“江戸時代の寿司”に“昔の漁師飯”……歴史的な再現料理動画の役割を考える

 2024年1月23日、漁師YouTuber・小豆島の漁師はまゆうが昔の漁師飯を再現した動画を投稿。この動画がYouTubeの急上昇ランキングに登場するなど、いま注目を集めている。今回は、はまゆうの動画から、YouTuberたちの料理再現コンテンツの役割について考えてみたい。

 今回取り上げるはまゆうは、香川県・小豆島を拠点に活動する現役の漁師YouTuber。漁の様子や漁師飯をつくる動画を制作するほか、地元企業と商品を共同開発するなど多方面で活躍、チャンネル登録者数76万という人気動画クリエイターだ(2024年1月27日時点)。

 急上昇入りを果たした動画ではまゆうは、秋田県男鹿(おが)市に由来のある漁師飯「石焼鍋」を再現。はまゆうによると、男鹿周辺では昔、漁師たちが獲れた魚介を岩の窪みや船で使用する桶を使って味噌ベースの鍋をつくり、岩場で暖まりながら食べる風習があったという。「石焼鍋」という名前は、熱々に熱した金石(かないし)を鍋に入れて調理することに由来しているそうだ。

捕獲した魚を岩の窪みで作る昔の漁師めし再現してみた。

 本動画ではまゆうは昔ながらの石焼鍋をつくるべく、岩場の窪みを使って再現にチャンレンジ。海岸に流れ着いた流木を集め、火を起こすと、岩の窪みをタワシでしっかりと洗い、海水で洗い流すなど、準備を淡々と進めていく。自身が漁ったウマズラハギとキジハタの下処理を手際よくこなしていく様子は、さすが漁師といったところだ。

 しかし、この日は石を拾い集めた時点で潮が満ちてきたため、あえなく断念。翌日は朝6時から、火を起こすところから再スタートし、石を温めること2時間。真水を石だけで十分に温めることはできなかったため、石を温め直し、お湯を使って再チャレンジするなど、なかなか順調には進まなかった。それでも最後は石でネギに焦げ目をつけ、味噌を溶かしてなんとか石焼鍋の再現に成功。「めちゃめちゃうまい」とその味を噛み締めていた。

 今回のチャレンジで、岩の窪みで鍋料理をつくることが非効率であると感じたというはまゆう。「本当に昔の漁師さんこれでやってたのかな?」と疑問をもつも、一方では「昔の漁師さんが岩の窪みで料理してたのとか、その思いを馳せるっていうのがいい経験」「非常に感慨深い」と話しており、漁師としては貴重な体験になったようだ。

秋田県男鹿市・石焼料理(ISHIYAKI)

 ちなみに男鹿市観光課が運営するYouTubeチャンネルに投稿されている「石焼料理」を紹介する動画では、桶に魚の切り身を入れ、その後に炭で熱した石を入れている様子が収められている。もしかすると、はまゆうの再現した石の窪みを使った調理法は、ごく一部の漁師たちに限ったものだったのかもしれないが、苦労も相まって視聴者には好評だったようだ。

 今回のはまゆうの動画以外にも、昔の料理を再現する動画はYouTubeでたびたび注目を集めている。これまでにケンタッキーフライドチキンやコカ・コーラの完全再現で話題となったYouTubeチャンネル・Genの炊事場(チャンネル登録者数115万人)は、江戸時代や明治時代、古代ローマの料理の再現にも挑戦。

江戸時代の寿司 そのまんま作ってみた(前編)

 江戸時代後期の風俗誌『守貞漫稿(もりさだまんこう)』(喜田川守貞著)と江戸前寿司の料理本『家庭 鮓のつけ方』(小泉清三郎著)を参考に、当時の寿司をそのまま再現する動画は134万回再生されるなど、注目の高さがうかがえる(数字はどちらも2024年1月27日時点)。Genの動画はただ料理を再現するだけでなく、当時の状況や料理の背景をはじめとした解説も見もの。それぞれの料理のストーリーを踏まえて調理工程を見ると、より食への関心、興味が湧いてくるようなコンテンツになっている点が面白い。

 一言で料理再現といっても、漁師であるはまゆうは漁師飯や魚介料理に特化し、Genは国内外問わず大昔の料理に挑戦するなど料理の幅はさまざま。どちらにしても、YouTuberたちの料理再現動画は後世に料理の歴史や文化を伝える役目をもった、貴重なコンテンツといえるだろう。

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