祝・『ポップンミュージック』25周年! “渋谷系”との接続など、音楽的功績や筐体の歴史を改めて振り返る

キャラクター要素の魅力

ポップンのキャラクター&デザイン関連書籍の例(筆者私物)

 数百を数えるキャラクターたちもまた、「ポップンミュージック」の文化を語る上で外すことのできない魅力である。

 数十人~数百人にも及ぶ多数のキャラクターが存在し、彼女ら/彼らと結び付く楽曲を音楽ゲームとして提示する方法論は、『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル』(2013)や『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ』(2015)以降すっかり一般的なものとなった。

 「ポップンミュージック」はその潮流のはるか以前から、楽曲とそれを象徴するようなキャラクターを、人物的背景とともに提示する試みを続けてきた。楽曲をキャラクター自身が演奏・歌唱するという直接的な設定とは限らず、いわば音楽ジャンルや楽曲の擬人化にも近い、ゲームの表現を借りるなら楽曲を“担当”するという、それは絶妙な距離感であった。

 初代作で“色塗りと背景の一部”を担当、その後アーケード作を中心に長くデザイン面に貢献したshioは、2003年のインタビューで音楽とキャラクターの関係についての質問に、「曲を聴いたら自然と担当キャラを思い出してもらえる」ことを目指していると回答。「曲とキャラがワンセットでひとつのポップな世界が完成するようにしてます」と方針を語っている。

 前出の向井慎太郎、松岡功、原田広美、shioに加え、P-CAT、いぬ千代、tera、ちょび。、ミコシバ、ちっひ、あまもん。、eimy、きの子、mayo、とっきー、林和波、新地奈津子、アオニサイら、世界を形作るキャラクターやデザインの数々を生み出してきたデザイナーたちの功績についても、いくら強調してもしすぎることはないだろう。

 キャラクター要素の重要性についてはメーカー側も自覚的であり、ゲーム内ではほとんど明かされることのないキャラクター設定を、歴代の公式ウェブサイト上の楽曲ページや特設ページで公開してきた(ただしその多くは2018年頃から閲覧できなくなっている)。また2001年の『ポップンミュージック キャラクタービジュアルガイド』をはじめ、キャラクターやデザイン関連資料を主体とした書籍も多数発売された。さらに例えば2012年に公開された音楽ゲーム機種連動イベントのテーマソングでも、「カワイイキャラたち(が)待ってる」ことを、サウンドディレクター自らが「ポップンミュージック」の特色として紹介している。

「APPEND TRAVELのうた」

 1999年の日経ビジネス誌では、『beatmania』以前の1996年に同社がゲームの関連商品の企画・著作権管理を担うCP(クリエイティブプロダクツ)事業本部を設立したことを指摘。キャラクターや音楽、ロゴといった要素を組み入れた関連商品を自社開発し販売、キャラクタービジネスが社内的にも大きな収入源として認識される土壌が築かれていた影響について論じている。

 くわえて、現代の商業エンターテイメント・コンテンツにおいてファンコミュニティや二次創作文化の重要性は今更語るまでもないが、この点でも「ポップンミュージック」は音楽ゲーム業界の先駆者であった。SNSすら存在しない時代から、ウェブ上には個人運営の二次創作系~情報系などファンサイトが無数に現れ、コミュニティを大いに賑やかしめていた。その隆盛を伺える一例として、同人誌即売会・コミックマーケットのジャンルコード表の補足欄では、音楽ゲーム分野の単一ゲームタイトルとして初めて記載された『スペースチャンネル5』(C59, 2000年冬)に次ぐ早期に「ポップンミュージック」(C61, 2001年冬)の名が出現している。

 そしてキャラクターもまた楽曲と同様に、さまざまな文化に由来するモチーフの引用が見られる。一作目からしてPUFFY、JUDY AND MARY、エルヴィス・プレスリー、クラフトワークなどのオマージュが容易に発見され、その後も一部を概観するだけで浅倉大介、西川貴教、ジャミロクワイ、B'z、ASIAN KUNG-FU GENERATIONと例示に事欠くことはない。実在の人物のみに留まらず、例えばウィリアム・ブレイク、宮沢賢治、萩尾望都といった文芸・漫画作品や映画からの引用とおぼしきモチーフも、無粋な明言をほとんど伴わず、その芳香を散らされて遍在する。

「ポップンミュージック peace」のゲーム内イベントより

 また魅力的なキャラクターがあれば、そこには物語が存在し得る。ストーリー要素のある音楽ゲーム自体は、『パラッパラッパー』(1996)や『beatmania』をはじめ従来から多数存在していた。そして音楽を主役としつつ、これと不可分なストーリーを作品全体で展開し語り上げる手法は、レイアーク社が『DEEMO』(2013)以降で導入し広めたものと認識されている。今日では『Arcaea』(2017)『Cytus II』(2018)『SEVEN's CODE』(2019)『SAYONARA WILD HEARTS』(2019)『A Musical Story』(2022)など、このような高度なストーリーテリングを取り入れた音楽ゲームは珍しいものではない。

 「ポップンミュージック」はナンバリングごとに長編のストーリーを提示する類の作品ではないが、その世界や設定の端々に、ラブアンドピースから戦場まで、ミクロから宇宙まで、原始から未来まで、現実からファンタジーまでの全てを飲み込むかのような世界設定を匂わせ、その総体としての「ポップンワールド」という概念を徐々に構築していった。

 また『ポップンミュージックポータブル2』『ポップンミュージック ラピストリア』『ポップンミュージック peace』といった、ゲーム内イベントを利用して作品を貫くストーリーや文脈を物語る作品もときおり出現している。開発者は2018年のインタビュー中で、キャラクターデザインを一新し若年層にもポップンワールドの魅力を訴求することを目指した『ポップンミュージック ラピストリア』の試行錯誤を、シリーズの大きなターニングポイントとして挙げている。

「Cafe&Diner pop'n music」東京会場の現地写真

 2020年にはヴィレッジ・ヴァンガードとの共同企画によりコラボカフェ「Cafe&Diner pop'n music」が実現、2023年も直営のオンラインプライズゲーム「コナプラ」向けに多数のグッズが制作されているなど、キャラクターを活用した展開は今なお健在だ。

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