ポケモンが工芸に? 人間国宝から若手まで20名の作家が挑んだ“美とわざ”の魅力とは

ーー本展覧会の見どころは?

今井:展示は、「すがた ~迫る!~」、「ものがたり ~浸る!~」、「くらす ~愛でる!~」の3部で構成されています。

 各アーティストの傾向や、ポケモンと工芸を掛け算で結び付けたときに、「こんなことが期待されるのではないか?」ということで考えついたのが、この3つのテーマです。

 「すがた ~迫る!~」では、ポケモンの姿かたちを質感豊かに表わし、存在感に迫った作品を展示しています。

 「ものがたり ~浸る!~」では、ポケモンと工芸の2つの世界観を行き来する物語を楽しめるようになっています。

 最後に、「くらす ~愛でる!~」では、装飾や機能などといった工芸の価値観にポケモンたちが飛び込んできたような作品(生活のシーンで活躍する工芸作品)を集めました。

 なお、アーティストの方々には、あらかじめ部構成であることをお伝えし、どのセクションに展示するかをご提案していました。

 ですから、各セクションのテーマからイメージをふくらませて制作に取り組んでいただいた方もいらっしゃいます。

 なお、「ものがたり ~浸る!~」には、ポケモンの姿かたちではなく、ポケモンの“わざ”をモチーフとした作品もあります。

 漆造形作家の田中信行さんはゴーストタイプの技“かげうち”と、ご自身の長年のテーマである漆黒の意味を重ね合わせました。またガラス作家の新實広記さんはこおりタイプの技“つららおとし”が見せる恐ろしさと美しさが共存したイメージをガラスで表現しています。

田中信行
無題
個人蔵 撮影:斎城卓
新實広記
Vessel -TSURARA-
個人蔵 撮影:斎城卓

 「ポケモンファンの方々にどのくらい伝わるだろうか」という懸念も少しありましたが、実際に会場にお越しくださった方々を拝見すると、インスタレーションとして、その場の雰囲気、そしてポケモンと工芸とが築いた世界観を楽しんでいらっしゃるようです。

 作品の横に掲示した解説をじっくりと読んで頷いていらっしゃったり、またご家族連れのお子さまが、「この“つららおとし”は、当たるとヤバいやつだから!」などと、お母さま、お父さまに熱心に説明されている場面も見受けられ、思った以上に見る方も“真剣勝負”で、作品のなかに入り込んでくださっている印象です。

ーー工芸の面白さ、魅力はどのような部分ですか?

今井:工芸の魅力を語るうえで、“用と美”という言い方をすることがよくあります。優れた機能性、そしてその美しさを指す言葉です。

 なぜ、その機能と美しさが追及されたか。それは本展の「くらす ~愛でる!~」のセクションとも関係してくるのですが……“LIFE”という英単語には、「人生・生きる」、「生活・暮らす」という意味がありますよね。

 私たちが、“生きて・生活”していくなかで、「こうだったらいいのにな」という願いと、行為を通してそれを実現していこうとする要素が工芸にはたくさん詰め込まれています。

 たとえば水を飲むには、紙コップでもどんぶりでも、もっと言えば手で飲んでもいいわけです。しかしみなさん、自分の好きなカップってありますよね。

 お気に入りのカップを使うことでちょっと元気になったり、生活空間のなかにあるだけで気分が上がったり、触れると「気持ちいい」と思えたり……。

 人間は生きていくうえで、克服していかなければならないことも多いですが、“心豊かに生きて生活”するツールの、もっとも身近なものが工芸だと思うんです。

 工芸には、多くの知恵が盛り込まれ、しばしば使う人への愛情……たとえば「快適でありますように」、さらには「健やかでありますように」といった願いも含まれています。しかも、それをいちいちと主張しない。しかし、私たちは数々の工芸とそれを手掛けた人の想いに支えられながら日々を送っています。

 また、最近は多様性という言葉をよく耳にしますが、まさに日本の工芸は多様性の権化です。

 西洋のお皿だと、ある程度決められたサイズ感で展開していますが、日本の工芸は、お皿とも鉢との境界も曖昧な器も多いです。

 海外の器とは比べ物にならないほど、多様な形状があるんですよね。

 たとえば英語にするとBowl(ボウル)と訳される器を見てみると、汁椀、飯碗、蓋物、盒子(ごうし)、向付、猪口(ちょく)、玉割、中付など、さまざまな呼び方をします。このように種類(名称)が多いのは、それは作った人・使う人への思いが込められているからです。

 これらが、まとめて食卓に置かれたとしても、かたちはバラバラだけど一緒にあることでそこにハーモニーが生まれる。それはまさに、異なるものを認め合う多様性ということでもあります。

 以上のようなことが、工芸の面白さのひとつだと思っています。

 そして、この多様性、あらゆるものに価値を見出せる文化というのは、まさにポケモンにも通じることだと感じています。

ーー「ポケモンは好きだけど工芸に詳しくない」という人は、本展をどのように楽しめばいいですか?

今井:まずは、好きなポケモンがいるかどうかを探してみるのも楽しいと思います。お気に入りのポケモンたちの迫力に満ちた存在感と向き合ったり、文様や機能になりきったその活躍ぶりをぜひ見届けてください。

 また、好きなポケモンがいなかったとしても、展示している作品を通じて「こんなポケモンもいたんだ」、「このポケモンの姿かたちはこんな風だったんだ」と観察しながら、そのどんなところにグッときたのかを探ってみてください。ご自身の感性を奮い立たせながら、出会いと発見を楽しんでいただければと思います。

 また、本展は写真撮影も可能です(フラッシュ、三脚撮影、動画撮影は禁止)。SNSでハッシュタグ「#pokemonxkogei」をつけてつぶやいていただけば嬉しいです。

 このような展覧会で作品を見るときには、基本的には“作品と私”という1対1の関係ですが、たとえばSNSを通じて、ほかの方の感想や見方を知ることによって、「それって、そういうことだったんだ!」など、また新たな発見が生まれることもありますよね。

 展覧会という物理的な空間のなかだけではなくて、家に帰ってからも、あるいは展覧会に来るまえからも“その展覧会で何が起きてるのか”ということを楽しんでいただけたらと思います。

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