約2年と10兆円を要したマイクロソフトのアクティビジョン・ブリザード買収 業界への影響と今後の展開は?
米・Microsoft(以下、マイクロソフト)は10月13日、Activision Blizzard(以下、アクティビジョン・ブリザード)の買収が完了したと発表した。
紆余曲折がありながら、ようやく終結した今回の騒動。予定どおりの買収完了によって、ゲーム業界、さらにはマイクロソフトの戦略・方針はどのように変わっていくだろうか。概要から今後の展開を考える。
紆余曲折あったマイクロソフトによるアクティビジョン・ブリザードの買収
アクティビジョン・ブリザードは、業界屈指の事業規模を誇るアメリカのゲーム企業だ。「Call of Duty」や「Diablo」、「Overwatch」、「Warcraft」とその世界観を受け継いだ「World of Warcraft」『Hearthstone』といったシリーズ/作品で広く知られる。
設立は2008年。アメリカでゲームソフトの開発・販売を行っていたアクティビジョンと、フランスのパブリッシャーであるヴィヴェンディ・ゲームズが合併し、現在の社名となった。このタイミングでエレクトロニック・アーツ社を抜き、業界首位に躍り出ている。その後は、テンセントやNetEaseといった中国企業の台頭もあり、トップの座からは降りているが、いまもなお、上位10社のなかには必ず名前が挙がる、業界を語るうえで欠かせない企業である。
今回、マイクロソフトが買収に動いた背景には、アクティビジョン・ブリザード社内で2021年以降に起こった、ハラスメントなどに関する問題の影響があるという。「買収は、アクティビジョン・ブリザードから持ちかけられたものだった」と、過去にマイクロソフトは明かしている。
そのような経緯から2022年1月には合意に至っていた今回の件だが、「大手による、大手の買収」ということもあり、独占禁止の観点から、各国・各地域の規制当局が難色を示していた。特にイギリスでは、同国競争・市場庁(CMA)が阻止する旨の最終報告を発表するなど、大きな向かい風にさらされてきた実態がある。
こうした反応を受け、マイクロソフトは独占禁止に抵触しないよう、対応に追われてきた。2023年2月には、クラウドゲーミングサービスを展開するNVIDIAにアクティビジョン・ブリザードのすべてのIPを10年間提供する契約を、任天堂・Valve(Steamプラットフォームを展開)に同社の人気シリーズ「Call of Duty」(その後、すべてのIPへと拡大)を10年間提供する契約を交わしている。また、同年7月には、おなじく競合であるソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)にも、「Call of Duty」を10年間提供する対応を決め、合意した。さらに同年8月には、業界大手の仏・ユービーアイソフトに今後15年間のアクティビジョン・ブリザードのすべてのIPのクラウド配信権を譲渡している。
事態が大きく動いたのは、10月13日。マイクロソフトの譲歩に対し、態度を軟化させる形でイギリス・CMAが買収を承認。そのまま同社による完了の発表へと至った。買収金額は687億ドル。日本円にして約10兆円にのぼる。この数字は、過去最高を記録した2023年3月期のソニーグループ全体の売上高と同等のものだ。1年9か月という長い期間を経て、世界でも前例のない巨額の買収がゲーム業界で実現した。