eスポーツ“五輪採用”をめぐるすれ違い ファンとIOCが納得する着地点は存在するのか

eスポーツ“五輪採用”をめぐるすれ違い

 eスポーツをめぐる、国際オリンピック委員会(以下、IOC)や自民党議員の見解・発言が、ゲーム界隈を賑わせている。

 「元年」と呼ばれた頃からいくらか時間が経過し、少しずつ実現の形が見え始めているオリンピックにおけるゲームの競技化。しかしながら、当事者であるプレイヤー層・支持層と、IOCのあいだには、小さくない認識の齟齬がある。

 両者が納得する着地点は存在するのだろうか。その未来を考える。

「キリングゲームは支援できない」IOCのスタンスに集まる異論

 話題の元となっているのは、10月30日に産経新聞に掲載された同紙記者・大坪玲央氏による記事。『政府のeスポーツ支援、シューティングゲームは困難か 理由は「殺し合い」』と題されたコラムのなかで大坪氏は、eスポーツに関連する直近の動向や、認識が広がりつつある同分野の意義、今後予測される展開などについて解説し、元法務大臣で自民党議員、かつ過去には自民党スポーツ立国調査会・プロジェクトチームの座長を務めた経歴を持つ山下貴司氏の発言(その後、同氏はXにて、自身の発言ではなく、IOCの見解を説明したものであると明確に否定)として、「キリングゲーム(人同士の殺し合いが主軸に据えられたゲーム)は支援できないだろう」との考えを紹介した。eスポーツの支援には、地方創生やIT人材の育成、高齢者・障害者への福祉・介護に一定の効果が見込めそうだが、公的機関が主導する大会でどのタイトルを競技としていくのかについては小さくない懸念があり、今後も議論が必要だという。

 同分野では、スポーツやパズル、カードなど、分別のつかない子どもにも安心してプレイさせられるタイトルが数多く競技化されている一方、アクションやシューターのような暴力・殺し合いを連想させるタイトルが主流の一部を形成している。紹介した産経新聞の記事では、日本国内で特に人気が高く、競技人口の多い格闘ゲームに対する支援には、山下氏・政府が前向きである反面、おなじく世界的に人気が高く、競技人口の多いシューターには、そのゲーム性から公には競技化しづらいという課題が示された。その現在地に多くのフリークが反応し、議論が活発化している状況だ。

すれ違う両者の思惑。その落とし所は?

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 eスポーツの勢いや可能性が広く認められつつあるなかで、ゲームの分野特有とも言える問題も浮き彫りとされた今回の件。既存の大規模なスポーツイベントに取り入れようとする動きが加速する一方で、主要なジャンルからシューターが外れるとなれば、それは片手落ちの対応と言わざるを得ない。IOCの立場からすると、ロシアやウクライナ、ガザといった国・地域で起こっている武力衝突が国際問題に発展している現状もあるため、戦争を想起させるような描写のあるタイトルを公式競技に取り入れづらい面もあるのだろう。他方、日常的にゲームカルチャーに触れている人間にとっては、自身にとって馴染みのあるタイトルを競技として扱ってほしいものであり、競技人口や人気が同等またはそれ以上でありながら、一部は採用され、一部は除外されるといった対応に、疑念や憤りを覚える感覚も理解できないわけではない。

 双方の言い分の落とし所をいかに見つけるか。この点が、eスポーツの支持層を取り込み、競技として青写真どおりに盛り上がりを見せるための重要なポイントとなるのは間違いない。しかし、現状はそれぞれの思惑が完全にすれ違っているため、その落とし所も見つけにくい状況となっている。

 2023年6月には、米・Epic Gamesが開発・運営を手掛けるTPS『Fortnite』が、第1回オリンピックeスポーツウィーク「オリンピックeスポーツシリーズ2023」において、競技に採用された。実際に行われた内容は、特設されたコースで射撃の照準精度や走破タイムを競うもの。そこに本来の『Fortnite』が持つアクション性や競技性は存在していなかった。同タイトルのゲーム性を知っているフリークにしてみれば、どうしても“これじゃない感”の拭えない、オリンピック競技としての船出だったと言わざるを得ない。

 こうした形での競技化こそが、ある意味で現実的な「双方の落とし所」なのだろう。しかしながら、それを「eスポーツ」と呼ぶかと言われれば、ゲームカルチャーに造詣が深い人ほど、「ノー」と答えるのではないだろうか。eスポーツを取り巻く理想と現実。IOCと支持層という両者のあいだには、あまりにも大きすぎる隔たりが存在している。

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