『原神』ヌヴィレットの伝説任務がフォンテーヌ世界観に与えた“深み” 人ならざるものの心情を描き切ったストーリー

『原神』ヌヴィレットの伝説任務が世界観に与えた“深み”

 HoYoverseが配信するマルチプラットフォーム対応オープンワールドRPG『原神』は、2023年9月28日にリリース3周年を迎えた。これまでモンド、璃月(リーユエ)、稲妻、スメール、フォンテーヌと5か国が実装され、数多くのキャラクターが主人公である“旅人”と出会ってきた。

 9月27日に実装されたVer.4.1「深海に煌めく星たちへ」では、限定★5キャラクターとして「ヌヴィレット」が登場。当初から強力な性能で注目を浴びていたが、実装から時間がたつにつれ、プレイヤーの視線はそのキャラクター性にも向けられていくようになっている。

※本稿は『原神』の魔神任務および伝説任務「潮汐の章」のネタバレを含みます。

ヌヴィレットの伝説任務における特異性 生々しい過去を経て、現代での変化を感じ取る

 ヌヴィレットは4.0の魔神任務(メインクエスト)で登場し、4.1でも活躍した。もちろん、魔神任務でも存在感を発揮していたが、そのキャラクター性が最もフォーカスされるのは、伝説任務(キャラクタークエスト)「潮汐の章」だ。伝説任務はもともとキャラクターを深掘りする性質のクエストではあるものの、「潮汐の章」は過去に実装されたさまざまな伝説任務と比較しても特異なものだったと言えるだろう。

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 4.1の魔神任務を終えたプレイヤーにとって、ヌヴィレットというキャラクターは「強大な力を行使するフォンテーヌの最高審判官」「表情から感情を読み取るのが難しい」「水の龍王の後継者」などの情報がメインで、威厳のある“上位存在”とも言っても差し支えない印象だった。一方で、異種族であるメリュジーヌに対する優しい対応も随所で表現されていたため、冷たいキャラクターとも思われてはいなかったはずだ。

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 そんなタイミングで実装された「潮汐の章」は、多くのプレイヤーが想定していた以上に、現在のヌヴィレットを構成する要素を深く掘り下げるものとなっていた。400年以上前のフォンテーヌで、当時のヌヴィレットはメリュジーヌの「カロレ」と特巡隊の隊長「ヴォートラン」という2人の信頼できる部下とともに制度改革に臨むが、過激な保守派の企みによって陥れられる。あまりにも生々しく、やるせのない過去を、主人公である旅人は泉を通じて見ることしかできない。

 もどかしさばかりが残る過去パートを終え、現代でメリュジーヌへの脅迫事件の調査に乗り出したとき、プレイヤーの脳裏には嫌な予感もよぎったのではないか。再びメリュジーヌへの反感が高まり、ヌヴィレットと旅人が協力して解決する――。そんなストーリー構成にすることもできたはずだが、フォンテーヌの人々はメリュジーヌへの感謝を胸に、治安維持には本来関係のない立場でも、問題解決に協力を惜しまなかった。ゲーム内では表現されていなくとも、ヌヴィレットが400年以上にわたって種族間の融和に向けて努力し続けたことがうかがえるシーンであり、ヌヴィレット自身がどこか意外そうにしつつも、少しずつ安堵していく様子も見てとれる。

 また、特に過去の記憶を見るなかでは、ヌヴィレットを演じる声優・神谷浩史の演技も卓越したものだった。現代のヌヴィレットも比較的、無機質な話し方をしているが、過去のヌヴィレットはより人間味の薄い印象を与える。長い時間をかけて、ヌヴィレットは自身が思う以上に人間社会に順応してきたことを、声色だけからでも感じ取ることができるようになっていた。

 「人ではない」と自認し、過去の悲しい出来事から「自分は受け入れられない」と強く感じてきたからこそ、周囲に対して一歩引いた接し方になっていたとも解釈できるヌヴィレット。しかし、伝説任務の終盤には、旅人たちに向かって歩み寄りながら、自然な笑みを浮かべていた。400年以上を孤独に歩んできた“水龍”が、旅人たちの“友人”となることを、自らに許した瞬間だったのではないか。国を象徴する人物の心情をここまで徹底的に描き切ったことにより、フォンテーヌの世界観も一気に深みを増した印象がある。

 別の視点から見ると、「潮汐の章」には育て上げられたキャラクターを“お試し”で使える戦闘の機会もなかった。(祈願画面からお試しはできるものの)本来であればキャラクターの使用感を知ってもらい、入手への意欲を高めることも目的の一つではあるはずだ。しかし、「潮汐の章」は徹頭徹尾、ヌヴィレットの心情に焦点を当てたストーリー構成となっており、戦闘はノイズになりかねなかったことも事実。また、ヌヴィレットは卓越した武力を持ちながらも、決して力づくでの問題解決を優先しないであろうことも、伝説任務を経たプレイヤーにとって共通理解となっていたはずだ。

 これらを踏まえて、前例を踏襲してどこかしらに“お試し”の戦闘パートを入れることはせず、沈鬱な雰囲気から始まりながらも、最後には温かな感情とともに終わる伝説任務が作り上げられたのだろう。そこからは、「潮汐の章」のストーリーに対する『原神』製作陣の自信と思い入れ、そして作り込まれたキャラクター性への自負が感じられる。

 今後の魔神任務でのヌヴィレットの活躍に期待するプレイヤーは、4.1実装以前よりも格段に多くなっていることは想像に難くない。フォンテーヌでの物語が佳境を迎えるなか、“水龍”が果たす役割にも注目していきたい。

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