「イラストレーター 兼 VTuber」という存在に見る、多様なバーチャルタレントの在り方
大人気同人作家からVTuber~バーチャルタレントへ 伊東ライフの歩み
しぐれういが女性のイラストレーター兼バーチャルタレント(VTuber)の筆頭であるなら、男性から選ぶとするなら? 活動の内容・遍歴・影響力などを考えれば、伊東ライフが唯一無二の存在として挙げられるだろう。
伊東ライフは虚淵玄や中央東口らが中心となって運営されるゲーム会社・ニトロプラスやMOONSTONEなどに在籍し、同人サークル「伊東ライフ」を通してさまざまな同人誌を制作していった人気のイラストレーターだ。『東方Project』『艦隊これくしょん』などをテーマにした同人作品は、さまざまなネットミームやスラングを生み出しつつ、熱狂的なファンダムを形成。いち同人作家としては非常にコアな支持者を抱えることに成功していた。
そんななか、2020年5月12日にVTuber・伊東ライフとして本格的に活動を開始した。前年ににじさんじ・愛園愛美のビジュアルを手掛けたことで、彼女の配信にたびたび登場しており、その際には関西地方生まれらしい軽快なトーク/コント力で場を湧かせ、あるいは和ませてきた。
こういった彼のパーソナリティはデビュー後も変わることなく、現在まで彼が人気を集める最大の理由だといえよう。ちなみに、VTuberとしての伊東ライフのビジュアルは「自身のフェチを詰め込んだもの」と語っている。
2020年前半期といえば、コロナ禍がまさに始まった頃であり、世界最大規模の同人即売会であるコミック・マーケットも中止を発表していた時期だ。先行きの見えない苦境に多くの人が不安を感じていたなか、バーチャルタレント(VTuber)として活動することを選んだというあたり、肝っ玉の据わった人物であることも伺い知れるだろう。
そんな伊東ライフ、ニコニコ動画やサブカルチャーへの見識は深いものがあるが、アニメやゲームに少々疎いところがある。特に有名なのが「ポケットモンスター」シリーズを一切プレイしたことがないということ。
個人VTuberの先輩・兎鞠まりとの企画からスタートした「ポケモン×お絵かき」配信シリーズは、スタートから2年経過した現在まで続く長寿&人気シリーズとなった。
同企画は「ポケモン」をまったく知らない伊東ライフが初めてプレイするわけだが、ポケモンの名前や図鑑に載せられた情報を頼りに“勘”で絵を描き、出来上がったイラストをYouTubeのアンケート機能を使ってリスナーが採点、基準点に達すれば無事にポケモンをゲットして手持ちに加えることができる、というのが大枠のルールである。
ルールを読めばおわかりのように、名前とちょっとした文章だけで絵を描いて当てにいくというのがそもそも無理難題。バッチリ当たるイラストを描けるわけもなく、むしろあまりの外れっぷりに伊東・リスナー含めて大笑いすることが多い企画だ。
「あぁ! もしかしてこれってこういうこと!?」と推理しながらアレコレと描くと、合っている時もあれば間違っている時もありと、完成イラストの的中率はさまざま。「これってあれやな…」と切り出して伊東が例として挙げてくるネタのなかには、知識がなければそうは捉えることができないネタが満載であり、伊東ライフという人物の奥深さも知れる良企画といえよう。
「ポケモン×お絵かき」配信シリーズが人気となった伊東ライフだが、一方で彼の得意とするゲームとして真っ先に思い浮かぶのが「麻雀」だろう。人気の麻雀ゲーム『雀魂』を通じてさまざまなVTuberと交流を深めてきた。また、『雀魂』運営スタッフの遊び心から伊東ライフ本人である証の公認マークを事あるごとに奪われるなど、お笑い偏差値が高いイジられ役として認知も広まっているようだ。
仲の良いバーチャルタレントである郡道美玲(現在は引退)、天開司、因幡はねるの3人とおこなった2023年2月のコラボ配信では、「このコラボはビジネスでやってる」「『神域リーグ』には出ない。ポケモン配信がバズったから」と冗談で場を沸かせた後、「いまゲーム作ってる」と軽い口調で告白、あまりにもシレっとした伊東の態度に他3人がおもわずツッコんだ。
またその数カ月後のソロ配信では、リスナーから「いまは同人誌を描いてないんですか?」というコメントに
「いまはVTuberとしての活動が楽しすぎて、同人誌をつくることはしていない。本音を言うとものすごく絵を描きたいが、両立ができない!」
このように答えている。
しぐれういがイラストレーターとしての活動をいまも重視し、週1回のみの配信で抑えているのとは対照的に、伊東ライフはイラストレーター以外の配信活動や自身の興味領域へ思いっきりシフトしているタイプのタレントとなった。両者のスタンスが明確に違うことが分かるだろう。制作が続いているであろうゲームがどのようなものになるかも含め、今後の伊東ライフの活動から目が離せない。