Meta「VRアート&ミュージック」体験会レポート 澁谷忠臣と☆Taku TakahashiがVRにおける“アートや音楽の可能性”を提示

Meta「VRアート&ミュージック」体験会レポ

 2023年8月10日、Metaはプレス・クリエイター向けに「VRアート&ミュージック」体験会をSHIBUYA109 渋谷店8階「Creator Collaboration Space」にて開催した。

 本イベントはMetaが開催しているシリーズイベント「Find Your Passion」の第二弾として開催された。同イベントは、VRを通じてゲーム、フィットネスや映画鑑賞、アートや音楽など、新しい趣味に出会い、そしてそれを追求していくことの楽しさを体験できる内容だ。各界のジャンルを代表する特別なゲストと共に、Meta Questを通じて、新たな楽しみとの出会う場が提供される。

 第2回目のテーマは「VRアート&ミュージック」。Meta Questには、グラフィティアートや油絵、陶芸など幅広いアートが体験できるアプリや、さまざまな音楽アプリが揃っている。VRを使えば、気軽にキャンバスや絵の具を通じたアート制作、あるいは楽器や機材を揃えなくても楽器の演奏、音楽制作に取り組める。

VR空間上のキャンパスにグラフィティを描く 塗料の垂れまで再現したリアル感

 今回のイベントでは、世界中のブランドや企業にアートワークを提供しているアーティストの澁谷忠臣氏、 DJ/プロデューサーの☆Taku Takahashi(m-flo)氏が出演。澁谷氏はグラフィティアートが楽しめるタイトル『Kingspray Graffiti』を使用したVR空間でのライブペインティングを披露。また☆Taku氏は、DJプレイが楽しめる『Tribe XR』を使用し、自身初となるVRでのDJパフォーマンスを披露した。

 今回、澁谷氏がライブペインティングで使用した『Kingspray Graffiti』は、現実空間では器物損壊などの犯罪行為となることもある「グラフィティ・カルチャー」を、法に触れる心配のないVR空間で楽しめるアプリ。同アプリは「ソロ」と「オンライン」のふたつのモードが用意されており、オンラインでは最大4人でグラフィティ・アートを楽しむことも可能だ。

澁谷忠臣氏

 『Kingspray Graffiti』では、現実空間でグラフィティを描く際に使用するスプレー缶が用意されており、プレイヤーはカラーパレットを使ってスプレー缶の色味を変更することもできる。またスプレーのノズルを変更することで、スプレーの吹きつけで描かれる線の太さが変更できるほか、色や光沢などを調整した「カスタムカラー」の作成もおこなえる。このように、リアルなグラフィティ体験ができるようなツールとしてのディティールにもこだわった仕様になっているため、経験者だけでなく、グラフィティ・アートを興味のある初心者にとっても、十分にその雰囲気を味わえるものになっている。

澁谷忠臣氏

 事前にVRでのグラフィティ制作を経験していたという澁谷氏は、“VRならではのメリット”について、「好きな場所で自由にグラフィティが描けるなど、VRは場所を選ばない。それと、オンラインでいろいろなクリエイターと繋がって描けることもおもしろい」とコメント。また「ツールとしても本当に楽しいので、スプレーでグラフィティを描いたことがない人には是非試してほしい」と語った。

澁谷忠臣氏

 澁谷氏による「未来」をテーマにしたライブペインティングでは、澁谷氏がコントローラーで仮想スプレー缶を操作しながらVR空間上の川辺のコンクリート壁にアウトラインを描く様子や、自分の作品ではあまり使うことがないというネオンカラーのスプレー缶を使用した近未来感のある色付けをおこなっていく様子を見ることができた。またライブペインティングでは、「ドリップ」と呼ばれ現実のグラフィティでも使われる、スプレー缶の塗料を垂らす技法も取り入れられた。それによって、VR空間で製作されたものとは思えない、現実さながらのグラフィティが完成した。

現実と同じようにドリップなどの技法も駆使して完成したグラフィティには澁谷氏のタグも入った

☆Taku TakahashiはVR空間上のCDJを使ったパフォーマンスを披露

 続いて披露されたのは、☆Taku氏によるDJパフォーマンス。今回使用された『Tribe XR』は、VR空間上でDJインストラクターによるレッスンを受けたり、世界中のDJとマルチプレイヤーセッションをおこなえたりする、DJの練習からDJコミニュティの構築まで幅広い用途に使用できるアプリだ。また、同アプリは世界中のクラブや音楽フェスでプロのDJが使用する『CDJ-3000』デッキや『DJM-900NXS2』ミキサーを含むパイオニアのDJ機材が使用できるという大きな特徴がある。

☆Taku Takahashi氏

 ☆Taku氏は、澁谷氏が使用した『Meta Quest 2』ではなく、ヘッドセットを装着しながらでもリアルの会場の様子がわかる高品質な「パススルー機能」を搭載した上位モデル『Meta Quest Pro』を使用してDJパフォーマンスを披露。アップリフティングなダンスミュージックで会場を大いに盛り上げた。

仮想のCDJに楽曲を読み込む☆Taku氏

 DJパフォーマンス後、☆Taku氏はVR空間上で再現された業界標準機材の使用感に関して、「すごくリアルで、本当に手元に機材があるかのようだった。遅延もほとんどなく、いつもの感覚でプレイできた」とコメント。一方で、「油断するとついコントローラーではなく手で触ろうとしてしまう。最初はVR上の機材のノブやフェーダーの距離感が掴めなかったが、触っていくうちにすぐに感覚が掴めた」と、リアルのDJ経験があるからこそのVR空間とリアルの操作ギャップについても言及した。

 ちなみに『Tribe XR』は、DJの標準的なツールである楽曲管理アプリ『rekordbox』経由で手持ちの楽曲ライブラリのインポートにも対応している。これにより、普段DJで使用しているBPM情報などを解析した楽曲データをVR空間に持ち込んでプレイできるのだが、今回、☆Taku氏はDropboxから楽曲をインポートしたとのこと。そのためBPM情報がなく、VR空間では普段のプレイで使用するオートシンクを使ったミックスができなかったという。しかし、DJ機材をリアルに再現した『Tribe XR』では、自身でCDJのテンポフェーダーやプラッターを触りながらの微調整も行えるため、「オートシンクに頼らずとも十分にDJプレイができた」と初のVR空間でのDJの感想を述べた。

☆Taku Takahashi氏

 イベントの最後には澁谷氏と☆Taku氏が、揃って“VRが秘める可能性”についても言及。澁谷氏は「工夫次第でもっといろんなことができそう。VRを使って自分らしい表現を生み出し、楽しく絵を描いてほしい」と語り、☆Taku氏は「新しい演奏方法が生まれてくるはずだし、人が触れば触るほど進化していくと思う」と語った。

 なお、イベントでは合わせて来場者向けに『Painting VR』を使ったVRアートデモもおこなわれた。『Painting VR』は、VR空間でさまざまな画材を選び、自由に絵を描けるペイントツール。プレイヤーはVR空間上にあるキャンバスに、仮想の筆やブラシ、絵の具缶、ハケなどを使って絵画を作成できる。

 

 VR空間に再現されたキャンバスは、単純なホワイトスクリーンではなく、実際のキャンバスと同じように生地の布目まで再現されたリアルなものになっている。それだけでなく、絵を描くための筆はさまざまな太さが用意されているほか、パレットに入れた絵の具は現実空間同様、異なる色同士を混ぜて別の色に変色させることもできる。絵の具缶をキャンバスに向けて大胆にぶちまけたり、現実のように絵の具が垂れてくる様子も確認できたりと、リアルなペイント体験が可能なものとなっている。。もちろん、VR空間で作成した絵をゲーム終了後にデータとして書き出し、プリントアウトすることも可能だ。

『Painting VR』で作成した筆者の作品。リアルな生地の布目付きキャンバスに筆やペンキ缶、ブラシなどを使って自由に絵を描ける。現実のように絵の具の色も混ざり合う

 今回のイベントでデモンストレーションされた『Kingspray Graffiti』、『Tribe XR』、『Painting VR』の3つのアプリに共通することとして、現実世界でクリアしなければならない「場所の確保」や「機材の準備」といった、アート制作やDJ活動を始めるためのハードルが低いというメリットがある。

 コロナ禍では“VRならでは”の、現実ではあり得ない表現や体験に注目が集まった。もちろん、その方向性での進化は今後も継続していくと考えられるが、今後はそれにくわえて、現実世界における表現活動のための練習にも大いに活用できることをあらためて実感した。とくに、「最低限のコスト」で始められて、繰り返し使うことのできるVRであれば、先述したような課題を解決できるため、教育面での活用にも大いに期待できる。こうした利活用がこれまで以上に広く伝わっていくことで、今後VRがより人々の生活に密接かつ役立つものになっていくのではないだろうか? 今後も「Find Your Passion」シリーズを通じて、VRの楽しみとともにその可能性がさらに広がっていくことを期待したい。

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