「FF ピクセルリマスター」パッケージ版はなぜ“限定特装版”のみの展開に? 海外市場との比較からその理由を考える

「FF ピクセルリマスター」なぜ“限定特装版”のみ?

 4月20日、「ファイナルファンタジー ピクセルリマスター」(以下、「FF ピクセルリマスター」)のパッケージ版が、PlayStation 4/Nintendo Switchで発売となった。

 JRPGの金字塔である「ファイナルファンタジー」シリーズの初期の6作品を、ピクセルアートで復刻した同パッケージ。今回のリリースにあわせ、両プラットフォームではダウンロード版も発売開始となったが、パッケージ版は、各種特典を盛り込んだ「限定特装版」のみの展開となっている。

 なぜ「FF ピクセルリマスター」パッケージ版は、特典を除いた「通常版」が展開されなかったのだろうか。同版が発売されている海外市場との比較から、その理由を考える。

シリーズ初期6作品をピクセルアートで復刻した「FF ピクセルリマスター」パッケージ版

【FFピクセルリマスター】Switch/PS4版プロモーショントレーラー

 「ファイナルファンタジー ピクセルリマスター」は、ファミリーコンピュータ/スーパーファミコンで発売された「ファイナルファンタジー」のナンバリング6作品を、2Dリマスター版として現代によみがえらせたシリーズだ。ドット絵をベースにしたピクセルアート風のグラフィックや、原曲のイメージを壊さないようリアレンジされたBGMなどが特長で、スタッフにはオリジナル版の制作に携わった渋谷員子氏、植松伸夫氏がクレジットされている。

 同シリーズはこれまでダウンロードソフトとして、AndroidやiOS、PC(Steam)で配信されていたが、今回「ファイナルファンタジー」の誕生から35周年を記念したキャンペーンの一環で、6作品をひとつのパッケージに収め、かつ新要素をくわえた限定特装版が発売となった。価格は33,000円(税込)。パッケージには各ソフトのほか、同作に登場する楽曲を厳選し収録したアナログレコードや、シリーズの発売にあたり新たに描き起こされたキャラクターなどを中心に掲載したピクセルアート集、6作品のゲーム内容やオリジナル版の開発資料をまとめた設定資料集、ドット絵のキャラクターたちを立体化したフィギュア8種セット、ゲームパッケージ用のチェンジングスリーブが同梱されている。

 同パッケージは2022年12月18日より予約がスタートしていたが、発売日が確定した4月6日にはすべて完売に。2023年5月2日現在、追加の生産・販売は発表されていない。なお、今回のパッケージ版発売にともない、PlayStation 4/Nintendo Switchではダウンロード版も配信開始となっている。価格は、『FINAL FANTASY』『FINAL FANTASY II』が1,480円(税込)、『FINAL FANTASY III』『FINAL FANTASY IV』『FINAL FANTASY V』『FINAL FANTASY VI』が2,200円(税込)。Steam同様、6作品をひとつにまとめたバンドル版(税込9,172円)も用意されている。

なぜ日本では「限定特装版」のみの販売となったのか

 「FF ピクセルリマスター」のパッケージ化を心待ちにしていたファンのなかには、今回の発売を歓迎する一方で、「付加価値を盛り込んだ高価格の特別版では手が出しづらい」「数量限定ではなく、通常販売してほしい」「収録タイトルを単品でパッケージ化してほしい」と感じた人もいただろう。ダウンロード版なら1万円弱で購入できるものが、豪華な特典付きとはいえ、3万円を超える価格設定であり、かつすでに完売となっているのだから、そうした声には頷ける部分がある。

 日本国内では限定特装版のみの販売となった「FF ピクセルリマスター」パッケージ版だが、実は海外では特典を除くゲームソフトのみでも販売されている。価格は74.99ドル。1ドルを140円で換算すると、1万円強ほどとなる。ネット上にある購入者の声を見るかぎり、違いはパッケージが外国語表記となっているくらいで、ゲーム内では日本語に対応しているようだ。

 いったいなぜ海外では販売されている「通常版」が、日本国内では販売に至らなかったのだろうか。巷では「日本市場からの搾取」と騒がれる機会も多いが、ここでは別の角度から考えたい。

 前提として、日本と海外では、ファンの考える「ファイナルファンタジー」シリーズの魅力が異なっている。海外と比較し、日本ではファミリーコンピュータやスーパーファミコンが現役だった頃から、リアルタイムに近い形で同シリーズは支持されてきた。「FF ピクセルリマスター」パッケージ版に収録されている『FINAL FANTASY』から『FINAL FANTASY VI』までの作品を“シリーズのあるべき姿”と考えるファンは少なくなく、直近に発売された作品たちには都度、“原点回帰”が求められてきた背景がある。2023年6月発売予定のナンバリング最新作『FINAL FANTASY XVI』の世界観・シナリオの根幹に「クリスタル」「召喚獣」といったキーワードが散りばめられているのも、そうしたファンの声に対するシリーズの回答だろう。

 一方、海外では、日本以上に直近のナンバリングが評価されてきた。実際に現時点での最新ナンバリングである『FINAL FANTASY XV』は、2022年5月に全世界累計販売本数1,000万本を突破しているが、その大部分が海外での売上だと言われている。「ドット絵」「コマンドRPG」といった性質よりも、「映像美」「現代的なアクション性」といった性質が支持されてきた背景があるのだ。参考に『FINAL FANTASY VI』の数字を挙げると、国内が約255万本、海外が約342万本となっており、およそ75%が日本市場での売上である。両者の違いは誰が見ても明らかだ。

 ここから考えられるのは、日本・海外という異なる2つの市場において、「FF ピクセルリマスター」が持つ意味の違いだ。「ファイナルファンタジー」シリーズがいわば懐古的に愛されている日本では、収録タイトル発売当時のプレイヤーをターゲットにしているのに対し、現行タイトルに盛り込まれた進化も好意的に受け止められている海外では、後発タイトルで同シリーズを知ったプレイヤーや、まだ同シリーズを知らない新しいプレイヤーをターゲットにしている面がある。それぞれの市場でシリーズの立ち位置が異なっていることにより、マーケティング的に別の意味を持っているのが「FF ピクセルリマスター」なのだ。

 その結果、国内では、40歳前後のある程度自由になるお金を持っているコアなファン層に向けた「限定特装版」を、海外では、より間口を広げるために誰もが手の出しやすい「通常版」を、といった形になっているのではないだろうか。もちろんこれは見方を変えれば、「日本市場からの搾取」と言えないわけでもない。しかしながら、今回のパッケージ版の評判などによっては、もしかすると今後、「通常版」や「単品版」の発売もあるのかもしれない。

 近年では、「オクトパストラベラー」シリーズなど、古き良きJRPGの息吹を感じる作品も話題を集めている。その系譜のなかで“絶対に外せないタイトルたち”を収録する同パッケージであるだけに、日本国内でもなんとか手に取りやすい形で流通することを期待するばかりだ。

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