『FF16』サントラに反映された重厚なゲーム体験 “ダークファンタジー”に寄り添った楽曲群の制作秘話とは

『FF16』楽曲制作チームインタビュー

『FF1』の引用が多いのは“ゲーマーとしての直感”

『FF16』の楽曲を手掛けた(左から)石川大樹氏、祖堅正慶氏、今村貴文氏
『FF16』の楽曲を手掛けた(左から)石川大樹氏、祖堅正慶氏、今村貴文氏

――メインテーマとなるような曲はどれになるのですか?

祖堅:どれかに限定するのは、結構難しいですね。ゲームプレイヤーそれぞれが受け取ったゲーム体験によって、受け取り方が違うという作りになっているので。もちろん主人公はクライヴなので、ゲームをやっていない人に語るならクライヴのテーマ曲がメインテーマでいいと思うんです。でもゲームプレイが終わったプレイヤーの中には、ジルのテーマ曲がメインテーマだと思う人もいるだろうし、それは物語を終えたときに、ゲームをプレイしたみなさんそれぞれがどう思うかによると思います。

FINAL FANTASY XVI Original Soundtrack – Trailer

――プレイヤーが思い入れを抱いたキャラクターのテーマ曲が、その人にとってのメインテーマになると。

祖堅:そうなったらいいなと。

――Disc3の「Find the Flame」は、先行配信もされているので、メインテーマ的な感じかなと思ったのですが。

祖堅:たしかに、なにも考えずに言えば、これがメインテーマっぽい感じですけど、僕としてはこの曲は、音楽的に“すごく幼稚な曲”だと思っているので、これをメインテーマと言っていいのやら? という気持ちです。

――どういうところが幼稚だと?

祖堅:だって、アクセル踏んで行ってこい、帰ってこなくていいぞ!みたいな曲じゃないですか(笑)。音楽って、山や谷の流れがあって初めて音楽だと思っているので、こんな行ったきりの山ばかりの曲は、音楽としてどうなのかな…って。もちろん、そういう曲がゲームとして必要だったから作ったんですけど。だからこの曲を配信するかどうかは悩みました。もう少し音楽的な曲のほうにするべきじゃないかと。

――なるほど(笑)。また、要所で『FF1』の「オープニングテーマ」「メインテーマ」「プレリュード」のメロディが引用されています。

祖堅:『FF』のナンバリングタイトルなので、必要なところに必要な要素を入れています。ただ意図的にと言うよりかは、もっと直感的でした。僕ら3人とも『FF』を遊んで育っているので、「ここに『プレリュード』のアルペジオを入れたくなるよね」と思うのは、自然な流れです。だから理屈ではなく、直感的に使っている部分が大きいです。

石川:ゲーマーとしての勘と言うか。

今村:肌感でしかないですね。

インタラクティブミュージックの最新形は“ミニ祖堅”?

――OSTはDisc1〜7までありますが、これはゲーム順通りに曲順も並んでいるのですか?

石川:Disc1~7は、『FF16』のメインの物語の流れの沿って収録されています。このOSTを収録順通りに聴いていけば、ゲームの追体験がバッチリできる仕様です。また、Disc毎で物語が区切られるようにも収録しているので、そこでもゲームとのリンクをより感じてもらえると思います。

――あと、今作にはインタラクティブミュージックの新たなシステムが搭載されているとのことですが。

祖堅:はい。『FF16』はアクションRPGなので、プレイスピードが人によって劇的に変わります。アクションゲームが上手い人はすぐ終わるし、あまり得意ではない方は時間がかかる。しかも今回の『FF16』のボスバトルは1つのバトルの中に流れがあって、山があったり谷があったりしているのですが、ゲームが上手い人とあまり得意ではない人では、その山や谷が来るタイミングも大きく違ってくるので、それを1曲で表現しようとしても、音楽とゲームプレイの山や谷が一致しないんです。それではゲーム体験に音楽が寄り添えていないということになるので、特殊なシステムを搭載しました。それによってゲームが上手くてササッと終わってしまう方でも、得意ではなくて時間がかかってしまう方でも、その人のゲームプレイの山や谷に沿って、自動的に音楽が進行するようになっています。

 これはいわゆるインタラクティブミュージックと昨今呼ばれているものとは、少し違う仕組みになっていて。昨今のインタラクティブのメジャーなやり方は……データ的な面で見るとミルフィーユのように多層構造になったストリームデータがあって、ゲーム状況のフラグに合わせてストリームチャンネルを変える事で楽器数を増やしたり減らしたり、アレンジを変えたり元に戻したりするというものです。僕らのシステムは、曲自体、曲の展開自体をインタラクティブに切り替えて行くというものだから、ゲームが盛り上がるところは音楽も盛り上がるし、谷底になったら間奏が入ったりとかします。で、ボスバトルもそろそろ終盤になったら後奏が流れて、ゲーム的に勝敗が決まった瞬間、ピシッと曲も終わるという。

――全然分からないです(笑)。

祖堅:ですよね(笑)。これをしっかり理解できるように話をすると1日かかっちゃうので、簡単に一言でこう説明しています。「PS5に『FF16』をインストールすると、一緒に“ミニ祖堅”もインストールされて、“ミニ祖堅”がみなさんのゲームプレイに合わせてリアルタイムに曲をその場で編集します!」と(笑)。

――それはバトル用に作った素材としての曲のなかから、AIが取捨選択して選んでいるようなものですか?

石川:いえ、もっと手作業なイメージです。もっと地道で、一つ一つを事前に計算して積み上げているという……。

今村:実際にプレイしてみながら、かみ合わないなと思ったら戻って、大本から作り直すみたいな。そういうラリーを延々繰り返しました。

祖堅:音楽を作るという芸術と、ゲームを作るというテクノロジーの融合を、ここで全部やっている感じです。

――構成を何分割していて、なにがトリガーになっていて、シームレスに繋がるようにどう工夫しているのか……気になる点が多すぎます。

祖堅:(笑)。プレイヤーのみなさんは、きっと最初は分からないと思いますよ。でも音楽がすごく気持ち良い演出をしてくれるはずなので、「このバトルはすげえ! 俺はいま、すげえバトルをやっている!」という感覚になるのですが、実は裏で個々のバトルを盛り上げるために、めちゃめちゃ難しいテクノロジーを使って、気合いで実装しているみたいな(笑)。

石川:結局は気合い(笑)。

今村:だいぶ気合いです!

祖堅:たとえばDisc6に収録されている曲がそうです。「Bastion – Stonhyrr」は、通常のインタラクティブミュージック的に流れる場所と、盛り上がるところをギュッとして1曲にしています。今回のOSTにはそういう曲がいくつか存在していて、その中の1つです。

石川:OST用に編集して1曲にしています。

――と言うことは、ゲームプレイの時に聴いていない音がある可能性も?

石川:あるかもしれないですね。

今村:戦闘のタイミングで変わりますからね。ただ戦闘に忙しくて、どの音が鳴っているか聴き取るどころではないと思いますけど。

今村貴文氏
今村貴文氏

――Disc2の「Hide, Hideaway」をはじめ、今村さんが手がけている楽曲は、アコースティックギターがメインだったり、民族音楽っぽい感じが多い印象でした。

今村:そうですね。『FF16』のテーマがダークファンタジーで、王道の中世ヨーロッパ調のファンタジーなので、全体にオーケストラの荘厳な楽曲が多いのもあって、自分でデバッグプレイしていても、ちょっと疲れちゃうんです。ダークファンタジー感に心が染まってしまうので(笑)、どうしても癒やし系とかもう少し軽い感じを取り入れたいなと思って作りました。鳴っている場所も、アコースティックギターが鳴っていてもおかしくない場所で、例えば拠点とかアジトとか。アジトで重厚な曲が流れていたらプレイする側も疲れちゃうじゃないですか。ゲームとしても間違いないところに、そういう曲を入れています。

――石川さんは、Disc2の「Control」や「Fall from Grace」など、壮大なオーケストラのアレンジを手がけているものが多い印象です。

石川:僕自身、学生時代からヴィオラを弾いていて、クラシック音楽をずっとやってきたので、自分がダークファンタジーの世界に寄り添うならオーケストラサウンドかな? と思い、その路線を攻めていきました。その部分では『FF16』ファンタジーの世界観に、結構忠実に寄り添えたかなと思います。

祖堅正慶氏
祖堅正慶氏

――いくつか気になった曲があったので、解説していただきたいと思います。まずDisc1の11曲目「On the Wind Borne – The Rosarian Ducal Anthem」は、酒場感がいいですね。

祖堅:まさに酒場で、兵士たちが酔っ払って自国の国家を歌っている様子です。これはボイスアクターさんたちにメロディガイドを送って歌ってもらった音源を、バラつきがありながらもある程度揃って聴こえるように、全部地道にエディットしました。『FF16』はボイスが6言語に対応しているので、CDに収録しているのは英語だけですけど、日本語もあって。日本語は、社内のスタッフ10人くらいに歌ってもらいました。

今村:僕たちも歌いましたよ、兵士として。

石川:おのおのが自宅などで録ったものを持ち寄ってミックスしているんですけど、実際に飲みながら歌っている方もいたようです(笑)。

今村:「酔っ払いの歌」だから、そのほうがリアルだよね(笑)。

――また、Disc4の「Sand and Stone – The Republic of Dhalmekia」は今村さんの作曲で、民族っぽさがあります。

石川:この曲は、歴史があるんです(笑)。

今村:『FINAL FANTASY XVI Original Soundtrack Ultimate Edition』に付属のDisc8に、この曲のモックアップが収録されています。13曲目の「The Republic of Dhalmekia – Unused」(ダルメキア-ボツ)がそうで、最初にこれを祖堅さんに送ったところ、「メロディが分かりづらい」とボツを食らって。何度もリレーを重ねて最終的に完成したのが、Disc4の「Sand and Stone – The Republic of Dhalmekia」です。ダルメキアのテーマとなる曲で、それにまつわるカットシーンだったり拠点の曲の元になっています。

――たしかにゲームをやっていなくても、ダルメキアがどんなところなのかイメージできるような曲です。

祖堅:今回そういう意味では分かりやすいですよ。変化球がまったくなく、ゲーム体験にストレートに曲を当てて行っているので。

石川大樹氏
石川大樹氏

――石川さんが担当したエリア曲はありますか?

石川:Disc5「Facets of Rage – Drake's Tail」は、拠点ではありませんが「クリスタル自治領」というエリアをテーマとした音楽です。ここを訪れる時は物語が大きく進行している最中のため、ストーリーとシチュエーションに合わせてオーケストラサウンドを派手に、バキバキに盛り上がる感じで作りました。これは結構すんなり完成したんじゃないかな。

――なるほど。ちなみに石川さんの楽曲でも、大変な変遷を辿った曲はありますか。

石川:Disc1の5曲目「A Rose Is a Rose」かな。この曲のメロディは、先ほどお話しした「酔っ払いの歌」と同じメロディを使って作っています。ロザリア公国のテーマとなるメロディで、その国の音楽ということで「A Rose Is a Rose」を作ったのですが、この前身となる曲が実は2曲あって、それが8枚目に収録されている「The Grand Duchy of Rosaria – Unused」(旧ロザリア-ボツ)と、「The Imperial Province of Rosaria – Unused」(新ロザリア-ボツ)です。「旧ロザリア-ボツ」は僕がメロディを作ったのですが、作った後でゲーム制作のチーム側から「酔っ払いの歌」のメロディで作ってくれと言われ、それで作ったのが「新ロザリア-ボツ」です。で、「新ロザリア-ボツ」を作り終えたものの、ゲームシチュエーションや世界観とのハマりが良くないと個人的に感じ、作り直したのがDisc1の「A Rose Is a Rose」です。なのでやり取りのリレーという部分では、この一連で祖堅には結構ご迷惑をかけてしまったかと…。

祖堅:いやいや、全然いいんだけど(笑)。「A Rose Is a Rose」を作るかどうかにあたっては、時間が間に合うかが心配で、OKを出すかどうか上司として迷いました。結構ギリギリだったし、他にもやることがある状態だったから。でも、ここまでやって自分の納得いかないものをゲームに乗せるのも悔しいだろうから、「じゃあ任せた!」と信じて任せたら、素晴らしいものができあがってきたから。「よし、これをすぐ乗せよう」って。

石川:信じていただけたのは嬉しかったです。ずっと面倒を見てもらっていますから、そろそろ貢献しないと! と思っていたので。

祖堅:十分貢献してるって。2人とも!

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