『Adobe Illustrator』『Adobe Express』に生成AI実装 「誰でもクリエイターになれる」時代がすぐそこに
6月13日、アドビは同社の製品『Adobe Illustrator』『Adobe Express』へジェネレーティブAI『Adobe Firefly』を搭載したことを発表した。現時点では英語ベータ版のみで利用できるとのことだが、日本語版でも後日搭載予定とのこと。
『Adobe Firefly』を搭載したことで利用可能な機能として一番大きなものが「Generative Recolor」だ。テキストプロンプトの入力によってグラフィックの再配色をおこなえる機能で、複数のカラーバリエーションを手軽に・いくつでも生成可能になる。
この機能はこれまで実装された機能のなかでも、とくにクリエイターにとって扱いやすいものだろう。テーマに沿ったカラーパターンやイメージとなる単語をもとに再配色してくれる“ファジーさ”はかなり魅力的だ。あくまでも色の調整のための機能であるがゆえに、生成AIをめぐる著作権の問題を気にする必要がない点も大きい。これまでアドビが繰り返し発してきた「Copilot(副操縦士)」という表現がまさに似合う機能だといえる。
少々乱雑な言い方をすれば、「テーマやイメージをプロンプトで指定して再配色をする」というのは、アシスタントに「こんな感じのイメージで、なんかいい感じにやっといて!」と指示をするのと変わりはないだろう。もちろん、自分の望む仕上がりを一発で提示してくれることは稀かもしれないが、それは人間に依頼した場合でも同様だ。
公開されたビデオでも「vivid 80's vaporwave(ビビット、80年代、ヴェイパーウェイブ)」というプロンプトを入力し、しっかりとパープルやブルーの背景にイエローやピンク、オレンジなどを織り交ぜたヴェイパーウェイブ“っぽさ”を感じられる配色が提示されている。こうしたテーマ、イメージに沿った配色をその場で生成してくれるのは、学習モデルを持つAIならではの強みで、既存のカラーパレットツールと異なる点といえる。
もう一点注目すべきは、『Adobe Express』にも『Adobe Firefly』が搭載されたこと。もともと予告されていたことではあるものの、クリエイティブに明るくない人間でも手軽に利用できることを特長とする『Adobe Express』に、それをさらに加速させる『Adobe Firefly』の組み合わせは、最も親和性の高い組み合わせだろう。アドビが保有する大量のアセットを活用できるだけでなく、これからはAIによる生成物も利用可能となり、より手軽にクリエイティブを制作することができるのだ。筆者としては一番大きな変革をもたらす内容だと考えている。
公開されたデモでは、「ヤシの木が生えた夏の浜辺で一匹のカニが歩き回っているところ」というプロンプトで画像を生成、さらに「GREAT SALE」のフォントもAI生成で「オレンジのワイヤー」に変換、そのまま文字列を「SUPER SALE」に変更と、一連の流れのほとんどをAIにやらせてしまった。
プロンプトの入力と画像の再配置だけでここまでのコンテンツが作れるとなれば、飲食店や小売店にとってまさしく“片手間”程度の負担でSNSツールを活用するチャンスが生まれる。アプリ版に搭載されれば、その流れはより加速していくだろうし、正式版のリリースが今から楽しみだ。
アドビが『Adobe Firefly』を発表したのが3月の中旬ごろ、そこから約3ヶ月での実装となった。生成AIをめぐっては、日々目まぐるしい速度でアップデートがなされる状況が続いているが、アドビほどの大手がこのスピード感に追いついているのは素直に驚嘆すべきことだろう。同社はすでに企業向けに『Adobe Firefly』エンタープライズ版も発表しており、生成物をめぐって訴訟などをされた場合に補償を受けることが可能としている。逆説的にいえば「『Adobe Firefly』知的財産を侵害する画像を生成する可能性はゼロではない」という意味にも思えるが、自信のあらわれでもあるだろう。アドビが生成AIを社会実装する日が、すでにそこまで来ている。
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