『崩壊:スターレイル』不可避だったブローニャの悲劇 “大守護者”の「無私」に見る苦難の道

『崩壊:スターレイル』不可避だったブローニャの悲劇

 HoYoverseが配信するマルチプラットフォーム対応ターン制コマンドRPG『崩壊:スターレイル』は、10月11日にVer.1.4にアップデートされ、PlayStation 5版のサービスも開始した。開拓クエスト(メインシナリオ)はこれまでに「序章」「ヤリーロⅣ編」「羅浮編」と展開され、Ver.1.5現在においては、ストーリーの幕間として「フューチャーズマーケット」が実装されている。

 11月26日の時点では実に37人(同一人物の別のペルソナをひとりとカウント)がプレイアブルキャラクターとして登場しており、その多くがプレイヤーを魅了してやまない。本稿は、ヤリーロⅣ編の重要人物ブローニャにフォーカスするものである。彼女はいかにして『崩壊:スターレイル』の物語を推進していったのだろうか。

 パーソナリティに注目する前に、本作の世界観と構造について概観したい。なお、このゲームは「崩壊」シリーズに連なるものだが、一部の例外を除いて諸作品との直接的な繋がりはない。

※本稿は『崩壊:スターレイル』開拓クエスト「ヤリーロⅣ編」のネタバレを含みます。

【崩壊:スターレイル】オープニングムービー「THE SHOW」

作品に漂う『エヴァ』、そして『ハーモニー』からの影響

 本作においては、「星核」なるものが極めて重要な鍵を握っている。現状ではそれに関するすべてが明かされているわけではないが、ストーリー開始直後から各章の大事な局面で主人公たちの前に立ちはだかっている。星神(アイオーン)のひとり、壊滅の運命を司るナヌークが銀河中にこれをばら撒いたとされており、その影響は甚大だ。ナヌークは文明や知的生命体を「星を蝕む癌」だと考えており、星核はそれを正すためのものである。

 主人公らは「星穹列車」に乗り、各地の星核を無力化することを目的に旅を続けている。ブローニャがいる惑星「ヤリーロⅣ」も、大きな被害を受けていた。星核はそれ自体で意思を持ち、文明や生態系になんらかの影響をもたらす。また、「裂界」と呼ばれる時空の歪みを生じさせ、そこからナヌークが率いる軍隊「反物質レギオン」が出現する。ヤリーロⅣは惑星全体が氷に覆われているが、これも星核の影響によるものだ。

 この星最大の都市である「ベロブルグ」の大守護者(いわゆる為政者)カカリア・ランドは、当初の段階では星核を排除したいと考えているように見えた。けれども、彼女はまさしく前述した「影響」を受けていた。

プレスリリースより
プレスリリースより

 星核の声にそそのかされ、カカリアは“より良い未来”を目指してベロブルグの文明をみずから滅ぼそうと考えていた。彼女は星核の秘密を追求しようとする研究者たちを追放し、惑星の外から来てそれを無効化しようと試みる主人公らを排除するつもりでいた。あまつさえ、自身の養子にして後継者のブローニャを洗脳し、文明が滅んだ先の世界で「母」として君臨させるつもりでいたのだ。カカリアの企みを知ったブローニャは、主人公らと共に育ての親と対立する道を選ぶ。

 HoYoverseは以前から日本の「ACG(アニメ、コミック、ゲーム)」からの影響を明言しているが、とりわけ『新世紀エヴァンゲリオン』は重要なリファレンスとしてたびたび挙げられている。“人類は文明から解放され、真なる「安らぎ」を手に入れる”という理想が、権力者によって秘密裡に遂行されるという構造は、まさにエヴァ的だ。さらに『崩壊:スターレイル』からは、伊藤計劃の『ハーモニー』らしさがどことなく匂う。

 星核の洗脳により、カカリアの思想は極端なほど「社会」に根差していた。『ハーモニー』の世界観でも、健康至上主義の医療社会のもと、徹底して「個人」が排除されている。やがて意識そのものが消失してゆき、人々から思考が取り除かれる。それはまさしく、ナヌークが目指す世界に近いように感じられないか。

 そして恐らくカカリアも、ベロブルグの為政者になってから一切利己的な発言をしていない(少なくともストーリー内で判別できる範囲では)。娘であるブローニャを気遣うシーンが見られるものの、社会を背負う大守護者の後継を案じただけに過ぎない。親友のセーバルを突き放した理由も、人類としての理想を追求するためだった。

ゲーム内ムービーより
ゲーム内ムービーより

前任の母とは違う形で「無私」の為政者となるブローニャ

 カカリアはヤリーロⅣ編クライマックスにおけるボスとして君臨するわけだが、サブネームには「虚妄の母」と銘打たれている。やはり星核からの洗脳が明言されており、彼女をそこから解き放つ者こそブローニャである。ベロブルグの文明を守ることはすなわち、自身の母親と対立することなのだから、ブローニャにとっては悲劇以外の何物でもない。

 このバトルに勝利した後、カカリアはわずかに自我を取り戻し、「自らの意思」で自身の体から飛び出そうとする星核を体内に押し返すのである。このシーンはカカリアがブローニャの体に乗り移ろうとする星核を抑え込もうとしているようにも見え、その姿は娘を守る母そのものだった。そして最後に微笑を浮かべ、空の彼方へ消えていく。

 冒頭で本作と「崩壊」シリーズに直接的な関連はないと述べたが、登場人物の関係値は大いに引き継がれている。たとえば『崩壊3rd』ではカカリアとブローニャは養子縁組が結ばれているのだが、やはり決別の道を辿るのである。並行世界であってもその運命は変わらず、この2人の関係は引き裂かれるのだった。

 さらなる悲劇は、この親子の関係は本来なら円満だったことが予想される点である。たとえば、『崩壊:スターレイル』における光円錐「記憶の中の姿」。このイラストを見る限り、カカリアは元来ブローニャに対して少なからず愛情を持っていたように思われる。

ゲーム内のスクリーンショットより
ゲーム内のスクリーンショットより

 セーバルの「昔のカカリアはもっと情熱的だった」という発言からも、大守護者の座についてからの彼女はまったくの別人なのだと推察できる。当事者たちの胸の内を思うと、まったく居たたまれない。

 そしてさらに悲観的なことは、今後のブローニャについても多くの困難が予想される点だ。『ハーモニー』において超高度医療社会へのアナーキズムを表明していた御冷ミァハはむしろ、個人主義の信奉者ではなく「社会」に意識が向いた人物だった。つまり彼女は、「無私」に対してまた別の「無私」で挑んだのである。

 これとほとんど同じことが、すでにブローニャの身に起きつつある。カカリア戦のあと、間もなく最高指導者の任にあたるブローニャは、市民のために奔走していた。より地域住民のメンタルに近いゼーレ(カカリア戦以降、公私共にブローニャの右腕にあたる人物)と市政について言い争う場面も見られ、そこにはカカリアとは違うベクトルの「無私」があった。

 ベロブルグの未来が「前途多難である」ことは作中でも言及されていたが、実際のところ楽観視はできないだろう。

 開拓者である我々が手を貸す程度で事態が好転するなら、いくらでも列車を飛ばしてかけつける。そんな決意をユーザーにさせる、雪国の大守護者。それがブローニャだ。

【崩壊:スターレイル】イッテ星穹——「ブローニャ:次期大守護者の語れぬ秘密」

© COGNOSPHERE

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