オランダメディアレポート第3弾
オランダの半導体メーカーに見る、“業界の人材不足”を解消する方法
人集めが難しいのは洋の東西で変わらないようだ。
日本でも人材確保の難しさが頻繁に議論されるが、それはオランダでも同じらしく、筆者が参加したオランダのメディアツアーで出会った企業や大学のプレゼンターが、その苦労を口にしていた
日本の場合、人材確保や従業員のモチベーション維持/向上の第一歩は賃上げだろうが、オランダではどのような悩みを抱え、解決への取り組みをしているのだろうか。
オランダメディアツアーのレポート第3弾では、オランダの企業や大学の工夫に焦点を当てる。あらかじめ答えを書くが、鍵は「良いイメージ作り」にあるようだ。
半導体メーカー「NXP」はR&D部門に女性従業員を増やしたい
オランダはアイントホーフェンに拠点を置く、半導体メーカーの「NXPセミコンダクターズ」は、2006年にフィリップスの半導体部門が分社化してできた会社だ。
半導体は、スマートフォンやパソコンといった私たちが日々使うアイテムから、医療現場で使われるCTスキャンやMRI、セキュリティシステムや制御機器などのインフラ、自動車関連製品といったあらゆる場所で活用されている。つまり、半導体は誰にとっても身近な存在なのだ。
そんな半導体を作っている「NXP」のエグゼクティブディレクターであるジャン・シュルール氏は「R&D分野における多様性を豊かにし女性の雇用を積極的に増やしたい」と語った。半導体ユーザーの半分が女性であるにもかかわらず、開発側に女性が少ないのをどうにかしたいらしい。
そのためのアプローチを伺ったところ「NXPの女性従業員が大学を訪れて具体的な仕事の内容を説明している」とシュルール氏は答えた。非常にシンプルで拍子抜けしてしまったが「半導体メーカーのR&Dがどんなことをしているのか具体的に知らない人も多く、また男性に説明されても自分ごととしてイメージできない人も多いために必要なのだ」と言う(言われてみれば、テクノロジーのことを書いている筆者も半導体メーカーのR&Dが何をしているのか想像できない)。
また、社内における女性のリーダーの数を積極的に増やしているという。ロールモデルを増やすことで、若い女性スタッフがキャリアパスをイメージしやすくなると期待しているのだ。
だが、それだけではR&D分野が目指す女性従業員25%には到達できそうにない。
そこで、小学生や中学生を対象としたSTEM教育(もしくはSTEAM教育)を始めたそうだ。インドやアメリカ、ドイツなどが積極的に取り入れているSTEM教育は、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics) に力を入れた教育システムである。幼い頃から遊びを通して理系に触れることでハードルを下げ、将来的にIT分野に強い人間を育成するのだ。
長期的なプランとなるが「非常に重要」だとシュルール氏は言った。
大学はエコへの取り組みで学生にアピール
少子化により学生の数が減っているオランダ。大学は学生獲得の工夫を強いられているようだ。
ハーグ応用科学大学には、ATES (Aquifer Thermal Energy Storage)という帯水層蓄熱システムをつかった冷暖房システムを見学するために立ち寄ったが、同大学でATESを管理するジェラルド・ウィレムセ氏は「このシステムは学生へのアピールにもなる」と言った。
ATESは、夏場は、帯水層の冷たい地下水を組み上げて建物内で冷房として使い、温まった水を帯水層に戻し、冬には帯水層から温かい水を組み上げて建物内で暖房として利用して、冷たくなった水を再び帯水層に戻して再利用するシステムだ
すでにオランダ国内で3000以上のシステムが稼働しており、珍しいものではない。だが、国民全体がグリーンやエコ、サステナビリティに強い関心を持っているため「大学側のエコへの取り組みとその分野を体現的に学べることはアピールポイントのひとつになる」らしい。
「もちろんATESだけで学生を獲得できるわけではありません。でもグリーンなイメージは学生にとって重要なのです」
「NXP」のシュルール氏にも、ハーグ応用科学大学のウィレムセ氏にも、イメージの大切さを口にしていた。
それに対して筆者が「イメージだけでは人が集まらないのでは」と疑問を投げると、両者とも「第一歩として良いイメージを持ってもらうのは非常に重要」といった旨の発言をした。
たしかに、日本でも企業イメージは重要視されているが、それはステークホルダーを意識してのことだと思っていた。そのため、人材確保や学生獲得のためにオランダの企業と大学がイメージを重視しているのは少し意外だったかもしれない。
次回は連載最終回。オランダ北部のフローニンゲン州にある、ガス田の採掘が原因で発生した群発地震によりヒビが入った家屋や、進む水素インフラの整備などについて書く予定だ。
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