品はテレビ番組を録画して自分の手元に置いておきたいとか、お友達に配りたいとか、そういった用途で多く使われている印象です。

ーー光ディスクといえば、以前SNSで「20年前のCDを久々に開封したら記録面が剥がれていた」というような投稿を見かけました。こうしたことが起きてしまう理由はなんですか?

関山:材料に使われる反射膜の品質が悪い製品だと、そういった剥がれなどが発生します。アルミを使ったりしていると、環境によっては時間が経つにつれて剥がれたり、錆びたような状態になってしまうことがあります。これは時間が経たないと気づけないですから、未然に防ぎたいなと思ったら良い品質のものを使うしか無いんです。

また、CD・DVDはコーティング製品といわれており、製造に青色や緑色の色素を使っています。記録面を目で見るとわかると思うんですが、あれは結構光に弱いんです。光を当てるとどんどん色素が劣化していくので、色が抜けたり、記録していたものが読み込めなくなる。ただ、CD-RW・DVD-RWのような書き換え可能なディスクは「相変化膜」という膜でできており、色素も使っていません。何層かを重ねているので、光に照らされたとしてもさほど劣化は進まないんです。

ーー光ディスクの劣化を防ぐ方法はありますか?

関山:CDとDVDに関しては「光に当てない」ということが一番大事です。使った後は元のケースに入れ、極力光の当たらない場所に保管してください。それだけでも通常の使用環境より寿命が多少伸びるはずです。BDに関してはさほど神経質にならなくても問題ありません。あとは共通して気をつけてほしいのは「指紋」ですね。記録面についた指紋が書き込み時に邪魔になってしまったり、再生を邪魔してしまうので、当然ですけど記録面はきちんとした形で清潔に保つことです。

ーーVerbatimの光ディスクには長期保存性の高さを謳っている「M-DISC」がありますが、ほか製品との違いを教えて下さい。

関山:弊社で提供している長期保存型の「M-DISC」は1000年以上の保管を謳った製品です。CDとDVDのベースにはポリカーボネートという透明基板を使っています。ここに色素を塗るとCDやDVDになるんですが、BDの場合は相変化膜を積層していきます。ポリカーボネートには吸水性もあり、時間経過とともに環境中にある僅かな水を吸ってしまうので、水の吸収を防止する特別な層を入れています。そうすることによって時間が経ったとしても、通常のBDと比べると保存性が高まる。このようなプロセスで開発している製品です。

改ざんできず、一番長く残せるメディアは? 現時点の回答は「光ディスク」

Verbatim Japanの代表取締役・関山孝行氏(左)とアイ・オー・データの執行役員・笹森英彦氏(右)

ーー湿気の多い日本では「M-DISC」が役立つ場面も多そうです。日本のユーザに向けてVerbatim製品をアピールできるポイントはありますか?

関山:先ほども話したとおり、日本は光ディスクの需要が他国に比べて高い国です。また、品質の面でもユーザのみなさまは高品質を求めているので、原料の管理から出荷前の検査までのプロセスが日本のメーカーと海外のメーカーでは大きく変わってきます。ロット間でのばらつきを狭めるために、通常の生産の中でも細かく見ています。たとえば、海外のメーカーだったら10個しか作らないチェックポイントを日本のメーカーの場合は倍以上持っていたりするのです。Verbatim製品も厳密なチェック体制を設けて検品していますし、材料にもコストを掛けています。品質のばらつきを抑えてハイクオリティな製品を目指すには良い材料を使うことが必須で、特にCD・DVDでは反射膜の材料が一番品質に影響を及ぼすものですから、我々はシルバーの反射膜を使っています。シルバーであれば、ある程度きちんとした保管をしていただければ長期的にデータを保持できるだろうと。

笹森:我々アイ・オー・データとしては、企業のデータ保管における光ディスクの利便性というのを重視しています。というのも絶対に手元に残さなければいけないデータがたくさんあるんですよね。そういうものを保管する際に、手軽に長期に保存できる媒体って、光ディスクしかないと思うんです。そういう思いもあってVerbatimさんと一緒にやっているところがあります。国立国会図書館も光ディスクによるデータの保存を採用していますから、「改ざんできず、一番長く残せるメディアは何か」を考えたときに、現時点では光ディスクだろうと。

長期保存型の「M-DISC」(左)とフルハイビジョン録画にも対応した「BD-R」(右)

ーーVerbatimさんの今後の展望を教えて下さい。

関山:日本市場においてはBD製品がチャンスのある部分だと思っており、シェアを広げていきたいです。日本市場に向ける製品は我々もかなり神経質に品質を管理しているので、ぜひ使ってほしいなと。あとは「Verbatim」というブランドをもっと多くの方に知っていただくことです。今以上にこのブランドを周知して、「Verbatimって本当にいいんだよ」ということを伝えていきたいですね。

笹森:私が初めてVerbatimを知ったのは、映画『ミッション:インポッシブル』です。トム・クルーズの演じるイーサンがデータを盗みに行くシーンで、Verbatimのディスクにデータを保存するんです。そのくらい海外ではおなじみのブランドなので、日本においてもVerbatimをそういうブランドにしていきたいと思っています。

■関連情報
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