『BADHOP 1000万1週間生活』#5ーー「本当に悪い奴はラップやってない」川崎の不条理な現実

『BADHOP 1000万1週間生活』#5

YZERR、川崎のやるせない現実を語る「本当に悪い奴は、ラップやってない」

 その後は〈中留公演から変わっていないメンツでサイファー〉で有名な中留公演にて、ABEMAサイドの“仕込み”らしい中学生集団とフリースタイル対決をし、ここまでのキャリアに見合わぬ体の張り方と大火傷の模様を見せてくれた後、知る人ぞ知る川中島中学校に。

 前述のフリースタイル対決にて、すでに同校の生徒と一戦を交えているとYZERRは笑い飛ばしていたが、撮影に際して学校側から提示された、校舎内に立ち入るにあたり、生徒と一切関わらないことという厳格な条件。そのほか、当時の先生は一人たりとも登場しないあたり、先ほど温かく迎え入れてくれた保育園とは打って変わって、BAD HOPに対して、まったくもって歓迎ムードでないことが伺える。

 彼ら自身も深く振り返っていたが、中学時代は嫌な思い出ばかりで、とにかくイライラしていた。中学時代という意味ではなく、学校という場所で面白かったことも一度もなかった。“かわいげがなかった”という一言では到底片付けられないほど、自分たちが“してきた”こと。そして、どうしても大人たちと理解し合えなかった遺恨をいまでも突きつけられる。

 BAD HOPのファンであればよく知るエピソードだが、中学2年生の頃に明け渡された、テレビも、クーラーもある“自分たちだけの教室”も初公開。実は生徒相談室だったようだが、ともかく登校時には裏口から入り、自分たちの教室に立ち入ることなく、生徒相談室に閉じこもっていることを命じられた。とはいえその1年後、YZERRとG-k.i.dは少年院送りになるのだが(YZERRが、マジカルバナナで“セルシオ30後期”を出してくるイキリヤンキーや、嵐「Monster」のサビを永遠に歌い続けるマジもんのモンスターと出会ったのもこの時期である)。

 ここからが、今回のオンエアの真髄たる部分だった。当時は立ち入り禁止だった教室の学習机に腰を下ろし、中学時代を振り返るメンバーたち。たとえ話に出されたのが、川崎北部の施設に送られた友人の話(ちなみに川中島中学校は川崎南部。何度でも言うが、彼らは川崎 South Sideなので)。

 ある日、Barkらが公園で遊んでいると、施設送りにされたはずの友人の姿が。この場所にいるのも理由不明だが、その足には見たこともないほど大きなタコが。「スケボーを使って歩いてきた」というが、この話で伝えたかった内容は、こうだ。人として生きる上で、“大切ななにか”が欠落していると、電車を使うという発想がそもそも生まれてこない。残念なことに、それだけの知能がないのだ。

 「本当に悪い奴は、ラップやってないですね。やれてないですね」。T-PablowとYZERRに、優しい祖父母がいたように、どこか真っ当な世界への逃げ場があり、そこで“普通の感覚”を学ぶこと。それが難しく、“大切ななにか”が欠落したまま年齢を重ねても、“飛ぶ”か、刑務所に送られるか、あるいは……。

 「みんながまともになれるほど、そういう環境は甘くない」「そういう環境に憧れてもいない」。YZERR自身、前回のオンエアで父親がいまだホームレスだと明かしていたが、たまたま同世代に貧困層が集まり、こうした状況に陥り……現在のような価値観が形成されたのだろう。

 最終的に、人間としてまともな部分がないと、人として生きることもできないし、綺麗事ではなく、本当に酷い環境で育っている人間は、立ち直ることすらできない。YZERRが普段の調子と異なり真剣に、落ち着いて、かつ淡々と語るからこそ、そのリアルに我々も重たい気分になってしまうし、なにかを背負った感覚になる。彼らの楽曲によく“ゲットー”という言葉が登場するが、アメリカなどと比べれば、言葉が軽いと揶揄されている理由もよくわかる。ただ、目の前に当時の川崎の現実が突きつけられたら、“アメリカと比べたら……”などの過程を抜きに、単純にキツいとしか言えないはずだ。

 この流れで触れるのも恐縮だが、昨年大晦日オンエアの『#リバトーク TO THE DOME』では、中学校訪問後の暴露話も。メンバーはこの日の夜、T-Pablow行きつけの居酒屋にて宴を楽しんだのだが(具体的には、ビール10杯、緑茶ハイ9ハイ、レモンサワー4杯、日本酒59杯、テキーラショット46杯、ウイスキーロック24杯、シャンパングラス10杯の合計162杯)、川中島中学校の訪問時、“邪気”を吸い取ってしまったというBenjazzy。

 彼がこの日、川崎の“悪い先輩”に喧嘩を売り、昨年大晦日時点で“的にかけられている”こと(T-Pablowはこのせいで、“悪い先輩”と謝罪飲みをしたらしい。優しい)。さらに、この翌朝に鼻血を垂らしてベッドに横たわっていたこと。カメラ外で、Vingoと殴り合いの喧嘩をしていたことなど、さまざまな不祥事が先駆けて報告されていた。はたして次回、鼻血を垂らしたBenjazzyの顔面はオンエアに乗るのか。期待して待っていてほしい。

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